“新生”なでしこリーグ初代女王は伊賀FCくノ一三重。ベストイレブンは全員が初受賞!
【力の差を見せた伊賀が初優勝】
日本の女子サッカーは、今年9月にスタートしたプロ選手主体の「WEリーグ」がピラミッドの最高峰にあるが、「なでしこリーグ」は今も健在だ。WEリーグに9チームが移ったことで、なでしこリーグも再編成され、現在はアマチュアのトップリーグとして継続している。
10月には今季の全試合を終え、表彰式で得点王やベストイレブン、リーグMVPなどが発表になったが、その多くが初受賞だった。各賞の顔ぶれを紹介しながら、今季のなでしこリーグを振り返りたい。
優勝したのは、伊賀FCくノ一三重だ。WEリーグ参入に必要なスタジアム要件の未達成などが壁となり、プロ化は道半ばだが、サッカーの内容面では、WEリーグでも十分に戦える力を備えている。今季は2位以下に二桁の勝ち点差をつけるぶっちぎりの強さだった。
そして、この伊賀を率いる大嶽直人(おおたけ・なおと)監督が最優秀監督に輝いた。伊賀がボール保持を主体としたパスサッカーからハイプレスと縦に速い攻撃を融合させたスタイルへと舵を切ったのは、同氏が就任した2018年のことだ。
自身も日本代表経験のある大嶽監督は、「代表が強くなってほしいという思いで(サッカーの)スタイルを変えて、お客さんが見て楽しいと思ってもらえるようなチーム作りをしてきました」とこの4シーズンを振り返る。
その狙いをよく理解して体現し、リーグMVPとベストイレブンをダブル受賞したのが、背番号10のMF杉田亜未だ。前線の守備、チャンスメイクからフィニッシュまで絡み、14ゴール(ランキング2位)を決めた。
今年29歳になる杉田は、知的なゲームメイクに加えて、高強度で90分間走り続けるスタミナも抜群だ。理想の選手にセルティックのFW古橋亨梧を挙げており、「アグレッシブに走り続ける姿勢や、スプリント力は自分も上げていきたい」と、今後もプレー強度を上げていくつもりだ。
得点王とベストイレブンをダブル受賞したのは、FW西川明花。19ゴール(全22試合)を決めて伊賀の前線の核となった。得意のワンタッチシュートに加え、オーバーヘッドやロングシュートなど、多彩なゴールでサポーターを沸かせた今季最高のストライカーだった。
また、高いコミュニケーション力で大嶽監督と選手たちのつなぎ役を果たした主将のDF作間琴莉もベストイレブン入り。表彰式では、「日本代表を目指すところは変えたくないですし、変えてはいけない部分だと思う」と、力強い決意を口にした。このほか、伊賀からは最小失点を支えたDF宮迫たまみとGK藤田涼加、ボランチとして攻守の歯車となったMF鈴木千尋の計6人がベストイレブンに選ばれた。
混戦となった2位争いを制したのは、東京都世田谷区を拠点とするスフィーダ世田谷FC。伊賀と同じく、WEリーグ参入へのチャレンジを公言しているチームだが、同じくまだプロ化には至っていない。
2部で優勝した昨季の主力の大半が残って戦力を維持し、神川明彦新監督を迎えた今季は「成熟と挑戦」をテーマに戦い、終盤に勝ち点を伸ばした。
恵まれたフィジカルと決定力の高さが光るFW大竹麻友が、14ゴール(得点ランク2位)でチームを牽引。目標は高く、「WEリーグと比べると、まだまだ足りないなと感じるので、実力をつけてチームを底上げしていきたい」という。また、正確な左足のキックでセットプレーやカウンター攻撃を支えたDF奈良美沙季もベストイレブンに選出された。
3位に入ったのは、セレッソ大阪堺レディースだ。昨季1部で4位と躍進したが、オフに主力が多数移籍。東京五輪に出場したMF林穂之香、MF北村菜々美、FW宝田沙織の3選手や、今季INAC神戸レオネッサで活躍する17歳のFW浜野まいかなど、攻撃の核がチームを離れて前半戦は苦しんだ。
だが、新たな才能が次々と芽吹いてくるのがC大阪堺。その中でもひときわ若い16歳ながら、10番を背負い9得点6アシストの活躍を見せたMF小山史乃観(こやま・しのみ)は、今後が楽しみな逸材だ。テクニックとスピードを兼備し、サイドバックやFWなど複数のポジションをこなせる。U-19代表候補にも飛び級で入った小山は、「世界のトップレベルの選手のプレーを見て、試合中に表現できるようにしています」と、成長に対してどこまでも貪欲だ。
「WEリーグにいくということが今の目標ですし、将来的には世界で活躍して、バロンドールを取ることです」
大胆な目標をまっすぐな瞳で語った小山が、なでしこジャパン入りする日も遠くはなさそうだ。
そのほか、7位・ASハリマアルビオンのMF千葉園子と、8位・NGUラブリッジ名古屋のMF三浦桃がベストイレブンに入った。千葉は、ずば抜けた身体能力を生かしたプレーが魅力で、ハリマ一筋9年目のアタッカー。過去にはA代表で強豪国との対戦経験もあり、「サッカーをしている以上トップを目指します」と、代表への思いも口にする。
三浦は、しっかりとパスを繋ぐ名古屋のサッカーを、心臓部のボランチで支えた。相手に研究された後半戦は苦しんだものの、1部参入1年目で8位の成績は健闘の結果だろう。名古屋もWEリーグ入りの構想があり、三浦は「地元(愛知県)出身なので、ラブリッジで、上のリーグでやりたい思いがあります」と、地元からのトップリーグ入りを見据えている。
【WEリーグと相乗効果の発展を目指して】
WEリーグが創設されたことで、プロ選手が増えて女子サッカーの裾野が広がり、それによってなでしこリーグも活性化していくことは理想だ。だが、今季の両リーグを見ていると、少なからず課題も見える。
シーズンが同じでないことは、その一つだろう。WEリーグは日本サッカーで初めて秋春制(9月から5月)を採用し、数年間は昇降格なしでリーグを安定させていく。ただ、現状、両リーグ間での移籍は、選手の契約期間や職場との調整などで、シーズンの違いが壁になると予想される。いわば、ピラミッドが途中で切れているようなイメージだ。
伊賀の大嶽監督は、「なでしこリーグは、Jリーグで考えたらJ2(に当たるカテゴリー)ですから。両リーグが近づくことがWEリーグの発展や地域活性化にもなると思いますが、現状は(シーズンが)ずれた中でやっているので、いろいろな難しさがあります」と、思いを語っている。
観客数の減少も厳しい現実だ。なでしこリーグ1部の1試合あたりの平均観客数は、2020年の715人から、今季は292人に減少した。代表選手などの多くがWEリーグに移ったことで固定客層が離れたことが大きいと思われるが、各クラブはコロナ禍での運営に精一杯で、集客まで手が回っていない面もあるだろう。
「なでしこリーグチャンネル」(YouTube)で全試合が実況付きで放送されるようになるなど、視聴環境が整ったことはポジティブな変化だが、視聴回数を増やすためには、まず「見てもらう」きっかけを作る更なる工夫が必要かもしれない。
WEリーグは「1試合平均5,000人以上」を目標に掲げ、各クラブはその目標を達成するために苦労しているが、その高い壁を乗り越えるためのプロセスは、WEリーグとなでしこリーグで共有していきたい。
クラブ運営の収入源は「チケット」、「スポンサー」、「放映権」、「グッズ等」の4本柱と言われる。ただ、現状はWEリーグもなでしこリーグも、スポンサー収入が大半を占めている。リーグの優勝賞金が、昨季の1000万円から今季400万円になったことも、リーグが置かれた現状を端的に示している。チケット収入を増やしていくことは、リーグの安定化に欠かせない。
このように、いくつかの課題も見えてきた今季のなでしこリーグだが、ピッチに目を向ければ、目の前の試合にすべてをかけて戦っている選手たちの意地とエネルギーがぶつかり合い、見応えのある試合は多かった。
11月末から始まる皇后杯では、WEリーグとなでしこリーグのチームの熱戦が各地で見られる。今季、なでしこリーグで輝いた選手たちの活躍とジャイアントキリングなどが、大きな見どころとなりそうだ。
*表記のない写真はすべて表彰式のスクリーンショットを使用しています。