「岡田イズム」は人生の指針―“岡田チルドレン”・的場寛一氏(阪神OB)が明かす岡田彰布監督
■“岡田チルドレン”の的場寛一氏
2024年シーズンの開幕カード、読売ジャイアンツ戦を1勝2敗で終えた阪神タイガース。その戦いぶりに「3連敗はまずいけど、1勝2敗なら十分。マイナス3とマイナス1じゃ全然違うから。スタートとしてはいいんじゃないかな」と語るのは、タイガースOBの的場寛一氏(1999年ドラフト・1位)だ。
「岡田監督も、スタートダッシュはそんなに気にしてないんじゃないかな。もっとどっしり落ち着いて見ていると思う」。
かつての師の心中を、こう推察する。
2005年シーズンを最後にタテジマを脱いだあと、社会人野球で活躍し、その後は各方面で活躍する的場寛一氏は、いわゆる“岡田チルドレン”だ。タイガース在籍時には岡田監督の指揮のもと、その薫陶を受けてきた。
とくにファームで汗を流していたころ、当時の岡田ファーム監督から得たものは数知れず。
「僕はね、それまでアマチュアで教えてもらった野球の概念というのを覆されたね。『これまでの基本って、なんやったんやろ』っていうくらいの、いろんな角度からの見方をする監督やなと思った」。
その指導内容、戦法は驚きの連続だったという。
■サインの意味
中でもとくに記憶に鮮明に焼きついていることがあると振り返る。
「ノーアウト二塁の場面で、僕はとにかく反対方向に打ってランナーを進めようとして、結果、セカンドゴロで1アウト三塁にして『最低限の仕事はした』と思ってベンチに帰った。そしたら試合後に怒られたんよ」。
それがなぜいけなかったのかを問われ、正直に「わかりません」と答えた的場氏。
「サインは『打て』やったんやけど、僕は自分のタイプ的にと考えて反対方向を狙ったんよ。そしたら岡田監督に『どこでもいいから強い打球を打てということや。たとえ強い打球のショートゴロで進塁できなくても、それはベンチの責任やねんから。何をお前、しょうもない小細工しとんねん。ピッチャーのほうがレベルが上やと思ったら、送りバントとか進塁打のサインを出すんやから』って言われて…」。
つまり打者・的場選手と相手投手の力量を計り、的場選手のほうが優っている、ヒットが打てると見込んだのだ。
「なんかね、怒られてるのに、めっちゃ嬉しくなって(笑)。俺、あのピッチャーを打てると思われてたんやって。ほんと、後頭部を叩かれた感じで、そんな見方をしてるんやと。こういう怒り方、いいなと思ったね」。
以来、岡田監督のサインの意味を深く考え、理解してプレーするようになった。
■信じてついていこうと思わせてくれる
盗塁に関してもそうだ。
「岡田監督がサインを出すということは、ランナーの秒数やキャッチャーの肩、ピッチャーのクイック、すべて考えて出してくれてると思うから、勇気を出して走れるわけ。これであかんかったらしゃあないやろってくらいの気持ちで走れる。去年のタイガースもスチールのサインを出されていたらしいけど、ちゃんと裏付けがあって出していたと思う」。
岡田監督は就任時、「グリーンライト」の撤廃を口にし、盗塁王のタイトル保持者である近本光司選手や中野拓夢選手からもそれを剥奪すると公言した。
「思いきりのよさを植えつけてくれる監督やと思う。だから口数は少なくても、選手にメッセージはちゃんと伝わる」。
信じてついていこうと思わせてくれるという。
■指導者としても、ビジネスマンとしても「岡田イズム」が息づく
的場氏はタイガースを退団後、社会人野球のトヨタ自動車に入った。そこでも岡田イズムは役に立ったと振り返る。
「すごく活かさせてもらった。後輩にも『こういう考え方があるんやで』って、岡田さんのやり方を前向きに伝えていった。トヨタの選手は高校、大学とエリートで通ってきた選手が多かったけど、『そんな考え方、あるんですね。こんなこと、教えてもらったことないです』って驚いていた」。
かつて自身が受けた驚愕を、後輩たちが同じようなリアクションで聞いているのがおもしろくもあったし、それを吸収して成長してくれることが楽しかった。
現在は指導者として独立リーグの北海道フロンティアリーグに所属する石狩レッドフェニックスと、軟式野球の企業チームであるユー・エス・イーに携わっているが、指導する上で「岡田野球がベースになっている」という。
「『バタバタすんな』っていうのが岡田さんの口癖やった。『どっしりと』『普通に』って。コーチをしていても、『ここは1点(献上しても)ええやろ』と落ち着いていられる。肉を切らせるというか、序盤で変に1点失うのを嫌がって傷口を広げることないなって、冷静に考えられる」。
肉を切らせて骨を断つ―。目の前だけを見るのではなく、大局的な見地に立って先を見通せる冷静さが身についたのは、岡田監督と接してきたからだ。
また、経営者でもある的場氏にとっては「ビジネスにもつながっている」とうなずく。「一喜一憂しなくなったのも、岡田さんの教えから。目先のことでわちゃわちゃ言うんじゃなしに、長い目で見て考えられるようになった」と、これも恩師に感謝している。
離れた今も、抱くのはただただ畏敬の念だ。
■春季キャンプで目にとまった若虎は
2月は春季キャンプを視察しに、先輩の川尻哲郎氏とともにタイガースのキャンプ地である沖縄を訪れた。
「ピッチングスタッフは充実していて、活気がすごかった。安心やなと思ったよ。目についたのは門別(啓人)くん。『いい、いい』って周りは言うけど、実際に見たらほんまにいい(笑)。角度あるし、コントロールもいい。投げ方…僕は野手やから細かいフォームはわかんないけど、やっぱフォームがいいなと。バッター目線で、インコースにあれだけ力ある球を投げられたら嫌やな。投げミスも少ないと思うし。ほんまに19歳?(笑)」。
紅白戦も見て、その力を再確認した。
野手では「山田(脩也)くんの守備、あれも高校生とは思えない。レベルが高い。スター性を感じるね。あとは体の強さとバッティングかな。でも、バッティングもウエスタンでも打ってるよね」と、将来有望な若虎をチェックしてきた。
■次代を担う若虎の台頭を願う
今年のタイガースについては、「レギュラークラスはケガさえしなければね。去年、自信もつけただろうし。あとは、そのレギュラークラスを脅かすような若手の追い上げが欲しいね。『食い潰すぞ!』っていうくらいの勢いのある若手がね」と要望を口にする。
主力の年齢層が若いタイガースだが、常勝王国を築くためには次の世代の台頭が必須だ。的場氏は、若虎にはもっともっとアグレッシブにアピールしてほしいと願う。
自身の若手時代を振り返り、「僕も現役のときは必死でアピールしていた。バックホームの送球にしろ、ベースランニングにしろ…。ヒットを打った後のベースランニングは誰よりも全力疾走していて、片岡(篤史)さんに『お前、いいランニングしている。それ、続けろよ』って褒めてもらって、自信になった」。
一生懸命やっていることは、必ず誰かが見てくれている。「岡田さんは、そういうのを見ているはず」と、どんどん自身を売り込むことが重要だと説く。
■「岡田イズム」で夢に向かってつき進む
以前に伝えたように、的場氏はいずれ地元の尼崎市でスポーツと融合した町おこしイベントを立ち上げたいと考えている。(詳細記事⇒「少しでも勇気づけたい」神戸で震災イベントの司会に初挑戦した元阪神ドラ1・的場寛一さんが描く夢)
先月は尼崎市で行われた「WAの祭典・ENMUSUBI」の司会を務めた。再建された尼崎城をバックに、歌やファッションショーなどのステージイベントの進行を担当し、夢への足掛かりとした。
一歩ずつ夢に向かって進んでいる的場氏の根底には、常に「岡田イズム」が息づいている。今後も広い視野で周りと先を見て、慌てることなく「どっしりと」「普通に」腰を据えて取り組んでいく。
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