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安倍氏事件の新キーワード「統一教会」 韓国でも過去に「自民党との縁」「信者の金銭トラブル」報道

(提供:イメージマート)

安倍晋三元総理襲撃事件の山上徹也容疑者が口にした「宗教団体」とは通称「統一教会」だった――。

きょう11日午後、都内で教団側が会見を行うと日本の複数メディアが報じている(TBS「ひるおび」も報道)。そこまでは10日の参院選への影響を考慮し、「特定の宗教団体」とだけ記されていた。

「統一教会」。

日本でも1990年代に「合同結婚式」などで多く報じられた。韓国に本拠地のある宗教団体だ。

事件の犯行動機の解明は捜査中の項目のひとつだろうが、いずれにせよこの「統一教会」は現時点での事件のキーワードのひとつになった。

これまでも日本のメディアでは、「自民党と統一教会の関わり」あるいは「安倍晋三氏とそれ」については報じられてきた。1999年には「週刊現代」が詳細を掘り下げている。

ここでは教団が「韓国でどう見られているのか」をお伝えする。教団の基本情報のまとめ、加えて「安倍晋三氏との関わり」「信者の金銭トラブル」について。2017年に後者ふたつを掘り下げた記事もある。

韓国では「異端」の扱いも 世界に330万の信者

「統一教会」は通称だ。韓国では2012年までは教会内の数多い宗派の総称として「統一教」と呼ばれてきた。しかし初代教祖の死後、後継者問題を経て2013年からは多数の流派のうち、主流である「世界平和統一家庭連合」の名称が使われている。日本法人は2015年8月に名称変更が認められた。ただし、韓国メディアではそれ以前も使われてきた「統一教」と呼ばれることが多い。

1954年設立。当初の名称は「世界基督教統一心霊協会」だった。韓国の一般社会では「新興宗教」、国内キリスト教界隈では「異端」として扱われる。

異端、とされる理由のひとつは教祖(韓国語では「教主」)である文鮮明(ムン・ソンミョン)氏が自らを「メシア(イエスの再臨主)」と主張することにある。

教団側や韓国の「毎日宗教新聞」などによると、世界195カ国に教会がある。韓国の信者は30万人(関連企業などに務める人を含めると100万人とも)、海外の信者は300万人水準。国別の内訳は日本に60万人、フィリピンに12万人、コンゴ共和国に11万人、タイに10万人、アメリカに10万人水準だとされる。

  • 2021年8月、ソウル近郊の加平(カピョン)郡に建設中とされた教団関連施設

教祖が自らを「メシア」とする宗教団体のなかでは世界的規模。そんな評価が韓国内にもある。系列の企業グループも存在し、最盛期には食品、建設、旅行など13の企業があった。

いっぽうで、初代の教祖文鮮明氏が2012年に享年92歳で死去する前後から、後継者を巡っての動揺があった。

氏の長男ヒョジン氏は音楽の道を志し、後を継がず。次男フンジン氏は交通事故にて17歳にして死去。その後3男が一度引き継いだが、教義に反する行動があったほか、教団の財産を巡ってのトラブルもあった。さらに7男に宗教部門、4男に実業部門を引き継がせたが、文鮮明氏の死後、3番めの妻で現在の教祖韓鶴子 (ハン・ハクジャ)氏が2人を解任した。

その後、教団は3男、7男、そして母(文鮮明氏の妻・韓鶴子氏)の3つに分かれた。そのうちの一つが「旧統一教会」=「世界平和統一家庭連合」として活動する。家庭連合の下にはさらに10以上の分派が存在している。

ちなみ1990年代に日本でも話題になった「合同結婚式」は最近でも行われている。直近では2020年2月7日などに行われた。

なぜ日本に? 自民党と?

日本との関わりは、1954年の設立当初からあった。

当初から、韓国にもまだ教会施設が多くはないなか、教団は米国・日本など海外への普及に積極的に取り組んだ。なかでも日本には国交樹立前(1965年前)から密入国してまでも宣教活動を行ったという。

日本へのこだわりの理由としてひとつ考えられるのは、文氏のライフヒストリーにもある。キリスト教系メディア「ノーカットニュース」は、本人が江本龍明(えもと・りゅうめい)の日本名で1943年9月30日に早稲田大学付属の工業高校を卒業したと2017年に報じた。同メディアは記事の中で独自入手したという卒業証書の写真を掲載している。それまで韓国内で噂はあったが、同メディアは卒業証明と「誕生日が一致」した点を証拠とした。

文氏は日本との関わりのなかで、自民党との関係を築いていった。

前出の韓国の「ノーカットニュース」(キリスト教放送局「CBS」系)の記事は、2017年9月5日に「統一教ルポ」として記されたものだ。タイトルはこうだった。

「新・親日 統一教と自民党政権40年の癒着…自民党議員180名と関係」

そこで「日本側の資料に当たった結果」として以下の点を紹介している。

「日本の安倍晋三総理の祖父であり、自民党内の極右派だった岸信介前首相は1970年4月に統一教会を訪問した。以降、岸信介は自民党内で統一教を政治勢力化し、勝共連合を自民党の政治的目的に利用することとなった」

「勝共連合」とは統一教会(つまり文氏)が1968年に設立した社会団体。国内外で共産主義に勝つための研究・研修・運動を繰り広げた。つまりは反共主義の最前線に立つ韓国にある本部の教えを基に、他国でも「動ける集団」を作ったということ。韓国国内では時の朴正煕政権の支援も受けていた。教団側は教義と反共を結びつけるという動きも見せた。

  • 同記事の映像版。クリックすると「いかに勝共連合」が当時の日本の自民党の助けとなったか、日本語で証言がなされている。

かつての日本の右派は「反共」の名の下で韓国と手を組む関係にもあった。よく知られるところだ。今の時代の韓国に対峙する雰囲気とは大きく違ったのだ。

そういった関係は、教団側も「別に隠しているものではない」。

前述の「ノーカットニュース」の記事では、1993年に発行されたいわゆる「文鮮明語録」の第191巻に本人が自民党との関係を口にした内容が紹介されている。

「これは歴史的な秘密なのですが、本来は日本の中曽根(康弘氏)と近かったのです。40日に一度ずつ、私が政治背景に対することを全部文書で報告し、方向を決めてきました(中略)。安倍さんは選挙では会派の議員数が13席しかなかったんですよ。これが88人になるまですべて教育して育てたんです」

教団を批判したい同媒体はこの下りを、「自慢げに話している」と紹介した。

また、同語録第163巻にはこういった下りがあるとも。

「日本に行けば自民党の分科委員長から議員(まで)だいたい180名程度が我々と関係を持っている」

「この人たちはすべて共産党と戦っている。その多くの連中は私が作った(ようなもの)」

さらに統一教会の機関紙「思想新聞」が1986年7月20日に報じた内容も紹介された。

「衆議院、参議院を選ぶ選挙で自民党のタカ派、民社党の150人の候補のうち130人の勝共推進議員が当選した」

あくまで文氏や教団側の発言ではあるのだが。

これらの内容「ノーカットニュース」が2017年の「文鮮明氏5周忌」の日に合わせ、わざわざ東京に記者を派遣してルポルタージュを記した肝いりの企画だ。韓国では初めて報じられる内容も多かったという。

しかしこれを当時韓国で流行っていた「親日狩り」の文脈で紹介したこともあり…その「偏り」から大きな反応は得られなかった。国内最大のポータルサイト「NAVER」上では、わずかリアクション「18」、コメントは「10」にとどまっている。

カネのこと「2000年前後に日本信者のトラブル報道も

最後にひとつ、自民党の話から離れ、山上容疑者が口にしているという「カネ」の話について。

前出の「ノーカットニュース」は「文鮮明氏5周忌」の特集第2弾として、日本を取材した結果として出てきた「カネの話」を伝えている。

記事に登場する日本の元信者Aさんは20年前(記事掲載の2017年から20年前=1997年)に「手相を見てやる」と誘われ、入会した。家族に黙って数千万円を教団に献金。取材に対してこう証言している。

「統一教ではカードローンでお金を借りてでも献金しろと行ってきた。カードが増えすぎて把握ができないほどになった」

「主人にバレないようにあまりに多くのお金を借りたので自己破産寸前」

「周囲の信者も似た状況になった。カードの請求書が届いたら、主人が帰ってくる前に隠した」

  • 同記事の映像版。クリックすると日本の信者の証言へ

また教団関連行事で韓国に行く際には「100万円」というように金額を決められ献金を求められたという。

97年前後といえば、1980年生まれの山尾容疑者が高校生の時期だ。確かに同時代の教団に対する「献金」の証言は出てきているのだ。

また同じく日本の元信者Bさんは「夫婦で信者となり、1億円以上を献金した」と言い、教団側からは「教団系列のメディアなど、経営難の会社に使ったり、あるいは世界各地の救護献金に使ったりしている」と話を聞いたという。

韓国でもそれ以前にこういったカネの話は報じられたことがあった。いっぽう同記事では日本側からの「韓国入国時に男性はかなり大きなサイズのスーツを着て、体にお札をぐるぐる巻にして入国した」といった証言を引用。これをもって「海外送金に関する法を犯している」のではないか、と疑問を呈した。

2022年7月11日のきょう、日本メディアが少しずつ「統一教会」の名を始めるにあたり、韓国メディア「MBN」(最大手経済紙「毎日経済」系)でも今朝のニュースで団体名を明らかにしてこれを報じた。動画へのアクセス数から見るに関心度は高くないが、11日午後に予定される会見で韓国側の反応の変化はあるだろうか。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。フォローお願いします。https://follow.yahoo.co.jp/themes/08ed3ae29cae0d085319/

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