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ラマスジャパンが0勝4敗からまだ生き残れる3つの理由

大島和人スポーツライター
17年夏から男子日本代表の指揮を執るラマスHC(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

W杯1次予選敗退の危機にある日本

男子バスケの日本代表は25日、マニラで行われたフィリピン戦に84-88で敗れ、ワールドカップ(W杯)1次予選の通算成績を0勝4敗とした。

男子バスケは2019年の中国大会から、ワールドカップの予選方式を変更している。予選は短期間のセントラル開催から、サッカーと同じような長期に及ぶ「ホーム&アウェイ方式」となった。19年の本大会に向けたアジア1次予選も、2017年中から開始されている。1次予選は「アジアの16強」が4グループに分かれ、そこから4分の3が次のラウンドへ勝ち上がる方式だ。

日本はオーストラリア、フィリピン、チャイニーズタイペイ(台湾)と同じグループBで戦っている。率直にいえば厳しい組で、国際バスケットボール連盟(FIBA)が発表する最新(2017年11月末)の世界ランキングはオーストラリアが世界の10位、フィリピンが31位、日本が52位、台湾が57位となっている。

「オーストラリアは厳しい。フィリピンに何とか勝ちたい。台湾には必ず勝ちたい」というのが、事前の想定だった。しかし日本は2月22日のホーム戦(横浜国際プール)で台湾に69-70と惜敗。25日のフィリピン戦にも敗れ、予選敗退の瀬戸際に追い込まれている。

日本は2020年にオリンピックの自国開催を控えているが、出場権を得るためにはFIBAの推薦が必要になる。正式に設定されたノルマはないが「W杯の出場権を自力で獲得する」ことが間違いなく近道になる。仮に1次予選敗退となれば、東京五輪出場の可能性を狭める痛恨事となりかねない。

アルゼンチンの名将が指揮も時間不足は否めず

チーム強化については、単純に時間が足りていない。2017年7月から代表の指揮を執るフリオ・ラマスヘッドコーチ(HC)はアルゼンチン代表のアシスタントコーチとして2008年北京五輪の銅メダル、HCとして2012年ロンドン五輪の4位入賞に絡んでいるワールドクラスの指導者。日本バスケットボール協会(JBA)の東野智弥・技術委員長がその手腕に惚れ込み、現地に足を運び三顧の礼を尽くして招聘した人物でもある。

2016年末まで代表の指揮を執り、2015年夏のアジア選手権では18年ぶりの4強入りを達成した長谷川健志HCが続ける方法もあっただろう。しかしJBAはチャレンジに踏み切り、ルカ・パヴィチェヴィッチ氏(現アルバルク東京HC)を中継ぎにして、ラマス氏がやってきた。

JBAは2018年に入ってからの2か月足らずで、5度の強化合宿を行っている。ただしそれぞれの合宿は基本的にリーグ戦、オールスター戦の隙間に行われる2泊3日のもの。琉球ゴールデンキングスに所属する古川孝敏、アイラ・ブラウンは沖縄と東京をそのたびに往復していたことになる。「過酷」「過密」を地で行くスケジュールだ。今回のシリーズも日本は富樫勇樹(千葉ジェッツ)、馬場雄大(アルバルク東京)といった主力を負傷で欠いたが、それは起こり得ることだった。

鍛錬と休養のバランス、負荷の設定はどんな競技でも難しい。Bリーグは1年間に60試合を行うスケジュールを組んでいて、9月末から5月末のシーズン中は最低限のインターバルしか確保されていない。クラブ経営、全体のレベルアップを考えればリーグ戦の意味合いも当然ながら大きい。日本バスケは東京五輪やその後に向けたトップの強化と、Bリーグの発足という「二兎」を追い、後者については結果を出した。一方で代表強化については厳しい現実に直面している。

決戦は7月2日のアウェイ台湾戦

中長期的な構想は置いて、最後に日本が1次予選を生き残る可能性を簡潔に論じたい。日本は6月29日にオーストラリア戦(ホーム)、7月2日に台湾戦(アウェイ)を残している。現時点でのグループBの順位と成績はこうだ。

1位:オーストラリア 4勝0敗

2位:フィリピン 3勝1敗

3位:チャイニーズタイペイ(台湾) 1勝3敗

4位:日本 0勝4敗

「2強2弱」の構図にはっきりしており、日本は2試合を残して台湾と「3位争い」の状況にある。6月29日には日本がオーストラリア、台湾がフィリピンと対戦する。ここで台湾がフィリピンに勝ち、日本がオーストラリアに敗れると日本の敗退は決まる。ただ、一番ありそうなストーリーは「1勝4敗の台湾 vs 0勝5敗の日本」が7月2日に対戦するというものだ。

日本にとって有利な材料が三つある。一つはBリーグが5月末に終了し、チーム練習をしっかり積んで試合に挑めることだ。

ラマスHCは2月22日の台湾戦後に「一つのアタックで2,3回ペイントタッチができて、レイアップにつながるようなプレーができるようにしないといけない。しかし今の時点では3ポイントシュートをもっと効果的にチームとしても使わないといけない」と述べていた。

日本が世界大会で通用するオフェンスを築くなら、人とボールをスムーズかつ流動的に動かして崩すスタイルを浸透させなければいけない。一方で目先のアジア1次予選を勝ち切るためには「精密な動き」「約束事」にこだわり過ぎず、思い切って打つことも大切になる。ラマスジャパンはそのような迷いの残る過渡期にあるわけだが、問題の解決には時間が大きな後押しになる。

二つ目の好材料はレギュレーションだ。FIBAは1次予選の勝ち負けが並んだ場合の順位決定方法をこう定めている。

・2チームが同じ勝ち点になった場合は、当該の両チームの対戦で勝ち数の多いチームを上位とする。

・(それでも決定しない場合は)当該チームが対戦した場合のみでの得失点差が多いチームを上位とする。

日本が1次予選の最終戦で台湾に勝つことは絶対条件だが、2月22日のホーム戦は1点差で決しており、日本は2点差以上で勝てば直接対決で上回れる。言うまでもなくバスケはサッカーや野球よりも点がよく入る種目なので、「2点差」なら特段の問題はない。なお仮に日本が台湾と勝ち負けで並び、最終戦が1点差の勝利になった場合は、すべてのゲームにおける得失点差で順位が決まる。

海外組の帰国に期待

三つ目の好材料は「海外組」の帰国だ。今回の1次予選はまだ八村塁(ゴンザガ大2年)と渡邊雄太(ジョージワシントン大4年)がプレーしていない。二人は日本代表における救世主となり得る存在だが、予選がNCAAのシーズンと重なっていた。

NBAやNCAAは言わずと知れたスーパーリーグで、FIBAは彼らに強制できるような権威を欠いている。各国の代表はそういったビッグリーグに対して、サッカーのような「強制招集権」を行使できない。NCAAは大学生のカテゴリーだが、レベルやビジネスとしてのスケールはNBA以外のプロリーグより「格上」の存在だ。

なおNCAAのシーズンオフだからと言って、二人の帰国が確定しているわけでない。八村はNBAのドラフトにアーリーエントリーする可能性があるし、渡邊も含めて7月のNBAサマーリーグに参加する可能性は少なからずある。日本のバスケ界にとって「田臥勇太に続く日本人NBAプレイヤーを出す」ことは、五輪出場に並ぶくらいの大切なミッション。つまり究極の二者択一が発生する可能性があり、そこは最終的に本人の決断だ。

しかしこの二人がチームに加われば確実に戦力となる。今の代表が欠いている高さ、ゴール下の力強さで大きなプラス要素となるし、リバウンドの強化につながるからだ。八村は実際に17年8月のU-19世界選手権でも大会直前にチームへ加わり、世界の10位という好成績に貢献した。203センチ・102キロの体格に強さと跳躍力を兼ね備えた彼は、世界的な注目株の一人になっている。

日本が6月29日に対戦するオーストラリアも、ベン・シモンズのようなNBAの主力級を陣容に加えるかもしれない。一方で台湾にそういう隠し玉がいるという情報は聞いておらず、プラスアルファの余地は日本の方が大きい。彼らの招集については東野技術委員長以下のコート外でのコミュニケーション、交渉に期待するしかない。

0勝4敗というここまでの戦績は率直に言って残念で、批判が出るのも当然だ。ただし選手が厳しいスケジュールの中で全力を尽くしていることだけは間違いない。彼らは厳しい試合の後も取材者に正面から向き合って、逃げやごまかしでない言葉を返してくれていた。選手たちはここまでの戦いで得た課題を持ち帰ってリーグ戦や代表合宿の中で克服し、1次予選の壁を乗り越えて欲しい。それは日本バスケの将来につながる、貴重な成功体験となるはずだ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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