相手が寝泊まりする場所に行って、大きな騒音を立て、ストレスを感じさせる。

これ、例えばサッカーの本場では時折起きることだ。今年の3月にも、スペインの強豪FCバルセロナがトルコに行った際、宿泊ホテル前で相手の過激サポーター深夜3時まで花火を上げる、といった出来事が報じられた。

ああ、荒っぽいやり方だね。さすが熱狂的な世界…。

という話が、韓国では政治行動として行われている。

それも

1ヶ月以上

24時間に渡り

そして

6月14日からは左右両陣営が。

場所は現職・前職の大統領の自宅前。それぞれの反対派のデモ隊が押し寄せ、スピーカーや楽器を使っての抗議を続けるという事態に陥っているのだ。

もともとは5月10日前後から右翼が文在寅前大統領の自宅に押し寄せていた。

6月14日からこれに左翼が反撃。文在寅大統領の自宅前で「報復デモ」を始めている。ソウル市南部の高級住宅地内に大型スピーカー8台を置き、マイクを通じての演説、その間に銅鑼を叩く。来月7日までこれを24時間続ける申請を警察側に出し、許可も受けているのだ。

  • 尹大統領自宅前でのデモを報じるMBC

反文在寅派 v.s 文在寅派 「戦いの場」が家の前に…

文在寅前大統領の反対派が、5月10日前後から慶尚南道梁山市の村にある新居前で抗議行動を始めた点は6日にお伝えした通りだ。

文在寅さんの穏やかな老後 右翼団体に妨害される 自宅前で連日抗議「スパイ野郎」「断頭台で切られろ」

文前大統領の退任に合わせ、自宅前に集結。任期中の不正を訴え、マイク・スピーカー・楽器を使って24時間抗議運動を続けてきたのだ。静かな農村での出来事だ。当然、周辺住民からもブーイングが飛び、前大統領の娘は「悪口を排泄してる」とさえ表現した。6月上旬の時点でいったん警察側が介入し、沈静化の方向に向かっているものの団体側は「集会の自由」を盾にやめようとはしない。

  • 文在寅前大統領の自宅前で抗議行動を行う韓国の右翼団体

これに敵対する文在寅派(左派)も立ち上がった。

8日に声を上げたのは、左翼系YouTubeチャンネルの「ソウルの声」。もともと「李明博大嫌い」というところから始まり、その後、同じ保守系の朴槿恵批判に転じた。あまりに敵陣営を厳しく攻撃するスタイルから、今年5月22日にYouTube側から「サイバー暴力の規定に反する」として収益中断の制裁も受けている(この時、ともに右翼系の有名チャンネル「縦横研究所」も制裁の対象に)。

先の大統領選挙では、同媒体所属の記者が尹錫悦候補(当時)の妻キム・ゴニ氏への電話取材の内容をすべて録音。これを地上波に売り飛ばし、敵陣に打撃を与えようとしたが、逆に「本音が気持ちいい」として本人の人気がアップするという「因縁」があった。

この”恨み”もあってか、同メディアはYouTubeを通じ「あっちが止めないのなら、こちらも自宅前で集会をやる」と宣言。

当初はターゲットを「朴槿恵前大統領自宅前」に定めていた。2021年12月30日に釈放された後、入院生活を経て今年3月8日から大邱広域市の外れに居を構えている。ここで「報復デモ」をやると。

尹大統領の「一言」で「旋回」

しかし6月7日、ある出来事からターゲットが「旋回」した。

尹錫悦現大統領に。

一言。それが原因だ。この日、尹大統領が「文在寅前大統領自宅前でのデモをどう思う」かと、メディアに聞かれてのことだ。

まあ、(抗議行動の規制は)法律通りにやらなくちゃならないんじゃないですか。(いま自分が務めている)大統領の執務室の前でもやってますし。(同日、大統領執務室@ソウル市龍山での囲み取材時に)

  • KBSが速報を出すほどのニュースになった

「自制を」といった話はせず、「法を守っているからいいんじゃない?」くらいのニュアンスで答えたのだ。

確かに文在寅前大統領前に集結したアンチ(右翼団体)は騒音の基準を守りつつ「法定の騒音ギリギリの音量を7分出し、その後休む」、そして「朝8時に始め、夕方6時に止める」するという手法を取っている。さらに警察に申請した上で正式に許可を得てやっている。検察出身の尹大統領もまた、「集会の自由は保証されるべき」という文脈からの発言を行ったのだ。

これに対し、文在寅支持派(左翼)団体は激怒。「一気に攻め込む」と決めた。冒頭の通り、現大統領の家の前で「騒音」を起こすことを決めたのだ。

「あまり主張内容がない」文在寅派 v.s 「手の込んだ」反文在寅派

では、「文在寅派」はソウル南部の高級住宅街にある尹大統領の家の前で何を訴えているのかというと…

「尹大統領は発言を謝罪しろ」

「キム・ゴニの拘束」

後者に至っては「何もしていない」。確かに選挙運動中に発覚した「大統領候補などの履歴詐称」は、「選挙法違反」という指摘はあるが…

ちなみにこの「権力者の自宅前でのデモ」、もともとは「左」の方が取ってきた手法でもある。2007年には当時の李明博大統領自宅前で「逮捕を求めるデモ」が行われた。4ヶ月に渡り「一人デモ」「ハンガーストライキ」「ろうそくデモ」などが行われたのだ。この時は民主党の政治家までもが参加、支持する発言を行った経緯がある。

朴槿恵時代も同様だった。厳密に言うと2017年4月に「罷免された直後」。大統領官邸を追い出され、ソウル市三成洞の当時の自宅前に戻った際に、反対派(左派)が自宅前に大挙。抗議運動を行った。地域住民は「日常生活が180度変わった」として告訴する事態になっている。

にもかかわらず、文在寅政権時代には国会で「前職大統領の自宅前でのデモ禁止」を立法しようとしたが…これは通らなかった。文在寅政権時代に保守派が言った「自分たちがやればロマンで、人がやれば不倫(ネロナンプル)」という批判を地で行く話だった。

いっぽうで今回の「自宅前デモ応酬戦」、反文在寅派(右翼・保守)のほうは手が込んでいる。

表に立つのは「コロナワクチン被害者の会」。なんとか文前大統領を「監獄送り」にしたい右翼は「ワクチン被害者に対し、責任を取る」と在任中に宣言した文前大統領を「逃げた」として追及する手法に出た。

  • 反文在寅側のデモ

そこにちゃっかり国内の保守系YouTuberが「便乗」。現場には「米韓同盟の結束を示す旗」や朴槿恵氏の父「朴正煕前大統領の肖像画」がうじゃうじゃと集う光景が繰り広げられている。ワクチンとは全然関係ない。

どっちもどっちだ。泥仕合。