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敵味方ナシの信頼ネットワークでグルメサイト超え!メジャーの管理栄養士の舞台裏を覗く。バナナも常備!

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 近年のプロスポーツチームでは、いかにして選手が持てる能力を発揮できるかに力を注いでいる。例えば、メジャーリーグでは、データ分析、各専門家によるコーチングのほか、メンタル面のサポートも行い、さらに栄養士を雇用しているチームも多い。菊池雄星の所属するブルージェイズの管理栄養士であるスコット・ニーロンさんにプロの仕事の舞台裏を聞かせてもらった。

ブルージェイズの管理栄養士であるスコット・ニーロンさん。筆者撮影
ブルージェイズの管理栄養士であるスコット・ニーロンさん。筆者撮影

敵・味方を越えて

 球場内には選手が試合の前後に適切に栄養を補給できるようにさまざまな食材、食事が用意されている。選手たちに必要な食材、食事を選び、オーダーして、補給しやすいように整えるのが管理栄養士の仕事だ。本拠地球場の食事はもちろんだが、アウエー球場での食事を含む栄養補給も担っている。

 敵地で食材、食事を選ぶのには、事前に十分な情報を得なければいけない。ニーロンさんは「他の都市に行くときには、その都市に詳しい栄養士や相手球団のビジティングクラブハウスのマネジャーに話を聞き、レストランやケータリングをいくつか推薦してもらいます。私はこういったケータリング業者に連絡をし、選手たちが試合前に栄養を補給するために我々が求めているものと、ケータリングしてくれる業者が提供できるものが一致しているかを確認します。一致していれば、私は選手の好んでいる食べ物を基準に注文をまとめます。試合前と試合後に必要なものをケータリングと協力して用意します」と言う。

 対戦相手となるチームと協力する珍しい職種だといえるのではないか。この点についても聞いた。「相手の球団が食事そのものを用意するところまでは踏み込んでいません。しかし、信頼できないケータリング業者を使って、選手が病気になるようなことは絶対に避けたいのです。どのようにするかはそのチームが決めますが、どこによい食事があるのかをいくつか推薦し合うことはしています。また、対戦相手のチームも何度もその都市に行って長いこと、そういったことをやっていれば、次に来た時にはどうすればよいのかわかっていますしね」。

個々の選手の需要と好みにあわせて

 選手たちは米国、日本、韓国、ドミニカ共和国、ベネズエラ、プエルトリコなど、さまざまな国で生まれ育ってきており、慣れ親しんだ好みの味も違う。たとえアウエーであっても、これらにできるだけ対応している。「みんなの味覚を満足させるのは最も難しいことですね。同じものの繰り返しにならないように、いろいろな料理にわけて、ラテンスタイルの食事、アジアスタイルの食事など全員のニーズを満たせるものを入れています。みんなが慣れ親しんだ食事を提供しながら、例えば、シアトルによい寿司やシーフードがあるということを知っていれば、その土地の利点を生かすことができますし、最高の質の食事を提供するように心がけています」

 選手たちの好みはどのように把握しているのだろうか。「いくつか方法はありますが、直接、話してコミュニケーションを取ることで、選手たちのことを知ることができ、よい関係を構築できると考えています。クラブハウスや食事をとる部屋では、選手に声をかけています。スプリングトレーニングでは何らかの評価をしていきますが、その評価の一部として、選手の好みを理解することもしています」

 その日の活動量の多い先発投手や登板予定のない投手、野手、また、より体重管理が必要な選手とそれぞれに必要な栄養が違う。「例えば、アウエーの試合だと、試合前の打撃練習を終えて、その1時間後には試合が始まります。バッティング練習を終えた選手は汗をかいていますが、間もなく試合が始まるので揚げ物や重い食事でお腹を満たすことはむいていません。そこで、スムージーやヨーグルト、フルーツなどの軽いものを食べてもらえるようにしています。そうすることで打撃練習から回復し、試合への準備ができます。また、登板日でない先発投手たちが試合中にお腹が減ってしまうことのないようにしなければいけません。みんなが試合に出るときにハッピーな状態であるように工夫しています」

バナナも用意

 クラブハウスにはおやつ類も用意している。敵地ではビジターのクラブハウスマネジャーに手配してもらう。「常にフルーツはいくつか揃えてもらっていて、うちの選手たちはこういうフルーツが好きだから用意してくださいと伝えていますね」

ブルージェイズといえばバナナである。話は2014年にさかのぼる。ブルージェイズに在籍していた川崎宗則さんは、足がけいれんしてしまった。そのとき、カナダのテレビのレポーターに英語で「猿はけいれんを起こさない。猿は毎日バナナを2本食べている」と答えた。この動画は大人気となり、繰り返し視聴されている。7月29日のブルージェイズ戦でエンゼルスの大谷翔平が足のけいれんで代打を送られたときにも、この動画が話題になった。さらに、8月2日には菊池雄星が打球に反応してグローブを出したときに右上腕がつってしまい、菊池は「バナナが足りなかったかな」とジョークを飛ばし、心配ないことを説明した。

もちろん、バナナは置いていますよねと念押しすると、ニーロンさんは「バナナはたくさん置いています!」と答えてくれた。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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