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台風解析は常に見直し、特別警報かと騒がれた台風14号も事後修正 過去には幻の4島上陸台風も

饒村曜気象予報士
最盛期の台風14号の雲(令和4年(2022年)9月17日9時)

令和4年(2022年)の台風

 フィリピンの東海上では、インド洋から南シナ海を通ってやってくる西風と、太平洋高気圧の南へりをまわる東風がぶつかり、モンスーントラフと呼ばれる気圧の低い領域ができています。

 ここで、熱帯低気圧が発生し、その熱帯低気圧が台風に発達するのですが、東部太平洋赤道域の海面水温が高くなるというラニーニャ現象がおきると、モンスーントラフの位置が平年より北西にずれます。

 このため、ラニーニャ現象のおきている今年、令和4年(2022年)の9月までの台風の発生場所は、例年より北西、つまり、日本に近い海域にずれています(図1)。

図1 令和4年(2022年)1月から9月の台風の発生海域
図1 令和4年(2022年)1月から9月の台風の発生海域

 日本に近い海域での発生ですから、日本に影響する可能性は高くなります。事実、令和4年(2022年)9月の台風は日本の近くで発生し、日本に毎週のように影響しました。

 9月に発生した7個の台風のうち、6個が接近しています(表)。

表 令和4年(2022年)の台風発生数・接近数・上陸数(接近数は一つの台風で月をまたぐ場合があり、月の値の合計は年の値より大きくなる)
表 令和4年(2022年)の台風発生数・接近数・上陸数(接近数は一つの台風で月をまたぐ場合があり、月の値の合計は年の値より大きくなる)

 令和4年(2022年)の台風発生数は、7月までは平年より少なかったのですが、8月から10月に平年より多く発生し、これまで25個発生しています。

 熱帯域には台風に発達しそうな雲の塊がありませんので、このまま平年並みの発生数である25個発生となりそうです。

 また、10月以降の台風接近がなかったのですが、9月に数多く接近したことによって、ほぼ平年並みの台風接近数となっています。

 また、上陸数は、台風4号が7月5日6時前に長崎県佐世保市付近、台風8号が8月13日17時半頃に伊豆半島、台風14号が9月18日19時頃に鹿児島市付近に上陸と3個あり、これも平年並みとなっています。

 このうち、台風14号では特別警報が発表となりました。

台風14号と特別警報

 日本の南海上で9月14日3時に発生した台風14号は、9月16日9時には大型で非常に強い勢力となっています。

 台風はその後も発達を続け、17日には中心気圧910ヘクトパスカル、最大風速55メートルと大型で猛烈な台風となっています(タイトル画像参照)。

 このため気象庁では、9月17日11時に緊急記者会見を開き、「経験したことのないような暴風、高波、高潮、記録的な大雨のおそれ」があるとして、暴風波浪高潮大雨特別警報を九州北部と九州南部に発表する可能性について解説しました(図2)。

図2 台風14号の進路予報と海面水温(9月18日0時)
図2 台風14号の進路予報と海面水温(9月18日0時)

 台風を要因とする特別警報は、最大風速55メートル以上または、中心気圧930ヘクトパスカル以下(沖縄では910ヘクトパスカル以下)で発表されますが、鹿児島全域ではこの基準を満たすとして、9月17日21時40分に特別警報(暴風・波浪・高潮)が発表されました。

 また、9月18日15時10分には、宮崎県でも猛烈な雨が降り続いたことから大雨特別警報が発表となりました。

 ただ、台風が九州上陸の頃から少し衰弱したこともあり、九州北部での特別警報の発表はありませんでした。

台風14号の事後修正

 気象庁では、令和4年(2022年)の台風14号についての事後解析による確定値を、同年12月20日に発表しています。

 これによると、解析値と速報値にはかなりの差がある場合があり、気圧では最大15ヘクトパスカルの差があります(図3)。

図3 台風14号の気圧についての速報値と確定値
図3 台風14号の気圧についての速報値と確定値

 台風14号が日本の南にあった9月16日15時では速報値950ヘクトパスカルに対し、確定値は935ヘクトパスカルと弱く発表していました。

 また、逆に台風が鹿児島県に上陸した18日21時では速報値940ヘクトパスカルに対し、確定値955ヘクトパスカルと強く発表していました(図4)。

図4 令和4年(2022年)台風14号の経路図(速報値と解析値)
図4 令和4年(2022年)台風14号の経路図(速報値と解析値)

 鹿児島市付近に上陸した18日19時の中心気圧も速報値の935ヘクトパスカル(4位タイ記録)から確定値の940ヘクトパスカル(5位タイ記録)に変わっています。

昭和26年(1951年)以降での上陸時の気圧が低い台風

順位 上陸時の気圧(ヘクトパスカル) 台風名 上陸日時 上陸場所

1 925 第二室戸台風(台風18号) 1961.9.16 高知県室戸岬の西

2 929 伊勢湾台風(台風15号) 1959.9.26 和歌山県潮岬の西

3 930 平成5年台風13号 1993.9.3 鹿児島県薩摩半島南部

4 935 ルース台風(台風15号) 1951.10.14 鹿児島県串木野市付近

5 940 令和4年台風14号 2022.9.18 鹿児島市付近

 それだけ、この台風が危険で、かつ、解析や予報が難しかったことを示しています。

幻の4島上陸台風

 平成29年(2017年)9月9日21時にマリアナ諸島の東で発生した台風18号は、北西進しながら発達し、13日には強い勢力で沖縄県先島諸島に接近後、東シナ海で非常に強い勢力まで発達しています。

 台風18号は、その後向きを東よりにかえ、17日12時頃に鹿児島県垂水市付近に上陸しています(九州上陸)。

 その後、17日16時半頃に高知県西部に再上陸し(四国上陸)、17日22時頃に兵庫県明石市付近に再再上陸(本州上陸)しています。

 そして、18日9時過ぎに北海道函館市付近に再再再上陸(北海道上陸)しています(図5)。

図5 平成29年(2017年)台風18号の進路予報(9月18日9時の予報)
図5 平成29年(2017年)台風18号の進路予報(9月18日9時の予報)

 つまり、台風の速報値では、台風統計が行われるようになった昭和26年(1951年)以降、主要4島すべてに上陸した初めての台風になったわけです。

 しかし、台風の最解析の結果、台風が温帯低気圧に変わったのは、9月18日21時にオホーツク海とされていたのが、新潟県佐渡市付近にあった9月18日3時と修正されました(図6)。

図6 平成29年(2017年)台風18号の経路図(確定値)
図6 平成29年(2017年)台風18号の経路図(確定値)

 つまり、北海道に接近した時には温帯低気圧に変わっていたわけで、北海道上陸はなくなりました。

 つまり、一つの台風による主要4島上陸は幻になっています。

台風18号 北海道上陸せず

 9月17日から18日にかけ、九州、四国、本州、北海道の全てに上陸したとしていた台風18号について、気象庁は「北海道に上陸する前に温帯低気圧に変わっていたことを確認した」と発表した。

 4島上陸ならば1951年の統計開始以来、初めてだったが、実際の上陸は3島のみだった。

引用:平成29年(2017年)11月9日付読売新聞朝刊

 気象庁では、常に新しく入手した資料などをもとに再解析を行い、最善なものを記録していることから、「台風番号は台風の発生順につけられますが、台風番号順に発生しているとは限らない」ということがおきます。

 一見矛盾しているようですが、珍しいことではありません。

 令和4年(2022年)も、台風10号の発生は8月5日15時ですが、台風11号の発生は8月4日9時です。台風11号のほうが、台風10号より30時間も早く発生しています。

 これは、現業的な作業過程で、10号、11号の順で命名した後、遅れて入った資料を加えた解析の結果、11号の方が先に発生したことがわかったのですが、ひとたび発表した台風番号は混乱を防ぐ意味で変更しないという大原則があるからです。

 また、再解析の結果、台風として扱わなくなった場合には、その台風番号は欠番となります。

 台風統計が行われるようになった昭和26年(1951年)以降では、昭和29年(1954年)の2号と10号の2例があります(図7)。

図7 気象庁ホームページにある昭和29年(1954年)の台風10号
図7 気象庁ホームページにある昭和29年(1954年)の台風10号

 反対に、再解析の結果、新たに台風の発生が認められた時は、小数点のついた台風番号をつけることになっています。

 昭和26年(1951年)以降、小数点のついた台風番号はありませんが、過去には、昭和25年(1950年)に台風41号と台風42号の間に、新たに2つの台風が発生していることが明らかになったため、41.1号台風と41.2号台風と名付けられています。

 つまり、この年は、台風41号の次が台風41.1号で、台風41.2号、台風42号と続いています(図8)。

図8 小数点のついた台風番号の台風の経路(昭和25年(1950年)の台風41.1号と台風41.2号)
図8 小数点のついた台風番号の台風の経路(昭和25年(1950年)の台風41.1号と台風41.2号)

 いずれにしても、一度発表した台風番号は混乱を防ぐために変更しないこと、気象の解析は台風も含めて、常に見直し、できる限り最善のものとすること、という形で残されていることによって、色々なことがおきているのです。

タイトル画像、図2、図5の提供:ウェザーマップ提供。

図1、図3の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

図4、図6の出典:気象庁ホームページに筆者加筆。

図7の出典:気象庁ホームページ。

図8の出典:饒村曜(昭和61年(1986年))、台風物語、日本気象協会。

表の出典:気象庁ホームページ。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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