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ウクライナ迎撃戦闘2024年5月分と過去の発射傾向との比較

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ空軍司令部より2024年5月31日迎撃戦果

 2024年5月にウクライナ空軍司令部が報告したロシア軍の長距離ミサイル・ドローン攻撃は合計で463発でした。これは先月と比べるとやや増えている程度ですが、高速目標に限ると半減しています。※出典:ウクライナ空軍司令部

※当記事では迎撃難易度でミサイルを「高速目標(弾道ミサイル、転用ミサイル)」と「低速目標(巡航ミサイル、自爆ドローン)」の2系統4種類に分類。

※弾道ミサイルは極超音速兵器も含む。転用ミサイルは地対空ミサイルや空対艦ミサイルの対地攻撃転用のこと。低速の巡航ミサイルは亜音速型に限定、自爆ドローンはGPS誘導の長距離型のシャヘド136/131のみ。

※Kh-59空対地ミサイルとKh-31P対レーダーミサイルは除外。

○2024年5月:463発(409撃墜、88%)

  • 弾道ミサイル:10発(0撃墜、0%)
  • 転用ミサイル:19発(0撃墜、0%)
  • 巡航ミサイル:79発(62撃墜、78%)
  • 自爆ドローン:355発(347撃墜、98%)

 迎撃阻止率は4月(74%)→5月(88%)と改善が見られますが、これはアメリカのウクライナ軍事支援が再開して迎撃ミサイルの補給が潤沢になった影響もありますが、迎撃困難な高速目標の飛来数が先月と比べると半減した影響の方が大きいでしょう。

  • 2024年05月:463発(409撃墜、88%)
  • 2024年04月:425発(316撃墜、74%)
  • 2024年03月:810発(610撃墜、75%)
  • 2024年02月:475発(332撃墜、70%)
  • 2024年01月:582発(385撃墜、66%)
  • 2023年12月:776発(609撃墜、78%)

 長期的に傾向を分析すると、迎撃阻止率の数字が変動する最大の要因はロシア軍が迎撃困難な高速目標の弾道ミサイル等をどれだけの数を発射するかに掛かっています。これは弾道ミサイルを迎撃できるパトリオット防空システムをウクライナ軍に大量に供与しない限り、この傾向は続くでしょう。

 以下は「高速目標(弾道ミサイル、転用ミサイル)」と「低速目標(巡航ミサイル、自爆ドローン)」の2系統4種類に分類した数の13カ月分の推移です。なお高速目標の迎撃率は記載していません、高速目標を撃墜できるかどうかはパトリオット配備地域に飛来するかどうかに掛かっているので、攻撃側の目標選定次第であり、迎撃能力の傾向を測るには不適だからです。

 13カ月分のウクライナ迎撃戦闘の傾向を見る限り、高速目標はパトリオット配備数が少なく未配備地域を狙われた場合は迎撃できない、低速目標は80~90%を迎撃阻止し続けて防空能力は高いまま維持、これはずっと変わっていません。(パトリオットのキーウ配備は2023年4月末以降、翌月の2023年5月からロシア軍のキンジャールと交戦開始)

【高速目標】弾道ミサイル発射数の推移 

  • 2024年05月:10発(0撃墜) ※うちキンジャール×2(0)
  • 2024年04月:20発(0撃墜) ※うちキンジャール×10(0)
  • 2024年03月:29発(4撃墜) ※うちキンジャール×11(1)
  • 2024年02月:13発(1撃墜) 
  • 2024年01月:57発(15撃墜) ※うちキンジャール×20(10)
  • 2023年12月:37発(18撃墜) ※うちキンジャール×5(0)
  • 2023年11月:5発(1撃墜)
  • 2023年10月:7発(0撃墜)
  • 2023年09月:2発(1撃墜)
  • 2023年08月:7発(1撃墜) ※うちキンジャール×7(1)
  • 2023年07月:7発(0撃墜)
  • 2023年06月:9発(9撃墜) ※うちキンジャール×9(9)
  • 2023年05月:23発(21撃墜) ※うちキンジャール×7(7)

※イスカンデルM、キンジャール、KN-23(北朝鮮製)、ツィルコン(極少数の投入)

【高速目標】転用ミサイル発射数の推移

  • 2024年05月:19発(0撃墜) ※うちS-300×19(0)
  • 2024年04月:42発(2撃墜) ※うちS-300×36(0)
  • 2024年03月:69発(0撃墜) ※うちS-300×61(0)
  • 2024年02月:37発(0撃墜) ※うちS-300×24(0)
  • 2024年01月:67発(0撃墜) ※うちS-300×45(0) 
  • 2023年12月:32発(0撃墜) ※うちS-300×24(0)
  • 2023年11月:17発(0撃墜) ※うちS-300×14(0)
  • 2023年10月:11発(0撃墜) ※うちS-300×11(0) 
  • 2023年09月:3発(0撃墜) ※うちS-300×1(0) 
  • 2023年08月:12発(0撃墜) ※うちS-300×8(0)
  • 2023年07月:37発(0撃墜) ※うちS-300×4(0)
  • 2023年06月:22発(0撃墜) ※うちS-300×4(0)
  • 2023年05月:17発(0撃墜) ※うちS-300×12(0) 

※S-300/S-400(地対空ミサイル転用)、Kh-22/Kh-32(空対艦ミサイル転用)、P-800オーニクス(地対艦ミサイル転用)

【低速目標】巡航ミサイル発射数の推移 

  • 2024年05月:79発(62撃墜、78%)
  • 2024年04月:71発(55撃墜、77%)
  • 2024年03月:116発(95撃墜、82%)
  • 2024年02月:46発(39撃墜、85%)
  • 2024年01月:124発(102撃墜、82%)
  • 2023年12月:109発(101撃墜、93%)
  • 2023年11月:4発(4撃墜、100%)
  • 2023年10月:5発(4撃墜、80%)
  • 2023年09月:90発(78撃墜、87%)
  • 2023年08月:114発(90撃墜、79%)
  • 2023年07月:92発(78撃墜、85%)
  • 2023年06月:163発(144撃墜、88%)
  • 2023年05月:145発(133撃墜、92%)

※Kh-101/Kh-555、カリブル、イスカンデルK、Kh-69

【低速目標】自爆ドローン発射数の推移 

  • 2024年05月:355発(347撃墜、98%)
  • 2024年04月:287発(258撃墜、90%)
  • 2024年03月:596発(511撃墜、86%)
  • 2024年02月:361発(276撃墜、76%)
  • 2024年01月:334発(271撃墜、81%)
  • 2023年12月:598発(490撃墜、82%)
  • 2023年11月:380発(303撃墜、80%)
  • 2023年10月:285発(229撃墜、80%)
  • 2023年09月:503発(396撃墜、79%) 
  • 2023年08月:162発(145撃墜、90%)
  • 2023年07月:238発(201撃墜、84%)
  • 2023年06月:199発(166撃墜、83%)
  • 2023年05月:399発(362撃墜、91%)

※シャヘド136/131

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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