「こども食堂」の混乱、誤解、戸惑いを整理し、今後の展望を開く
急な広がりと、疑問・戸惑い
こども食堂が急速に広がっている。
同時に、こども食堂に対する疑問や戸惑いを聞く機会も増えた。
「こども食堂とは何なのか?」
「子どもの貧困対策なのか?」
「大人は行っていいのか?」
「誰のため、何のためにやるものなのか?」
「目指すところはどこなのか?」
定義も枠組みもないままに…
明確な定義も枠組みもないまま、その敷居の低さ、とっつきやすさから
「何かしたい!」という自分の気持ちを表すための一つの手法・ツールとして広がっているこども食堂。
同時に、何がこども食堂かをめぐっては混乱も見え、多くの疑問や戸惑いを生んでもいる。
人々の自発的な取り組みを歓迎しつつ、混乱がその広がりに水を差すことがないように、
「転ばぬ先の杖」として、論点整理を試み、今後の展望を開く。
理念型でタイプ分け
実はこども食堂は多様だ。
そのため「こども食堂って、どうかと思うんですよね」と誰かが言うときには、
まずその人が何をこども食堂と思っているかを聞かなくては議論がかみ合わない。
そこで、まずは理念型を整理したい。
極端化、単純化は承知の上で、4つの理念型を示す(図1)。
軸は2つ
軸は2つだ。
ヨコ軸は、ターゲット(対象者)。
貧困家庭の子どもに絞り込むかどうか。
タテ軸は、ビジョン(目的)。
課題を抱える子どもに対するケア(ケースワーク)にあるのか、地域づくりにあるのか。
メインはB型とD型
現実のこども食堂、そして運営している人たちが目指しているこども食堂を考えると、
おそらく大多数のこども食堂は、
対象を限定せず、交流に軸足を置くB型、または
貧困家庭の子を対象に、課題発見と対応(ケア、ケースワーク)に軸足を置くD型
に属するだろう。
B型:プレイパークの食事版
貧困家庭の子たちだけを相手にするわけではない。
そうでない子どもたちも、そしてまた大人たちにも、来てほしい。
多くの人たちがごっちゃに交わる交流拠点のイメージ。
みんなでわいわいやりながら、食卓を囲み、思い思いに過ごす、寄り合い所のイメージ。
さしあたり、B型を「共生食堂」と呼ぶ。
D型:無料塾の食事版
もう一つの典型例がD型だ。
たとえば貧困家庭の子に学習支援を行う無料塾がある。
行政や学校の紹介で子どもたちが通い、教師経験者や大学生など一定のノウハウを持つ者が対応する。
それの食事版とイメージすると、わかりやすい。
無料塾が学習面での相対的落ち込み(格差)を挽回するために行われるように、D型は食事面・栄養面での相対的落ち込みを挽回するために開かれる。
そして、一緒に食卓を囲むことを通じてつくられた信頼関係を基礎に、家族のこと、学校のこと、進路のことといった子どもの生活課題への対応(課題解決)を目指す。
さしあたり、D型を「ケア付食堂」と呼ぶ。
対象を限定しないで個別サポート指向のC型と
貧困家庭の子に限定しつつ地域づくりを指向するA型は、
派生形だったり、レアケースだったりするので、ここでは割愛する。
(詳しく知りたい方は脚注をご覧ください)
共生食堂とケア付食堂
以上を整理すると【図2】となる。
話をなるべくシンプルにするために、これからは「共生食堂」と「ケア付食堂」の2タイプに理念型を代表させて、話を進める。
対極的な両者
「共生食堂」と「ケア付食堂」は、いろんな点で対照的だ。
両者の違いは、対象者とビジョンだけでなく、
運営方法や運営上の着眼点、
望ましい担い手(スタッフ・ボランティア)像の違いにも及んでいく(【表1】)。
「同じ『こども食堂』という名称を使うこと自体に無理があるのでは」と感じても不思議ではない。
どうしてこうなったか
以前に取り上げたように「こども食堂」の名づけ親は、気まぐれ八百屋「だんだん」の店主・近藤博子さんだ。
「だんだん」とは、島根の方言で「ありがとう」の意。
近藤さんが目指していたのは、「ありがとう」を言い合えるコミュニティづくり。
島根県産の健康的な野菜を取り扱いながら、店舗の一角を地域交流拠点としてさまざまなプログラムを増やしてきた。
「だんだん」で生まれた各種のプログラムは、すべて一人のニーズ、一人のアイディアから出発したもので、
それを個人レベルで完結させるのではなく、地域の関係者を巻き込みながらプログラムにしていくのが近藤流だ。
名づけ親のイメージは共生食堂
したがって、こども食堂も「だんだん」にとっては数あるプログラムの一つにすぎず、当然に共生食堂を前提にしたものだった。
「だんだん」のこども食堂のモットーは「孤食を防ぐ」。
そこに大人も子どももない。
ただ、子どもには特に家庭と学校以外の居場所が少なく、
特に「ここに来てもいいんだよ」と呼びかける必要がある。
そこで「こども食堂」と命名する。
そんな経緯だ。
子どもの貧困対策に乗って
ところが、幸か不幸か、近藤さんが「こども食堂」の看板を掲げた2013年は、子供の貧困対策推進法が生まれた年でもあった。
その後、子どもの貧困に対する社会的注目の高まりの中で、
こども食堂は、学習支援(無料塾)と並ぶ子どもの貧困対策の主要メニューとなっていく。
その中で、ケア付食堂も増えていった。
共生食堂とケア付食堂という2つの中心を包み込む楕円だったからこそ、
こども食堂はさまざまな考え、指向性をもつ人々の思いを受け止める存在になりえた(【図3】)。
だから広がった。
“ねじれ”が生じている
同時に、社会的には、こども食堂は、ある意味では過度に子どもの貧困問題と結びついていった。
だから同時に、違和感も広がった。
その違和感は、こども食堂を共生食堂としてイメージする人たちに特に強い。
「こども食堂という名称がよくない」という言葉をよく聞く。
そこには「こども食堂は子どもの貧困対策であり、ケア付食堂のイメージが強いが、自分が必要だと思うのは共生食堂だ」という含意がある。
社会的にそのイメージが強いのは、その通りだ。
他方、近藤さんなら言うだろう。「こども食堂は、もともと共生食堂なんですけど」と。
“ねじれ”が生じているのだ。
こども食堂と名乗らないものもある
加えて、世の中には子どもの貧困問題が注目される前から、またこども食堂という言葉が生まれる前から、
同様の活動をしてきた人たちがいる。
その活動には、共生食堂もケア付食堂もあるが、いずれもこども食堂とは名乗っていない。
したがって世の中には、
1)こども食堂と名乗る共生食堂
2)こども食堂と名乗るケア付食堂
3)こども食堂と名乗らない共生食堂
4)こども食堂と名乗らないケア付食堂
の4パターンが存在していることになる。
名称と機能を分けて考えないと、混乱は避けられない(【表2】)。
行政も気をつけてほしい
行政の方たちも、ぜひ気をつけていただきたい。
最近では、こども食堂に補助金をつける自治体が増えてきている。
結構なことなのだが、名称と機能を区別しながら「自治体として何を応援したいのか」を明確にしながらやらないと、
意図せずして混乱に拍車をかける結果を招く可能性もある。
さしあたりは「こども食堂(共生型)」「こども食堂(個別サポート型)」など、名称と機能を併記して対応されることをお勧めする。
目線を合わせ、原点に戻る
しかしこの“ねじれ”は、誰かがどこかでこども食堂の概念をねじ曲げたといった問題ではない。
誰かに悪気があるという話ではない。
急速な広がりと、疑問・戸惑い・違和感は、切っても切れない、背中合わせの現象だ。
だから、何かを「そんなのはこども食堂ではない」と言って否定することで事態の収拾を図ろうとすべきではない。
たしかに混乱は収束するだろうが、それではこども食堂の豊かさも失われてしまう。
本末転倒だ。
目線を合わせ、原点に戻ることで、おのずと展望は開けてくる。
補い合う発想で
ここまで、共生食堂とケア付食堂という2つの理念型をあえて対比させる形で、
両者の違いを際立たせる形で議論を進めてきた。
混乱しているものを整理するためには、一度明確に分離したほうがわかりやすいからだ。
しかし、現実のこども食堂は両者の機能を幾分かずつでも併せ持っている場合が多い。
「ケアなどどうでもいい」という共生食堂もなければ、「共生など必要ない」というケア付食堂もないだろう。
重点の置き方が異なるだけだ。
そして双方にメリットとデメリットがある(【表3】)。
だとしたら、両者がお互いを補い合えばいい。
原点は、子どもの利益だから。
こども食堂という名称は副次的要素
補い合うレベルは、さまざまにある。
一つの団体が両者の機能をともに十全に併せ持つことは難しいだろう。
運営方法一つとってみても、オープンとクローズドという性格の違いがある以上、完全な両立は難しい。
しかし、折衷的な性格のこども食堂があっていけない、ということはない。
また、一つの地域の中で棲み分け、連携することも可能だろう。
子どもの生活は毎日ある。子どもによっては毎日がサバイバルのはずだ。
他方、毎日やっているこども食堂はまれだ。
だとしたら、相互に紹介し合えばいい。
要は、子どもを支える地域の機能が整っていけばいいのだから、
共生食堂、ケア付食堂の機能が充足されているか、で考える。
こども食堂という名称がついているかどうかは、副次的な問題だ。
強みを生かす
子どもの貧困対策だけに目を向ける必要もない。
すでに多くの人が気づいているように、子どもの貧困問題を子どもの貧困対策だけで解決することは不可能だ。
子育て支援系、高齢者支援系、障害者支援系なども広く視野に収めれば、
思わぬところに活用できる資源が見つかるかもしれない。
福祉系にだけ限定する必要すらない。
商工観光系、農林水産系の人たちだって、気持ちはある。
コトは子どもと食に関わっている。
これほど普遍的で「強い」テーマはない。
強みに目を向ければ、より大きな視野で地域を捉える視点と、その自信も生まれてくるだろう。
地域をデザインする視点
いずれにしろ、重要なのは地域をデザインする視点だ。
こども食堂を設立・運営する人がいなければ始まらないことはもちろんだが、
内側を見る視点だけでなく、外からこども食堂を見る視点も必要だ。
校区や地域全体を俯瞰しながら、
どんな機能が足りないのかを考え、
足りないものを戦略的に補っていくこと。
このような視点をもった人材がこども食堂に関わっていけば、
共生食堂とケア付食堂はともに地域に欠かせないソフトインフラとして、
地域の活性化と発展に寄与する存在となるだろう。
息の長い取り組みだからこそ
こども食堂をめぐる”ねじれ”は、両足が交差しているようなものだ。
そのままで前に進もうとすれば、倒れてしまう。
しかし、両者の交差をといた上でお互いが補い合えば、
しっかりと前に進むことができる。
息長く展開していくことが求められる取り組みだからこそ、
ボタンの掛け違えは、初期の段階で修正しておきたい。
(脚注)
対象を限定しないで個別サポート指向のC型と
貧困家庭の子に限定しつつ地域づくりを指向するA型は、
実際にはあまりない形態だ。
C型は、D型の派生形として表れることが多い。
「貧困家庭の子だけと言うと、貧困家庭の子が来づらくなるので、どなたでもどうぞと言っている。でも本当に来てほしいのは貧困家庭の子」というような場合だ。
本当にやりたいのはD型なのだが、戦術的にC型をとっている。
A型は、こども食堂としてはさらにレアだろう。
フードバンクが貧困家庭の子に食料支援を行うために、
家庭の食材を持ち寄ってもらうフードドライブを行ったり、イベントを行ったりして、
地域全体の雰囲気を高める、
というような場合が考えられるが、
こども食堂を名乗るケースは少ない。
したがって、本稿ではこども食堂の機能を共生食堂とケア付食堂に代表させることにした。