浦和のWEリーグ優勝に「待った」、見どころ満載のWEリーグ終盤戦がアツい
【今節の優勝は持ち越しに】
WEリーグ2年目のタイトル争いが熱を帯びている。
優勝に王手をかけているのは、浦和だ。個の強さ、成熟した攻守の連係、試合運びの巧さ、選手層の厚さなど、総合力を示しながら首位を快走してきた。
しかし、12試合負けなしと波に乗り、「勝てば優勝」という状況で迎えた5月27日の長野戦で、痛恨の逆転負け(1-2)。優勝は次節以降に持ち越しとなった。
長野Uスタジアムには、浦和からも多くのサポーターが詰めかけていた。だが、シーズンを通して1試合平均14本のシュートを放ってきた攻撃力は、この試合ではわずか4本と鳴りを潜めた。
局面で数的優位を作りながらハードワークを徹底する長野に対して、浦和は持ち前の守備がはまらず、30度近い暑さも追い討ちをかけた。流れるような連係から早い時間帯にFW島田芽依のゴールで先制したものの、後半、長野のMF大久保舞のゴールで追いつかれると、終了間際にはMF鈴木日奈子に決められ、逆転負け。
浦和は、試合後はがっくりと肩を落とす選手もいたが、取材エリアでその空気をキッパリと断ち切ったのがMF猶本光だ。
「こういうふうに負けることはあり得るし、次の試合に向けていいテンションで、いいモチベーションで臨めたら全然問題ないです。一敗したからって、今までどれだけ積み重ねてきたんだっていう話ですから、『暗い雰囲気を出すんじゃない』とみんなに伝えました」
その言葉どおり、相変わらず浦和の優位は揺るぎない。次節6月3日の大宮戦に引き分け以上で優勝が決定する。
浦和駒場スタジアムでのホーム最終戦で優勝カップを掲げるか。それとも、埼玉ダービーで大宮が意地を見せるのか――。注目の一戦だ。
2位のINAC神戸と3位の東京NBは浦和が敗れたことで逆転優勝の芽も生まれたが、結果は2-2。ともに勝ち点「2」を失う痛み分けのドローとなった。東京NBは優勝の可能性が消滅し、FW植木理子は試合後に悔し涙を見せた。
個人に目を向けると、植木はこの試合で14ゴール目を決め、得点ランク首位を快走。同2位のFW田中美南(INAC神戸)も11ゴール目を決めており、残り2試合で各チームのエースたちがしのぎを削る得点王争いから目が離せない。
【熾烈な順位争いも見どころ】
順位が目まぐるしく入れ替わっている4位以下の争いも熾烈だ。
仙台(4位)は、5月1日に松田岳夫監督が退任。後任の須藤茂光新監督の下、4試合負けなしと好調だ。「イージーなパスミスが多く、基本を見直した」(須藤監督)成果だろう。パスミスが減って攻撃のテンポが上がり、FW松窪真心、佐々木里緒ら新加入選手たちが躍動している。
一方、5位の大宮は連勝の後、相性の悪い長野と千葉に連敗し、足踏み状態が続いている。復調のキーパーソンは、やはり8ゴールを決めているFW井上綾香だろう。浦和との今週末の大一番に向け、勝負の1週間となりそうだ。
千葉は1月に猿澤真治前監督から三上尚子監督が指揮を引き継ぎ、勝ち点を少しずつ積み上げ、6位まで浮上。今季21ゴール中16ゴールに絡んでいるMF鴨川実歩が多彩なプレーでチームを牽引し、抜群の存在感を放っている。今週末は2位のINAC神戸と対戦する。
今季、下位からなかなか抜け出せずに苦しんできた長野は、田代久美子監督の今季限りでの退任が発表されている。そんな中、先週末の浦和との大一番で劇的勝利を飾り、9位から7位に浮上。試合後に「私たちは失うものはないチャレンジャー。自信を持って試合に臨むことができました」と語ったのは、同点弾を決めたキャプテンの大久保舞だ。
決勝ゴールを決めた鈴木日奈子は、Uスタを“長野劇場”に変えた。自身にとってプロ初ゴールでもあり、「ゴールを決めた瞬間は、すべてがスローモーションみたいでした。なかなか実感が湧きませんが、大勢のお客さんの前で決められて嬉しいです」と、喜びを爆発させた。
8位の広島は、8試合勝利から遠ざかっている。ポジションごとの役割が明確で、連動した崩しも見られるが、決め手に欠ける試合が多く、昨季、後半戦でゴールを量産したFW上野真実の出場時間が伸びてこないのも痛い。その中でも、左サイドの中嶋淑乃が直近の8試合で4ゴール4アシストと気を吐いている。
一時は4位につけていたN相模原は14節以降、5連敗を含む6試合勝ちなしで9位まで順位を下げてしまった。ゴールが奪えずに苦しんでいたが、先週の新潟戦(△1-1)では3バックに変えて相手陣内でプレーする時間を増やし、16本のシュートを放つなど、変化の兆しは見えているようだ。
新潟(10位)は、開幕から15試合でわずか一勝と苦しんだが、16節でINAC神戸に勝利(1-0)して以降負けなしで、ついに最下位(11位)を脱出。INAC神戸戦から3(5)バックにして守備が安定、守護神のGK平尾知佳の好セーブが光る。攻撃ではFW道上彩花が前線で確固たる強さを見せている。
4連敗中のEL埼玉(11位)は、新潟と同勝ち点ながら、得失点差で最下位に沈んでいる。戦い方の幅を広げるポジティブなチャレンジの中で攻守が噛み合わず、大量失点や勝ちきれない試合が続いている印象だ。とはいえ、6位の千葉との勝ち点差は「4」。連勝すればまだ、中位進出の可能性はある。
タイトルに王手をかけた浦和、得点王争い、そして4位以下の熾烈な順位争い。ワールドカップメンバー入りを争う代表選手たちの活躍。最終局面を迎えたWEリーグは見どころ満載だ。
【3年目に向けた課題も】
秋春制を採用しているWEリーグは、シーズン終盤が暑い時期と重なり、選手たちの疲労の色も濃くなっている。
来季はW杯の後に五輪予選開幕があり、カップ戦決勝が11月5日に開催されることが決定した。となると、リーグ開幕は11月中旬以降になることが濃厚だ。3年目は冬から夏にかけてのシーズンということになりそうだ。
厳冬期のリーグ戦や皇后杯ではケガ予防やコンディション調整の難しさも増すため、その対策や、集客面でも工夫が必要だろう。
また、2年目で各チームから声が上がった課題の一つがレフェリングだ。Jリーグが採用しているVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)は、WEリーグは導入していない(予算の事情が大きいと思われる)。そのため、微妙な判定がそのままになってしまう。特に、結果を左右する場面やケガを誘発しかねない判定に関しては、改善を希望する声が多く聞こえてくる。
そうしたポイントについては、ディスカッションの場を増やしていくことが理想的だろう。3年目に向けて、そうした改善の余地がある点にも目を向けておきたい。
*表記のない写真は筆者撮影