なぜバルサは“監督交代”を決めたのか?ハンジ・フリックの就任と求められるカンテラーノの成長。
新たなプロジェクトの、リーダーが定まった。
バルセロナは2024−25シーズンに向けて、監督交代を行っている。シャビ・エルナンデス前監督と契約解除を行い、ハンジ・フリック監督の就任が決定した。
バルセロナはシャビ前監督と2025年夏まで契約を結んでいた。契約解除に際しては、コーチングスタッフを含め、違約金として1800万ユーロ(約29億円)が必要だとされていた。だが最終的には900万ユーロ(約14億円)で両者が合意に至り、“節約”に成功したクラブはハンジ・フリック監督を招聘した。
■監督交代の顛末
一転、どころではない。二転三転の末、バルセロナは監督交代を断行した。
シーズン終盤、チームが2位のポジションを死守するべく戦う状況で、バルセロナのフロントは動いていた。デコSD(スポーツディレクター)、フットボール部門のコーディネーターであるボージャン・クルキッチが、ロンドンに赴いてハンジ・フリック監督と話し合いの場を設けた。
ハンジ・フリック監督の代理人を務めるのはピニ・ザハビ氏だ。ロベルト・レヴァンドフスキの代理人を務める人物で、ジョアン・ラポルタ会長とは懇意の仲だ。それも交渉がスムーズに進んだ要因だった。
第二次ラポルタ政権において、ハンジ・フリック監督はロナルド・クーマン元監督、シャビ前監督に次いで、3番目の監督になる。
第一次ラポルタ政権で、監督を任されたのは、2人だった。フランク・ライカールト監督(2003年−2008年)とジョゼップ・グアルディオラ監督(2008年−2010年)だ。
■ハンジ・フリックの光と影
ハンジ・フリック監督は、2019−20シーズン、バイエルンでセクステテ(6冠)を達成した指揮官だ。チャンピオンズリーグ、ブンデスリーガ、DFBポカール、ドイツ・スーパーカップ、UEFAスーパーカップ、クラブ・ワールドカップ。タイトルを総なめにしたチームは、2009年のペップ・バルサ以来だった。
他ならぬバルセロナが、その折、バイエルンにズタズタに切り裂かれている。チャンピオンズリーグ準々決勝、中立地リスボンで、バルセロナは「2−8」という屈辱的なスコアでハンジ・フリックのバイエルンに屈した。
一方、ドイツ代表では、苦しんだ。
2021年夏、ハンジ・フリック監督はドイツ代表の指揮官ポストに就いた。長期政権を築いたヨアヒム・レーブ監督からバトンを受け取り、継続路線でディー・マンシャフトを強化することが期待されていた。
しかし、2022年のカタール・ワールドカップで、まさかのグループ敗退。その後も調子が上向かず、2023年9月に、解任の憂き目に遭っている。ドイツサッカー史上、初めて解任された代表監督になった。
■若手と新監督に期待されるもの
バルセロナは近年、ヤングプレーヤーとカンテラーノが台頭している。ペドリ・ゴンサレス、ガビ、アレッハンドロ・バルデ、フェルミン・ロペス、ラミン・ヤマル、パウ・クバルシ…。バルセロナの、もといヨハン・クライフの哲学である「育成」が実を結んでいる印象だ。
ハンジ・フリック監督は、2006年から2019年の間、ドイツ代表のスタッフとして働いた。その間、育成年代の“お目付役”を担っていた時期がある。若手選手を育てる、という点で、期待されているところがあるのは確かだろう。
「バルセロナには世界最高峰のカンテラがある。現在、トップチームには、才能ある若い選手と経験豊富な選手が、ミックスされている」
「我々は、彼らのような若い選手が成長していけるように、努力しなければいけない。ラポルタ会長やデコと一緒に、その仕事に従事したい。大事なのは、チームとして働くことだ」
これはハンジ・フリック監督の言葉だ。
カンテラーノの成長――。それはシャビ前監督の残した遺産だろう。
バルセロナは、依然、財政が厳しい状況だ。この夏、大型補強というのは難しいだろう。そのなかで、新監督がどのような手腕を発揮するのか。戦いは、すでに始まっている。