両眼えぐり出す自傷行為したハタチの薬物中毒者と「天からの声」 あれから2年、彼女は今
米サウスカロライナ州に住む盲目の女性がこのほど義眼を装着したとして、デイリーニューズ紙やピープル誌などが報じた。その女性は2年前、ホラー映画さながらの思わず目を背けてしまう「地獄絵図」をもたらし全米中を震撼させた「ある衝撃事件」の当事者だ。
2018年2月6日、当時20歳で薬物中毒だったカイリー・ムザートさん(Kaylee Muthart)は屋外に友人といたとき、突然幻聴が聞こえてきたという。「この世を生き抜くため、そして世界を救うために、誰かが自分の大切なものを犠牲にしなければならない。その誰かとは自分だ。もし今すぐ自分の眼を取り除かなければ、すべてが突然終わると思った。すべてが死んでしまうと・・・」。
その声を聞いた彼女は、あろうことか自分の手を使って、自らの両眼をえぐり出す行為に及んだ。(注:薬物のオーバードースの状態は、幻聴や幻覚をもたらすほか、痛みや恐怖を感じさせなくなると言われている)
当時の目撃者はこのように語る。「線路際の向こうで、血だらけの女性が叫んでいた。何かとんでもないことが起きていると悟った」。
自身の健康や家族のことで問題を抱えてきたムザートさんは、17歳のころから不登校状態だった。そして暇を持て余し、アルコールや大麻の乱用から始まり、メタンフェタミン(日本で出回っている覚醒剤と同類のもの)まで、さまざまなドラッグに溺れていった。
メタンフェタミンは事件の6ヵ月前から使用するようになったといい、事件当日ムザートさんはメタンフェタミンとほかの薬物を一緒に乱用した可能性があると見られている。(2年前の記事)
What Made Kaylee Muthart Rip Out Her Own Eyeballs?! | What's Trending Now!
ムザートさんがヘリで緊急搬送された当時のレポート。眼窩(がんか)の感染を防ぐことができたが、失明した。
ムザートさんはその後、入院治療を経て薬物の更生施設に入り、薬物を断つことに成功した。人間の顔は眼球がないとくぼんでしまうため、顔の輪郭を保つために義眼を入れることを医師から勧められていた。また彼女自身も「より普通の見た目になりたい」と望み、今回の処置に至った。
病院で医師から義眼を装着されたムザートさんは、笑顔を見せた。(記事の中に動画もあるが、人によっては不快なシーンのため閲覧注意)。別の記事では「以前の自分より、失明してしまったけど薬物を断ち切ることができた今の自分の方が好き」と語っている。クラウドファンディングにより得た資金で盲導犬を飼い、点字を学んでいるムザートさんは、近い将来、高校の卒業証書を取得し大学進学も検討しているという(ちなみに、前述の義眼装着時の映像を撮影しているのは、彼女の心の支えになっている事故後にできたボーイフレンドだ)。
この事件は、違法薬物の恐ろしさを改めて知らしめた衝撃事件として、2年経った今でも多くの人々の記憶に残っている。アメリカでは薬物乱用が長きにわたって社会問題になっており、自殺や自傷行為の原因になっているほか、幻聴や幻覚により銃を手に取り、乱射事件(最近では、昨年のデイトン市乱射事件など)を起こしているケースもあるのだ。
精神障害についての統計結果(by National Alliance On Mental Illness)
- 成人の5人に1人(4,760万人/年)が、精神疾患患者(2018年)
- その中でも「深刻」な精神疾患患者は、成人の25人に1人(1,140万人/年)(2018年)
- 6~17歳の世代では、6人に1人(770万人/年)が精神障害者(2016年)
- 10~34歳の世代で、人々の死因の第2位が自殺
参照
精神疾患、幻聴、幻覚、ドラッグ摂取に関する過去記事
ムザートさんは自傷行為に及んだ例だが、実は多くの人々が薬物の乱用により命を落としている。
米CDC(アメリカ疾病予防管理センター)のデータでは、2012年から2018年にかけて、メタンフェタミンなどの薬物が関与したアメリカの死亡率は5倍近くに増加したことがわかっている。またNorth Carolina Health Newsも、国内で近年メタンフェタミンの過剰摂取による死亡が増加していると警鐘を鳴らしている。メタンフェタミンにより2014年の1年間で死亡した数は3700人(2010年と比べて約2倍)に膨れ上がった。2015年には年間死亡数、4900人との報告だ。
(Text by Kasumi Abe) 無断転載禁止