Yahoo!ニュース

日本代表に必要な3要素とは? トニー・ブラウンが説く。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
現役時代は日本のワイルドナイツでもプレー。タフな選手だった。(写真:REX/アフロ)

 日本代表のち密かつスリリングな攻撃のプランは、この人が立てている。

 トニー・ブラウン。アシスタントコーチとしてアタックを担当する元ニュージーランド代表スタンドオフだ。

 世界有数の戦術家と謳われ、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチとは前任のハイランダーズ時代からヘッドコーチとアシスタントコーチの間柄である。

 ワールドカップ日本大会でのヴィヴィッドな攻めも彼のアイデアがもたらしたもので、今秋の同フランス大会へも自軍のベースをブラッシュアップしている。選手が左右にまんべんなく散り、キック、パスをスペースに配するのを目指す。

 6月12日からは浦安合宿を指導。キャンプ終盤の取材機会に、自軍のラグビーのコンセプトやその背景にあるラグビーのトレンドについて語った。7月から始まる対外試合を前に、日本代表の根本的な思想を確認されたい。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——現状でしていることは。

「まだプレシーズンフォーカスとして、たくさんの練習をさせています。フィットネス、ジム、タックル…世界のベストチームと戦う準備です」

——選手にスピード、フィットネスを求めているような。

「スピードとフィットネスのふたつがあれば、私たちはジャパンラグビーができます。どの相手よりも速く動く、相手のディフェンスが揃うよりも速くアタックする。スローダウンされてフィジカルゲームが始まると、自分たちとしては難しい展開になります。速くプレーする」

 組織的かつ緻密な攻めには、相手よりも素早くポジショニングし続ける勤勉さ、持久力が必要だという。日本代表が高いフィットネスレベルを求めることと、ブラウンが細やかなアタックを構築することは地続きになっている。

 さらに続けるのは、現代ラグビーにおいて避けられないキックの蹴り合いについての私見だ。

——ボールを保持すること、蹴ることを両立させる。

「キッキングゲームは大きな部分を占めます。キッキングゲームを作ればカウンターアタック、ターンオーバーが起きやすい。そうなると、(相手の防御が不ぞろいな局面が増え)自分たちの(スピーディーに攻める)ジャパンラグビーができるようになります」

——キッキングゲームにトレンドはあるか。

「ディフェンスのアドバンテージが高くなっている。そのため防御ラインの裏のスペースが空いている。だからこそ、キックのバリエーションを持つことで、自分たちがスペースをアタックできることに繋がる。

 ハイボールを蹴る。その地点に圧力をかけられる。ターンオーバーを決める。すると、(相手防御が揃う前に)速いアタックができる」

——「裏のスペースが空いている」のはなぜか。

「ディフェンスコーチが前でタックルをさせたいからではないでしょうか。すごく強いチームの素晴らしいコーチは、タックルした後に素早く起き上がらせ、ラインスピード(防御の出足)を上げる。そして、タックル自体も上達している。フロントスペース(防御に近い位置)で勢いを作るのが難しくなっている。

 身体の大きい選手は、(キックを蹴られるなどして)後ろに振り返って戻るのが嫌いです。そこを、私たちはラグビーのなかで使っていきたいです」

——ディフェンスのラインスピードを上げる。それは、日本代表も同じことをしようとしています。裏を返せば、相手もその背後のスペースを突こうとする。

「だからこそ、バックフィールドのカバーリングもうまくならなければいけない」

 システム上、防御ラインの裏側はスタンドオフ、ウイング、フルバックなどがカバーしそう。相手のキックに備える。

 これから日本代表戦を含めたラグビーの試合を観るなら、得点の動いていない間も戦況を注視したほうがいいとわかる。

 序盤のやりとりで語ったスピード、フィットネス、そしてキック戦術。日本代表の攻めに求められるのは、この三要素となりそうだ。

——現状、戦術面での準備はどれくらいしていますか。

「毎日、少しずつだけです。来週(宮崎合宿)からより本格的に」

——戦術的に新しいことをするのだとしたら、いつ頃からでしょうか。

「ワールドカップでどのようにプレーしたいかについては常に考えています。ここからの(国内などでの)数試合を通し、ゲームでも多少の変更を加えながらやっていく。最終的には、ワールドカップのプランに向かっていきながら、変更していくイメージです。いっぺんにバッと変えるイメージではないです」

——なるほど。ワールドカップでどう戦うかの青写真はすでにあって、7月以降の試合内容を踏まえてその青写真を微修正していくイメージなのですね。

「そういうことです」

 プランニングの妙が垣間見えた。

——7月上旬のオールブラックスフィフティーンとの2連戦へ。

「ワールドカップの準々決勝に行けるくらいのチームが相手で、現状が知れる機会です。改善すべき点がどこかなどがわかります。まだプレーしていないので何とも言えませんが、フィジカリティについてはテストマッチができるだけの準備をしなければいけません。リーグワンの試合(国内リーグ)をした後とあり、より強度を高くしなければいけません。私たちがミスをしたら、いいチームはそこからどんどん得点してきます」

——ワールドカップ本番での試合のメンバーは、どのような過程を踏んで決定したいですか。

「毎練習が、選手にとってのチャンス。彼らがコーチたちを感心させれば、それを見て判断したい。練習へいい準備ができていない選手がいたら、そのポジションを他の選手が奪います。凄く競争が激しいです。どのポジションも、空いています(決まっていない)」

 選手たちはホテルに戻れば複数名で練習のビデオをレビュー。相互理解を促す。

 ひとたびグラウンドに出れば、必死の形相でバトルする。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事