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ソン・フンミン プレミア得点王獲得 韓国での評価 「パク・チソン超え」はどうなった?

(写真:ロイター/アフロ)

サッカー韓国代表のソン・フンミン(トッテナム)がイングランド・プレミアリーグで得点王を獲得した。

2021-22シーズンで23ゴールを記録。

モハメド・サラー(リバプール)との共同得点王となった。

欧州主要リーグでのアジア人得点王は初。

同じ韓国のチャ・ボングン氏は1978年から89年までの間、世界最高峰だったブンデスリーガで通算98ゴールを記録。これは長らく同リーグの外国人最多得点記録だったが、チャ氏はシーズン得点王のタイトルは獲得していない。

韓国がこの件で賑わっているというのはもちろんのことだ。翌日の午後になっても国内トップのポータルサイト「NAVER」には「11月のカタールW杯で対戦するポルトガルのメディアもソンの得点王に感動」などといった記事が出ている。

最終節、ノーウィッチ戦でのソン/中央
最終節、ノーウィッチ戦でのソン/中央写真:ロイター/アフロ

本稿では、少し角度をつけた見方を。

「パク・チソンを超えたのか」

韓国のスポーツ専門サイト「スポータル・コリア」のキム・ソンジン記者は言う。

「韓国のサッカーファンの間では”ソン・チャ・バク対戦”という論争がありますソン・フンミン、チャ・ボングン、パク・チソンのうちだれが最も優れた選手かという論争です。もちろん結論などありませんよ。3選手ともに優れた実績を残したからです」

参考:「朝鮮日報」が2019年6月の記事で示した両者の比較ポイント 

パク・チソン:ソン・フンミン

マンU(2005-13):トッテナム(2015~)

154試合出場19G2A:130試合出場42G19A(現在は232試合出場93G)

リーグ優勝4回:月間最優秀選手2度受賞(ソンは2019年当時)

「パク優位」「ソン優位」のポイント整理

野暮な見方でもある。いわば「王貞治氏と長嶋茂雄氏のどちらが凄いか」を比べるようなもの。言ってしまえば「それぞれの凄さがあるでしょ」という話だ。

とはいえ、日本だと「ソンに決まってるだろ」という見方もあるのではないか。

しかし、韓国ではじつのところそれまで「パクの偉大さには敵わない」という評価が大きかった。韓国スポーツメディアのサッカー担当記者は言う。

「ワールドカップでの実績がやっぱり違いますからね。パクは韓国サッカーが『何者でもなかった時代』に、3度W杯に出場し、2度ベスト16以上に入った。若手だった02年のベスト4はもちろんのこと、2010年南ア大会では絶頂期と言えるプレーを見せ、リーダーとして結果も残しましたから」

一方のソンはW杯では振るわない。これまで2014年、2018年の2度出場しているがすべてグループリーグ敗退。ただし後者では「カザンの奇跡」と言われるドイツ戦での2-0の勝利でダメ押しゴールを決めた。自らを育てた国・ドイツへの「恩返し」は美しかったが、結果はグループリーグ敗退だった。本当に「美しい敗退」だったのだが。その後韓国でのサッカー人気は下がらなかったのだから。印象には残ったが結果は残せていない。

いっぽうで「ソン優位」という見方ももちろんある。

ソンは言わずとしれたチームのレギュラー選手。その立場でCL準優勝も経験した。

最終節でのゴールを喜ぶソン
最終節でのゴールを喜ぶソン写真:ロイター/アフロ

いっぽうパクはプレミアリーグ優勝4回、CL優勝といった栄誉がある一方で、「完全なレギュラー」とは言えない面もあった。

この点、本人も自叙伝で「マンUでの背番号は13。これくらいの位置で出場機会を勝ち取る立場」と認めていた。「守備的ウイング」と呼ばれ、多く動いて味方のパスコースを作り出すことを心がけてきたのだと。ちなみに練習場では「ゴースト(幽霊)」と呼ばれていたという。豊富な運動量からピッチ上のどこにでも現れるからだった。

果たしてどちらが上なのか。

本人同士「超えた」「いや…」

国内大手紙もこのテーマを扱っている。

「朝鮮日報」は今年1月28日に「パク・チソン"フンミンは俺を超えたな"…ソン・フンミン"まだ違いますよ"」という記事を掲載した。

両者のオンライン対談がYouTubeで実現したのだ。

パクは「フンミンが幼い頃に『自分を超える』と宣言してきた」というエピソードを公開。「もう超えたな」と続けると、ソン・フンミンは「まだ超えていませんよ。越えようと努力しているところです」と答えていた。

2011年にカーリングカップでプレーするパク・チソン
2011年にカーリングカップでプレーするパク・チソン写真:ロイター/アフロ

中央日報は2019年6月26日にズバリ、こんな記事を掲載した。

「パク・チソンvsソン・フンミン、どちらが優れている?」

記事では国内外の有識者に対し同テーマでの投票を実施。

「ソン4票:パク2票:引き分け3票:棄権1票」という結果を発表している。まさに評価が分かれるというところだ。

ソンの弱点とは?

さて、今回の得点王を受け、その評価はどう変わったのか。

ロンドンから情報が発信された翌朝の23日、韓国メディアのサッカー担当者に話を聞いた。

「ソン・フンミンには唯一の弱点があります」

というのは、前出の「スポータル・コリア」キム・ソンジン記者。

「優勝です。チャ・ボングン、パク・チソンはそれぞれ所属チームで優勝した実績があります。ソン・フンミンはプレミアリーグの得点王にまでなりましたが、まだ優勝の実績がありません。チャ・ボングン、パク・チソンと肩を並べる選手にまったくの疑いの余地はありませんが、超えたと見ることはできませんね」

専門誌「ベストイレブン」のキム・テソク記者はこの5月に現地で試合を観戦。"皮膚感"をこう話す。

「現地のファンとも会話したのですが…パク・チソンは『ちょっと説明が必要な選手』。ソン・フンミンは『ソニ』の一言で通じる。時の流れはありますが、個人のパフォーマンスは圧倒的ですね。個人的にも『韓国人選手がプレミアでC・ロナウドより多くゴールを決める』なんてこそ、想像もしなかったですし」

ただし。キム記者の意見も「絶対的な1位」ではない。

「トロフィーがない。ソンはその点ではかつてのアーセナルのファン・ペルシーも連想させますね。韓国でも個人的なパフォーマンスとしてはすでに、パク・チソン、チャ・ボングンを超えたという雰囲気が圧倒的に強いです。現在でも歴代一位と言って不足はありません。ただ、トロフィーさえあれば、疑う余地のないナンバーワンなのですが」

ソンについては「まだまだ足りていないものがありますよ」という評価なのだ。

その評価の多くは具体的な記録から生まれるものだ。それでいてその数字の評価は抽象的。

EPLでの出場試合数、先発出場試合数、得点数、優勝回数、はたまたステージの違う代表チームでの実績。だからこそ、ファンの議論は楽しい。他国の話ではあるのだが…。

最終節でのゴールをチームメイトに祝われるソン
最終節でのゴールをチームメイトに祝われるソン写真:ロイター/アフロ

最後に余談だが、今回のタイトル獲得に関する韓国メディア報道では、「日本での反応」を引き合いに出すものも多かった。いずれもネット上での反応を引用したものだ。

「ソン・フンミン、得点王に日本列島も揺れた…アジアの自慢」(国民日報)

「日本人だけど、ソン・フンミンが誇らしい…SON得点王に日本も揺れた」(ヘラルド経済)

「日本のメディアも称賛…ソン・フンミン、アジアの快挙」(スポーツ京郷)

日本人がソンの活躍を羨ましがっている、という主旨。これ、実は最近の「韓国のネット上で反応の多い"日本についてのこと"」のひとつなのだ。韓国語ネット環境での「日本」の関連キーワード上位に「サッカー」が入る。これを辿っていくと、ソン・フンミンの記事やSNS上での言及にたどり着くことが多い。最近では「日本はカタールW杯で死の組に入った」という話題と双璧だ。

評価、という話でいうと、筆者自身の欧州在住の経験からして「サッカーでの東アジア勢の認知度」なんてせいぜい一つしかない。日本と韓国、両方が入る枠などないわけで、まあ今回のタイトル獲得も「リスペクトはすれど、ちょっと悔しがる」くらいでちょうどよいのではないか。同じく韓国勢の世界での活躍として、BTSのアメリカでの成功もあるが、彼らの音楽は楽しめど、こちらはスポーツ。勝負事なので。

参考記事:ワールドカップ組分け 韓国で「日本を笑う動画」が300万回再生 じつは”危険”なのはそっちだ(筆者による)

参考記事:今月 ”韓国で興味を持たれた日本” は何だった?上位に「地震」「GDP」「サッカー」 意外なアレも…(筆者による)

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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