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こども食堂は第2ステージへ 地域性の獲得に向けて

湯浅誠社会活動家・東京大学特任教授
「誕生期」とも言える第1ステージをすぎて、第2ステージへと入っていくこども食堂

誕生がニュースだった第1ステージは終わった

こども食堂をめぐる報道が、一段落しつつあるかに見える。

「ここにもできた!あそこにも!」と誕生がニュースだった段階が終わりつつあるのだろう。

必然だし、悪いことではない。

誕生した後は、立って歩く。その段階に入ったということだろう。

いわば第2ステージだ。

その第2ステージを無事にクリアして先に進むために、課題を整理したい。

現在の課題は5つ

全国のこども食堂関係者と意見交換する中で、

現在の課題は、だいたい次の5つに集約されることがわかってきた。

1)人

スタッフやボランティアなど運営側の人。

こども食堂の開催頻度は週数日から月一回などまちまちだが、調理やこどもの相手など、運営側スタッフの確保に苦労しているところがある。

2)お金・食材

人件費はかからないにしても、協力者からの食材提供や農家・農協とのつながり、また食材の適切な保管場所がないと、毎回食材を買うことになる。また、公共施設などを利用する場合には場所代もかかる。

金額は大きくなくても、毎回持ち出しが続くとキツくなってくる。

3)場所

それなりの人数の食事をまとまって作ろうと思えば、個人宅には限界がある。かといって、公共施設の調理室が、開催日に確実に確保できるとは限らない。

狭くても個人宅でがんばって開催しているところもあるし、教会やお寺などが安定的に場所を提供している事例もあるが、場所の確保に苦労している団体もある。

4)広報・周知・連携

この相手は、多様だ。

自治会・PTAなどの地域団体、自治体や学校などの公的機関、企業や地元住民諸個人、果ては当の子どもたちまでが広く含まれる。

こども食堂についての広報がされ、届けたい人に広く行き渡り、しかるべき人が情報を広めたり、人を紹介したり、何か協力できることを見つけてくれたりするのが理想だが、必ずしもそうなっていないところが少なくない。

5)2つのホケン(保健と保険)

公衆衛生上の設備や運営といった保健所基準のクリアという意味での「保健」と、子どもたちがケガをしたり、事故にあったりした際に対応すべき「保険」。食中毒やアレルギーへの対応も含まれる。広い意味でのトラブル対応。

すべての団体が1)~5)すべての課題を抱えているわけではなく、ある団体は1)と5)が課題、別の団体は2)3)4)が課題というように、中身も異なれば、それぞれの深刻度も異なるが、ワークショップなどで各団体の課題を足し上げていくと、だいたいこの5つが上がり、そしてこの5つに収まる場合が多い。

人を集め、場所を確保し、食材を調達し、調理するのは毎回大変(写真はすべてイメージで、本文と直接の関係はありません)
人を集め、場所を確保し、食材を調達し、調理するのは毎回大変(写真はすべてイメージで、本文と直接の関係はありません)

第2ステージをクリアするために必要なこと

5つの課題はいずれも重要で切実なものだが、単に課題を列記するだけでは「そうだろうね」でおしまいだ。足らない。

限られた時間と労力で、これらの課題にいかに取り組んでいくか、実践的に考える必要がある。

「第2ステージをクリアするために」という観点から、特に強調したいのは以下のことだ。

運営者のプライオリティは、特に「人・カネ・場所(1~3)」にあり、

外部の関心・懸念は、特に「2つのホケンと広報周知(4、5)」にある。

ここのすれ違いが、第2ステージの最大の課題だと思う。

当然だが、運営者は内側から見ている。

毎回の開催に気をもみ、さまざまな配慮をし、雑用も含めて実務をこなす。

人繰り、資材・食材の調達、場所の確保という「それがなければ開催できないもの」に注意が向きがちだ。

他方、広報や2つのホケンは、1~3に比べると+αに見えてくる。「なんとかしなければと思っているし、できればなんとかしたいのだが、そこまでの余力がなかなかない…」というところで、どうしても後回しになりがちだ。

他方、外部の人たちは、そこにこそ注目している

たとえば学校との連携を考えてみる。

よく、運営者から「学校との連携がうまくいかない」という話を聞く。

そのとき、しばしば「良いことをやっているのに、理解してくれない」というニュアンスが込められている。

ただ学校では、こども食堂に理解のある先生Aと、よく知らない先生Bとの間で、こんな会話が交わされている。

学校での会話を想像してみる

学校の中では…
学校の中では…

先生A「あの子、全然食べてないみたいなんですよね」

先生B「そうそう。この前も他の子が残したパンを勝手に盗ろうとして…」

先生A「これから夏休みに入ると給食もないし…。大丈夫ですかね?」

先生B「そうですね~」

先生A「なんか最近〇〇地区でこども食堂とかって始まったらしいんですよね。ほら、ちょいちょい新聞とかに出てるやつ。ちょっと言ってみようかな…」

先生B「…誰がやってるんですか?」

先生A「よくは知りませんけど…」

先生B「どうかな~。あんまり勝手に動くと親御さんが何言い出すかわかんないし…。それに食事は結構デリケートですからね。ちゃんとした人たちがやってるかどうかもわかんないんでしょ?なんかあったら、こっちの責任にもなりかねないし…、教頭に相談してからのほうがよくないですか?」

先生A「……」

「なんかあったら」問題

教頭に相談しても、校長や教育委員会に相談しても、反応は変わらないだろう。「なんかあったら」問題は、一歩踏み込む気持ちを萎えさせる力をもつ。

責任問題に敏感な学校現場はとりわけそうだろうし、そこまでいかなくても自治会やPTAの中でも、こんなやりとりがなされている可能性は高い。

いや、むしろそういう展開になることが容易に予想されるだけに、そもそも言い出さない先生Aが多数ではないかとさえ思う。

そうなると、なかなか広がらないし、話題にのぼらない。

結果として理解者も協力者も増えないし、肝心の子どもやその親たちに情報が行き渡らない。

「どれだけ安全・安心か」という問い

運営者にとっては「次も無事に開催すること」が重要だが、

外部からは、開催は前提で、そこが「どれだけ安全・安心な場所か」が重要になる。

そのとき「ちゃんとしているかどうか」、せめて「ちゃんとしようとしているかどうか」がモノを言う。

具体的には、2つのホケン問題をクリアしているか。クリアしていることがチラシ等に書かれているか。

アレルギー対応などは、正規の事業者だって完璧にはできていない。

でも、それを意識し、打てる手を打っているか、あるいは打とうとしているか、それともそれについての姿勢がまったく見えないかで、外部の受け取り方は違ってくる。

仮に意識していても、それが外側から見えなければ「課題と認識していない」ように見られることもある。

保健所の対応は自治体ごとにまちまちだし、保険も、来た子どもたちに等しく、幅広く適用できるものとなると金額も張る。食中毒やアレルギーに至っては、どこまでやっても「その先」がある。

今日思い立って明日完璧になるというものではないが、意識して対応を積み重ねている姿は示していきたい。

安心感を広げることで理解者・協力者を増やす

運営サイドの人たちも、課題はすべて見えている。

ただその順番が、無意識にも「人・カネ・場所の課題をクリアして、余力があればさらなる広報やホケン問題も」となりがちなだけだ。

しかしあえて言えば、第2ステージの順序は「ホケン問題をクリアして、安心して子どもを来させられる場所だとわかってもらうことを通じて関心層や協力者を増やし、理解のすそ野を広げていくことで人・カネ・場所の課題も解決していく」という進み行きが望ましい。(注)

なぜならそれが、こども食堂が地域性を獲得していくために必要なことだから。

子どもは地域の中で暮らしている。その子どもたちに対応するこども食堂が地域性を獲得できないと、子どもたちが安心して行ける居場所にはならない。

何かの拍子に話題に上ったとき、大人たちがどういう顔つきでこども食堂について話しているのか、子どもたちはよく見ている。

心配そうな表情や疑心暗鬼の表情は、そのまま子どもたちに「そういう場所なんだ」というメッセージとして受け取られてしまうだろう。

子どもたちが気兼ねなく、安心して来られる場所であってほしい
子どもたちが気兼ねなく、安心して来られる場所であってほしい

テーマは「地域性の獲得」

第2ステージのテーマは「地域性の獲得」。

それが、こども食堂が「立って歩く」ことの基盤を整備し、条件を整えていく。

そしてその先に「地域に必要なインフラとして定着する」という第3ステージが見えてくる。

「地域に必要なインフラ」は自称ではいけない。「地域にあってくれないと困る」と周囲が感じるようになって初めて「地域に必要なインフラ」となる。

地元密着型の企業が目指すのは、あくまで「地域に愛される会社」。「必要なはずだ」と自分たちで思っているだけでは愛されない。それと同じだ。

気張るとき

現場を回すのは大変だ。

私もさんざんやってきて、その大変さは骨身に沁みている。

だから簡単に「人・カネ・場所はなんとでもなる」などと言うつもりはない。コアメンバーに、大事なことだけでなく雑用も集中してしまう構図も構造も、よくわかっているつもりだ。

しかしその上で、なお、今は気張る時期だと思う

こども食堂は、いっときのブームを引き起こした。それは、運営者たちそれぞれの思いや意図を超えて、社会的な期待値を高める。

そして高まった期待値は、やはり運営者の意図を超えて、しぼみやすい

周囲の勝手な期待など、上がっても下がっても責任はとれない。それはその通りだが、同時にそれに影響されざるを得ないのも事実だ。

その「周囲」には、地域のさまざまな立場の人たちが含まれているから。その人たちも、さらに「周囲」のいろんな声に影響されるから。そこに当の子どもたちも含まれているから。

関係者の日々のご努力に深い敬意を表しつつ、健闘を祈りたい。

栄養のバランスに配慮された食事。これを毎回準備するだけでも大変なご苦労だとは思うのだが…
栄養のバランスに配慮された食事。これを毎回準備するだけでも大変なご苦労だとは思うのだが…

―――――

*注

ここは選択の問題だ。

こども食堂は、そのすべてが地域共生型で実施されているわけではない。

少数の、特定の子どもたちと深い関係を築くために、あえてクローズドに近い形で運営されているところもあるだろう(「こども食堂」と名乗っているかどうかも無関係)。

そうしたところは、すでにつながっている子どもたち、およびその子どもたちのネットワークで連れてこられる子どもたちへの対応をすることで手一杯で、またそれで十分だと考えているかもしれない。

それは個々の運営者が決めることで、私はそれがこども食堂として不十分とか不適切とかは思わない。多様な形態を受け入れられるところに、こども食堂のメリットがあると思ってきたからだ。

課題は、地域共生型を志向しているにもかかわらず、ホケンや広報が後手に回ってしまっている場合にある。

その意味では、第2ステージは個々のこども食堂に今後の方向性の選択を迫ることにもなるだろう。どの方向にむけて歩き出すか、それが問題だ。

なお、こども食堂の理念型による分類については、拙稿「『こども食堂』の混乱、誤解、戸惑いを整理し、今後の展望を開く」を参照。

社会活動家・東京大学特任教授

1969年東京都生まれ。日本の貧困問題に携わる。1990年代よりホームレス支援等に従事し、2009年から足掛け3年間内閣府参与に就任。政策決定の現場に携わったことで、官民協働とともに、日本社会を前に進めるために民主主義の成熟が重要と痛感する。現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授の他、認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長など。著書に『つながり続ける こども食堂』(中央公論新社)、『子どもが増えた! 人口増・税収増の自治体経営』(泉房穂氏との共著、光文社新書)、『反貧困』(岩波新書、第8回大佛次郎論壇賞、第14回平和・協同ジャーナリスト基金賞受賞)など多数。

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