「花燃ゆ」最終回に思う
大河ドラマ『花燃ゆ』が12月13日(日)、いよいよ最終回を迎える。
最終回の1話前で、ようやく再婚した、主人公・美和(井上真央)と楫取素彦(大沢たかお)が、華やかに正装して「いざ、鹿鳴館へ」……。
正直、もっと早くにふたりが再婚して、夫唱婦随でがんばっていく姿を描くのかと想像していたら、夫婦としてのお仕事は最終回だけとは。でも、その最後の1話に、ふたりが共に生きる意味がぎゅぎゅっと凝縮されている。
長らくふたりの関係にやきもきしてきた身としては、まず、タイトルバックの井上真央のところで、おお!となる。必見。
小松Pが「新しいスタートを想像させるような終わり方にしたいと思っていました」と言うだけに、最終回でもなお、美和も楫取も人生の選択を迫られる。そして、迷う。
ドラマがはじまった頃は、高杉晋作(高良健吾)や吉田松陰(伊勢谷友介)などの誰もが知っている偉人が登場して、持論を明晰に語り、毅然と人生を選択して、潔く散っていった。それに比べたら、美和も楫取も地道過ぎるほど地味。それが大河ドラマらしくないという声もあったが、それこそが制作側の狙い。
「1話から40話までは、当時の日本の価値観を壊す幕末を描き、40話以降、最終回までは、新しい日本をつくっていく日本人の姿を描きました。それも、無名の一般の人々がその下支えをしていった部分を。大河ドラマには偉人の一生を描くイメージがありますが、人間、誰にでも大河ドラマがある。その代表が美和だったと、そんなふうに感じてもらえると嬉しいです」と小松Pは、『花燃ゆ』の選んだ道に満足そうだ。
最終回は、美和に楫取、そして、群馬の人々、美和の実家・杉家たち(個人的に、檀ふみ演じるお母さんと、久保田麿希演じる兄嫁の変わらない生活者としての姿に癒された)……それぞれが、未来に向かって生きて行く。
小松Pの描きたかった「大河」とは、ひとりの人間の大河ではなく、支流と支流が出会って大きな河となっていくように、人と人とがつながってつくりだす「大河」だった。
「とにかくつないでいくってことを、1話めからずっと目指してつくってきました。あの時代のひとたちの思いや行いが、今にもつながっている。そんなふうに感じていただけたら」
カリスマ的な人物ではなく、市井の人々のつつましさを、井上真央と大沢たかおが的確に演じてきた。ハデな武勇伝がなく、あらかじめ視聴者がその人生を知らない人物を1年間、大河ドラマで演じるのはなかなかハードルの高い作業であったろう。井上、大沢だから、よく知らない人物を魅力的にすることができたのではないか。地味ではあるが、非常に足腰がしっかりした演技力によって、言ってみれば、藤沢周平が描く世界のような大河ドラマの可能性が開かれたのではないか。
最終回は、他局でフィギュアスケートが放送される。まさに日本を牽引するカリスマ的スターが出たフィギュアと庶民の大河。奇しくも世界の縮図がそこにある。さて、どちらを選択しようか。
大河ドラマ「花燃ゆ」最終回 12月13日(日) NHK 総合 よる8時〜 BS プレミアム 午後6時〜