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「最大の市場から攻めろ」BTSやTWICEを広めたイベント仕掛け人が明かす韓流の世界戦略

桑畑優香ライター・翻訳家
M COUNTDOWN最終日のラストを飾ったTWICE

BTSが世界で人気を博し、TWICEやIZ*ONEが日本のファンの心をとらえるK-POP。そしてファッション・コスメへと広がる韓流ブーム。

その興隆を象徴するイベントが、“KCON”だ。K-POPコンサートに韓国の最新ファッション、ビューティー、コンテンツと、韓国のライフスタイルが体験できるコンベンションを融合。北米、タイ、中東など各地で開催し“世界最大のK-カルチャーコンベンション”をうたう。日本では2015年に初めて開かれ、今年で5回目。5月17日から三日間にわたり千葉・幕張メッセで行われ、訪問客数は8万8千人と、その数は5年間で5.8倍に増加している。

世界で韓流が勢いを増す理由、そして韓流における日本市場とは――。

KCONの仕掛け人、CJ ENM コンベンション事業局局長キム・ヒョンス氏にインタビュー。攻めの姿勢からは、韓流ブームが世界に広がる背景に重なるいくつかのキーワードが見えてきた。

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――日本では2015年以来5回目の開催です。今年のKCONが昨年までと大きく異なる点とは?

キム・ヒョンス:会場を昨年に比べ1.5倍に広くしました。参加者も10代から20代など、若い人がぐっと増えています。

――日本でKCONを開催したきっかけを教えてください。

キム・ヒョンス:日本での初開催は、2015年。韓流ブームが落ち込んでいた時期でした。だからこそ、韓流をもう一度盛り上げようと始めたのです。いろいろなところで不定期に行われていた韓流関係のイベントを、持続的に毎年開催し、K-POPだけでなく、韓国の多様なライフスタイルに触れることができる大きな場、プラットフォームを作ろうという考えからスタートしました。最初に事業を行うのが難しく、大きな赤字も出ました。

2015年当時は、KCONの目玉としてK-POPのコンサートを据え、周りにコンベンションを配置する形でした。来場者は音楽ファンが中心で、当時のターゲットは、20代から40代の女性。コンベンションエリアのブースは50個で、イベントのプログラムは11個しかありませんでした。今年は、ブースは240個、プログラムは260個。音楽だけでなく、韓国のドラマ、ファッションのブースも増えています。

――10代20代にターゲットを変えたのはいつから?

キム・ヒョンス:2017年度にターゲットを広げてみようということになったのです。韓国文化をもっと大衆に広めようと。準備は2016年度から着手し、2017年から本格的に力を入れ始めました。

――大衆に広めるために取った戦略とは。

キム・ヒョンス:当初は音楽中心でしたが、ドラマや韓国語講座、韓国料理など様々な韓国文化を紹介し、ライフスタイル全体まで体験できるようにしました。

会場で、10代と20代の女子たちの視線を集めていたのが、日韓ガールズグループIZ*ONEや、力強いダンスで魅せるソロアーティストのチョンハも登場した「KCON GIRLS」だ。特設エリアに設けられたステージに旬の女性アーティストたちが登壇。トレンドリーダーである彼女たちのお気に入りコスメやファッションなどについて、トークが繰り広げられていた。

キム・ヒョンス:特に今年は、新たにKCON GIRLSという新しいブランドを立ち上げ、女性アイドルとコラボしてみました。K-POPへの関心からスタートしてファンの関心はスターが着ている服や持っている小物、食べている料理に関心が広がっていると気づき、ニーズがあると思ったのです。

――KCON GIRLSの手ごたえはいかがでしたか。

キム・ヒョンス:可能性を感じています。長期的には、もっと大きくしていきたいと思っています。目標はKCON GIRLSをファッション・ビューティー単独のコンベンションとしたいと思っています。東京だけでなく、他の地域でも展開する計画を立てています。

IZ*ONEのステージにはAKB48グループのファンらしき男性たちも多数集まっていた
IZ*ONEのステージにはAKB48グループのファンらしき男性たちも多数集まっていた

KCONが初めて開催されたのは、2012年。アメリカのロサンゼルス近郊の都市アーバインだった。以後、15年に東京とNY、16年にはUAE、フランス、17年にはメキシコ、オーストラリア、18年にはタイと、グローバルに発展を続けてきた。

キム・ヒョンス:アメリカは2012年当時、韓国のコンテンツが成功するにはとても難しい国でした。それにもかかわらずアメリカを目指した理由は、世界で一番大きな音楽市場がアメリカで、全世界の文化的な影響力が一番大きい場所がアメリカだと思ったので、事業的には難しいかもしれないけれど、まずはロサンゼルスからスタートして世界に広めていこうと計画したのです。2012年から小さく始めました。当初は5000人ぐらいの集客を予想していましたが、1万人近くが来ました。そこでノウハウを育み、その後ニューヨークに拡大させ、アジアでは日本が初めてです。

――アメリカでBTSが人気ですが、KCONに出演したことは?

キム・ヒョンス:はい、新人の時から我々と一緒にやっています。デビュー翌年の14年にロサンゼルスで参加しました。16年にはアブダビ、フランス、ニューヨーク、ロサンゼルス、17年のメキシコにも出ました。

――BTSが世界に顔を知られた原点は、KCONですね。

キム・ヒョンス:そう考えていただけるとありがたいですね(笑)

――世界中で開催するにあたり、地域ごとの特色はありますか。

キム・ヒョンス:国や地域で関心やファンのタイプが異なるので、ローカライズはとても重要視しています。アメリカのファンはとても積極的。参加することが好きで、わからないことは質問する。その部分をコンベンションに反映しています。積極的に参加できるダンスやパネラーのワークショップを多く設けているんです。日本は自分が好きなアーティストを求めて来場する人が多いので、コンベンションでも多くのアーティストに会えるように、アーティストをブースに招くなどしています。

――KCONのロゴも国ごとに色が異なります。

キム・ヒョンス:日本では春にKCONをやるので、日本の春を象徴する色を考えたとき、桜のピンクということに決めたのです。当時のキャッチフレーズは、初めてのときめきを表す「ドキドキKCON」でした。その後、2016年には、「つながる」というコンセプト。2017年からは「Let’s KCON」。2017年から日本で第三次韓流ブームが起き、全世界的に韓流ブームが起きたため、全世界共通のシンプルに理解できるキャッチフレーズにしました。

――韓流における日本市場とは。

キム・ヒョンス:日本は世界で2位に該当する大きな音楽市場を持っています。日本は我々がアジアで最初にKCONを始めた場所であり、KCON GIRLSも初めて日本ランチングしました。多様な機会と可能性がある地域だと見ています。

会場の一角に置かれたボードは、ハングルで書かれたスターへのメッセージで埋め尽くされていた(著者撮影)
会場の一角に置かれたボードは、ハングルで書かれたスターへのメッセージで埋め尽くされていた(著者撮影)

KCONはまた、韓国関連の中小企業と日本の消費者の橋渡し的な役割も果たしている。コンベンションエリアに出展しているブースの中には日本未出店の企業も少なからず存在し、日本進出へのマーケティングの場としてKCONを活用しているのだ。

キム・ヒョンス:韓国には優れた中小企業がたくさんありますが、会社の規模が小さいため海外に進出する機会がありません。そのため、中小企業が海外に進出するチャンスを我々が共に作ろうとしているのです。製品だけでなく、アーティストも同じ。有名な歌手だけでなく、韓国の中小芸能事務所、新人を日本のファンに紹介し、歌手とファンが一緒に成長できるような機会を作ろうとしています。

――KCONから生まれたブランド、成功した人は?

キム・ヒョンス:日本に進出する韓国の中小企業の製品が増えています。その中でも日本の現地の企業と提携する企業があります。歌手としては、MONSTA Xが、人気が上昇し始めているとき、初めてKCONを介して日本に紹介されました。カバーダンスのステージに参加した人の中からK-POP歌手になる人も登場しています。

――コンベンションエリアでは、SNSを活用したイベントを行うブースがたくさんあるのが目立ちました。

キム・ヒョンス:SNS世代の参加者が増えているので、SNSやデジタルのマーケティングを積極的にやっています。例えば、フォトブースで写真を撮ってSNSでシェアするとバッジをもらえるとか、いろいろなブースを回ってミッションを完成させるとレッドカーペットのチケットをもらえるとか。楽しみながら、参加率を高めることができるように仕掛けています。去年から始めました。ミッションを完成した人にバッジをあげるのですが、すぐになくなってしまうんです。

SNSで拡散することにより、KCONや商品の宣伝もしてもらえるし、一石二鳥です。

――日本でKCONをスタートした2015年頃は韓流ブームが落ち込んでいましたが、いまは全世界同時に起きるようになり、若い世代を中心にブームが再燃しています。それはSNSの影響力も大きかったのでしょうか。

キム・ヒョンス:個人的に、K-POPが世界中で人気がある理由は、SNSが世界中で広報する場になったと考えています。さらに、10代の練習生を中心にした育成システム、彼らの世代の声を代弁した歌詞、それをステージで表現するダンス。華やかなミュージックビデオ。それがSNSで流れたので、世界の10代の関心を集めるようになったのだと思います。その転換点となった時期が、2017年です。

KCONが同時期から大衆化を目指し始めたのもそのためです。一部の人が趣向する文化ではなく、メインストリームの文化になるように、その国の日常に合わせた大衆化を狙った路線を2017年から展開しているのです。

――時期やトレンドは世界で同じように動いているのでしょうか。

キム・ヒョンス:世界中でほぼ同時に動いているとみることができます。ただ、傾向は地域によって多少異なります。日本はアーティストにあわせて消費し、アメリカは韓国文化全体を消費する。そういう違いができます。

――ブームがこんな風に広がると思っていましたか。

キム・ヒョンス:正直言うと、当時アメリカで始めたとき5000人ぐらいの来場を予想したところ1万人が来ました。日本でも2015年、最初は簡単ではありませんでした。日本の文化やビジネスのルールを知らなかったので難しかったんです。その過程を解決しながらも、成功できるという確信はありませんでした。ただ、韓国の文化を紹介しようというチャレンジ精神で持続的に挑戦してきただけです。

――成功の秘訣は?

キム・ヒョンス:毎年イベントが終わると、消費者に対するアンケート調査を行います。消費者が投票し、意見を出したものを積極的に反映し、翌年、アーティストやコンベンションの企業を呼ぶのです。顧客の声に耳を傾け、その国の文化を尊重すること。そして全世界各地の多様性を尊重し、ニーズを反映し、粘り強く続けていくこと。それが、KCONがこれまで成功してきた重要な理由だと思います。

コンベンションエリアには、巨大なインスタ映えスポットも(著者撮影)
コンベンションエリアには、巨大なインスタ映えスポットも(著者撮影)

■キム・ヒョンス CJ ENM 音楽コンベンション事業局局長

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2017 年 コンベンション事業局長- KCON、MAMA、グローバルMCOUNTDOWNなど、様々なグローバルコンベンション事業総括

2013 年 コンベンション事業チーム長

2011 年 グローバルコンテンツ長- CJ ENMグローバルチャンネル事業およびコンテンツ制作統括

2009 年 CJメディアEnewsチーム長- tvN Enews、Mnet WIDE芸能ニュース総括

2006 年 CJメディア制作チーム長-M COUNTDOWN、MKMF演出

1997 年 KMTV入社

7月6日、7日にニューヨークで開催された「KCON 2019 NY × M COUNTDOWN」はCS放送Mnetで7月25日(木)18:00~日韓同時放送。

日本語字幕版は7月28日(日)30日(火)31日(水)オンエア。

「KCON 2019 JAPAN」の模様は、同社の動画配信サービスMnet Smartで配信中。

詳しくはMnetホームページにて

*著者撮影以外の写真のクレジットはすべて「KCON 2019 JAPAN」(c) CJ ENM Co., Ltd, All Rights Reserved

ライター・翻訳家

94年『101回目のプロポーズ』韓国版を見て似て非なる隣国に興味を持ち、韓国へ。延世大学語学堂・ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースステーション」ディレクターを経てフリーに。ドラマ・映画レビューやインタビューを「現代ビジネス」「AERA」「ユリイカ」「Rolling Stone Japan」などに寄稿。共著『韓国テレビドラマコレクション』(キネマ旬報社)、訳書『韓国映画100選』(クオン)『BTSを読む』(柏書房)『BTSとARMY』(イースト・プレス)『BEYOND THE STORY:10-YEAR RECORD OF BTS』(新潮社)他。yukuwahata@gmail.com

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