「統一教会」

安倍晋三氏銃殺事件の山上徹也容疑者の犯行動機として、一気に重要キーワードとなった。

韓国に本部があるキリスト教宗教団体だ。

現名称は「世界統一平和家庭連合」。ただし韓国メディアでも従来どおりの名称「統一教」で報じられることが多い。

ここがどういった宗教団体なのか。今一度まとめを。若い人に話を聞くと、知らない人も多いゆえ。

韓国内では「財閥グループ」としても知られた

教団発表によると韓国の信者は30万人でそれ以外は300万人。そのうち日本には10万人の信者がいる。194カ国に教会があるという。

初代教祖の文鮮明氏（ムン・ソンミョン／1920年1月6日- 2012年9月3日／享年92歳）が絶大な力を誇ってきた。宗教活動のほか、財閥「統一グループ」は最盛期（2012年以前）には米韓に8つの学校、日米韓と中米にメディアを8つを有するほか、建設、食品系の企業を有するなど国内30位前後の中堅財閥としても知られた。

韓国内では一般的には「新興宗教」、キリスト教界隈では「異端」とみなされる。教祖を「イエスの再臨主（メシア）」とする教義のためだ。

また「合同結婚式」「霊感商法」「勧誘」などを通じたトラブルでも知られてきた。韓国の弁護士集団「韓国キリスト教異端相談所協会」公式サイトでは統一教会は「4大問題団体」の一角には入っていないものの、「その他の問題団体」の一番上に紹介されている。

• 若かりし日の文鮮明氏。韓国「MBC」より

日本で超有名芸能人の入信が話題

1954年に韓国で設立された宗教団体が、まず最初に日本で大きな話題になったのは1980年代だった。

特別な効能があるという「壺」を不当な高値で売る「霊感商法」が社会問題化した。

1990年代には有名人の入信騒動が話題となった。

92年6月、歌手桜田淳子さんが会見を開催。同年9月にソウルで行われる統一教会の「合同結婚式」に参加することを発表した。当時34歳。70年代に名を馳せたアイドル歌手の宣言は大きな衝撃を与えた。

「合同結婚式」とは、「教団側が決めた2人」が、「同じ場所で同時に結婚式を挙げること」。この年の8月に行われた式には蚕室オリンピックスタジアムに6万人が集まった。

また、新体操指導者で現役時代には日本選手権5連覇、84年ロス五輪8位の実績を持つ山崎浩子さんの入会も大きな話題となった。89年、「手相や字画を見るという男性」に会い、2度めの面会で3本120万円の印鑑を購入。

山崎さんは92年3月「祝福を受ける＝合同結婚式」への参加を決意。桜田さんも参加した6万人規模の式に参加した。しかしその後、講演活動の依頼が減るなど経済的に困窮。結局は姉らの説得により93年4月に会見を開き、脱会を表明した。

"キリスト教徒が多い国"韓国の宗派のひとつ

では、韓国での同宗教団体はどういった位置づけなのか。

まず前提として、韓国にはキリスト教徒が多い。「日本は1％、韓国は30％」というのが定説だ。

例えば韓国の友人と週末の予定を組むにしても「日曜の朝は教会に行くから無理」という話はよくある。ああそう、なら別の時間は？と聞く程度の話だ。また筆者自身、韓国で非常にお世話になった方に「週末、みんなでドライブに行って、そのまま一緒に泊りがけでお祈りしない？」と誘われ、断りきれずに行ったら新興宗教の徹夜のイベントだったということもある。

キリスト教徒が多い国ゆえ、多くの宗派が存在する。1000以上の教会を有する宗派が10ほど存在するのだ。「統一教会」はそのうちのひとつだ。

1954年設立。当初の名称は「世界基督教統一心霊協会」だった。「全キリスト教会を霊的に統合させる協会」という意味だ。

設立直後から「有名大学の学生20人が一気に他の教会から統一教会に移る」という出来事があり、これが物議を醸した。「強引な勧誘」と見られたのだ。韓国のキリスト教内では常にこの疑いが問題の引き金になる。

そういった経緯もあってか、教団は設立後すぐ海外での布教活動に力を入れていった。なかでも日本に対しては1965年の日韓国交正常化前から密航して布教活動を行うほどの熱心な姿勢を見せた。教祖である文鮮明氏が戦時中、日本の高校を卒業した経歴も関係があると見られる。

参考記事：安倍氏事件の新キーワード「統一教会」　韓国でも過去に「自民党との縁」「信者の金銭トラブル」報道（筆者による）

その文鮮明氏の存在はやはり教団を語るにあたって外せないものだ。1992年に自らを「メシア（再臨主）」と公言。絶大な力を発揮した。

政治的には保守的な思想を持ち、反共組織「勝共連合」を結成。これは国内外で力を発揮した。「日本の自民党と強い関わりをもった」と本人の語録でも明らかにしている。この組織の集会は1970年にソウル市内で120万人を集めるほどの影響力を持った。

97年に名称変更

1980年代から90年代にかけて日本で話題になった後、教団は大きく変化している。

まず97年に教団の正式名称を変更。現行の「世界平和統一家庭連合」とした。この理由として韓国のキリスト教系メディア「基督新聞」は「合同結婚式をより進めること」が理由だったとする。

「女性連合や家族連合など、団体内の宗派に所属する統一教徒が合同結婚式により多く参加する方法を模索した際、多くの国に布教をしていく必要がある。その際に『本体である統一教という名称さえも変更し、宗教の匂いも最小限にするべき』という処置がなされた」

要は「仲間を増やすために名前を変える」という処置だ。教義などには全く変化がなかったのだという。同紙は「仮面を変えただけ」と評した。

前述の通り、統一教会内では合同結婚式を「祝福」という。これによって「幸せな自分たちの仲間が増える」と考える。韓国の統一教会専門研究家のキム・ミョンヒ氏はこの記事で「文氏は360万組の結婚の達成を目標とし、一大政治勢力を作る野望がある」とコメントを寄せた。いっぽう、詳細は後述するが「少数分派がたくさん存在する」という点もこの教団を理解するなかで大きなポイントとなる。

初代教祖死去後の大混乱

教団は2012年9月3日前後を境にさらなる大転換期を迎えた。

文鮮明氏死去。

氏の生前から長男から7男までが後継者候補に挙がってきたが、これが紛糾。結局、教団は3男、7男、そして母（文鮮明氏の妻・韓鶴子氏）の3つに分かれた。

3男　家庭平和協会

7男　世界統一平和聖殿(通称サンクチュアリ)

母 世界平和統一家庭連合

• 現在の教団トップ　韓鶴子氏

そのうちの韓鶴子氏の率いる「世界平和統一家庭連合」が「旧統一教会」として活動する。「家庭連合」の下にはさらに10以上の分派が存在している。

後継者問題の起きた過程で、2010年4月14日に財政面で大きな出来事があった。当初、正統な後継者と見られていた3男は「家庭平和協会」を設立した。しかし教義を巡って父らと対立。その後、教団全体の財産の8割を有したとされる「UCI財団」の定款を自らの意思で書き換えたのだ。「統一教会」の名前を削除し、自らのものに。これによって教団は所有していたプロサッカーチームや教団施設を手放すこととなった。

晩年に近かった生前の父・文鮮明氏はこれに激怒。「すべて元に戻せ」と主張したが、3男はこれを無視。UCI財団を巡っては、3男と教団側で長い裁判が行われている状況だ。

この出来事が現在の教団としての体制にも大きな影響を与えていると見られる。

現在の「世界平和統一家庭連合」は「以前の財力はないが、先代からの名称も引き継ぐ主流派」といった位置づけだ。

最後に日本では大きく報じられる「寄付」について。韓国内では「韓国では礼拝参加や献金を熱心に行う信者はそれほど多くない」とも報じられる。教団発表では国内で10万人が信者登録しているが、礼拝にあまり参加しない人も多いのだという。

（了）