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ワールドカップ組分け 韓国で「日本を笑う動画」が300万回再生 じつは”危険”なのはそっちだ

(写真:ロイター/アフロ)

そういうの、好きやんやろな~と思う。

「死の国に当たった日本 ”スペイン、ドイツ…列島は悲鳴」(ソウル新聞)

「”日本列島悲鳴、悲痛な声が乱れ飛ぶ” 死の国に属した日本、”挫折」(スターニュース)

日本時間の2日に行われたカタールW杯ファイナルドロー後の韓国メディアの報道ぶりだ。韓国が無難な組に入り、日本は難敵揃い。これを喜ぶかのような記事、記事、記事。

写真:ロイター/アフロ

韓国では近年、「サッカー」も「日本」も全般的な関心度が下がっているが、それでもじつは「日本」の枠のなかでは「サッカー」の関心度が高い。先月は「日本」と合わせてW杯最終予選関連のキーワードが多く検索された。気になる存在なのだ。

今月 ”韓国で興味を持たれた日本” は何だった?上位に「地震」「GDP」「サッカー」 意外なアレも…

そして今回の抽選後、「死の組」というキーワードを使って「朝鮮日報」「中央日報」「東亜日報」などが記事をアップした…つまり有力紙全部。

挙句の果てには、地上波MBCが自局のオンエア内容をYoutubeにアップした動画が308万回数再生と”バズった”。

「死の組に向かう日本!現実に舞い戻る時間が訪れた日本の監督と笑うMBC中継陣」

2日のドロー中継時、日本の組分けが決まった瞬間に解説陣が確かに笑い、キャスターが「頑張ってほしいと…思います」と口にしている。

”日本がドイツと同組” のみならず

なにせ、韓国は抽選前から2媒体(ソウル新聞、国際新聞)が「避けなければ」と記していたドイツと居合わせずに済んだ。

のみならず各紙が「無難」とするグループに入れたのだ。

・ウルグアイ…南米のチームとしては無難では。なにせ3位となった南米予選では、2位のアルゼンチンに11もの勝ち点差をつけられた。大会初戦。以下対戦順。

・ガーナ…プレーオフ日程の関係で出場国未定のくじを除いては、もっともFIFAランキングが低い(60位)。

・ポルトガル…ポッド1では最弱では。欧州プレーオフにより本選出場権獲得。その他にも縁があるのはよい要素。パウロ・ベント監督の母国。2019年にC・ロナウドがユベントスの一員として来韓も試合に出なかった件で大モメ。話題性も十分。

さらに今回のファイナルドローでは、韓国側に言わせれば”ドラマがあった”。

前回のロシアW杯の抽選会での出来事だ。当時、日韓両国は同じくポッド4に入り、くじが引かれる順番が連続した。その時のドロワーの手によって運命が大きく分かれたのだ。

グループF ドイツ・メキシコ・スウェーデン

グループH ポーランド・コロンビア・セネガル

運命がちょっと違えば、日本がドイツとメキシコのいる組に行き、韓国の方が楽と言われたポーランドの組に行く可能性があった。F組が決まった瞬間の当時のシン・テヨン監督の「チッ」とでも言っていそうな表情は国内で大きな注目を集めた。

それが今回は先に日本がドイツ・スペインの待つグループEに。リベンジ達成。さらに韓国は、ベルギーのいるF組も避け(モロッコが入った)、ブラジルのいるG組も避けた(大陸間のグループ分け配分のため)。

写真:ロイター/アフロ

結果的に韓国は第3ポッドで最後にくじが引かれたため、その前にモロッコのくじが引かれた瞬間に、早くから”結果”が分かった。ゆっくりと”イージー”と見ているポルトガルらがいるH組に入る時間を味わったのだった。そりゃ、楽しかったでしょうに。

韓国にとっては東京五輪に続く、”楽な組み合わせ”となった。ニュージーランド、ルーマニア、ホンジュラスと同組だった。日本はメキシコ、フランス、南アフリカだった。

日本は”良い時”には決して結果は良くない

今回のドロー結果について、元韓国代表のイ・チョンスは自身のYouTubeチャンネルで「韓国は戦ってみる価値あり、日本はそのまま大会を去らなければならないだろう」と評し、(これまた)爆笑。複数媒体がこれを報じた。

韓国サイドに一言、二言、申し上げよう。

日本のことをもう少し分析したらどうですか?

仮に日本の「組み合わせが良かった」として、実際に本大会の成績が良かったことがあるか。

ない。

2006年のドイツ大会と2014年のブラジル大会がそうだった。

06年にはこんな絵を描いた。オーストラリアに勝ち、クロアチアに引き分ける。ブラジルに負けても2位突破。そんな絵を描いた。

14年も然り。コートジボワールとギリシャ相手に1勝1分け、コロンビアともいい勝負で勝ち上がり…そんなことはさっぱり叶わなかった。

ドイツW杯、初戦の豪州戦で同点ゴールを許す日本
ドイツW杯、初戦の豪州戦で同点ゴールを許す日本写真:ロイター/アフロ

グループリーグを勝ち上がるには、1試合は必ず「強豪を食わなければならない」。言い換えるなら”絵に描いた餅”は意味なし。これ、日韓共通の表現だから分かるのでは。W杯たるもの、ああだこうだ考えてもほとんど当たらない。

構えて星勘定したり、楽な組だと安堵なんかするよりも、一つ強豪を食う気持ちでいたほうがマシ。日本はそうなのだ。

2018年のロシアW杯ではコロンビアを食った。2012年のロンドン五輪ではスペインを食った(残りはホンジュラス、モロッコ)。

大会初戦が大事、という説もあるし、また2010年W杯のように「第一ポッドには負けてもいい」(オランダに0-1で敗退)という結果もあったのだが、その考え方も常に上手くはいかない。グループの分け方など思い通りに行かないからだ。

だったらいっそのこと「最初から強豪の一つは食ってやる」という考えはシンプルで非常によい。今回だったらドイツかスペイン。どちらかが相手だ。食わなきゃ何にも始まらない。

韓国の”良い状態”は不慣れなのでは?

こういうことをいうと「開き直り」と解釈されそうなのだが、むしろ心配なのは韓国のほうだ。

上の話、言い換えるなら「いい状態だ」と構えるべからずということだ。「グループリーグの組分け」にせよ「自チームの状態」にせよだ。極東勢にとってその考え方は危険なものになりうる。

日本は上記の06年大会、14年大会、いずれも「アジア予選無風、アジアカップ優勝、コンフェデで健闘」という状況で臨み、散った。良い要素は「組分け」のみならず、準備段階でのチーム状況にもあったのだ。

今の韓国もそれに近い。アジア予選を1敗のみで突破。パウロ・ベント監督のポゼッションサッカーが大ハマリ。大エースのソン・フンミンも全盛期。日本はそうやって”失敗”してきた。「アジアカップ優勝」や「コンフェデ」がないが、その分韓国は、ここ20年来恒例の監督人事のお家事情がなかった。それゆえ「いい状態」という印象が強い。

カタールW杯アジア最終予選を戦う韓国代表
カタールW杯アジア最終予選を戦う韓国代表写真:ロイター/アフロ

逆に大丈夫か? 何せ慣れない状態なのだ。常に苦しい状況を跳ね返してきたのが韓国だったんじゃ? それが今は”余裕”で日本の状況を眺めている? 強豪との試合で勝利を目指すことを「事故を起こそう」と韓国語で表現する点、素晴らしいとも思ってきたのだが。

まあ韓国は2010年南ア大会で今回と同様に「無風」で予選を勝ち抜き、ベスト16入りを果たした歴史もあるが。それでも、だ。94年アメリカ大会はアジア予選で「ドーハの奇跡」に頼って出場するほどの苦戦後、スペインに引き分け、ドイツに善戦するなどの好成績。02年大会も同年1月にキューバと引き分ける失態を演じながら、本大会ではベスト4。「苦しい過程を経て」「大会直前まで変化」を遂げた時に好成績を挙げているのだ。

”安定”、大好きだろうけど…

韓国に対する反論はほどほどに、日本の話を。

そりゃ、準備が上手くいって、本大会でも上手くいけばいい。

日本にこそ”安定”が似合い、そしてそれを好んできた。変化、衝突、そして克服といった点はむしろ韓国社会が得意としてきたことだ。東アジア哲学、比較文明論が専門の京都大学小倉紀蔵教授はこう言う。

1948年に大韓民国が成立して現在までの歴史を知っている者なら、この国が尋常ならざる変革につぐ変革をやりとおしてきて、いまに至っていることが分かる。これほどの変革の連続は、日本のように安定性に最大の価値を置く国家とは根本的にまったく異なる国家だからこそできたことである

「韓国の行動原理」2021年PHP研究所より

サッカーの世界でも、「韓国から見る日本」の視点では確かに”安定性”というキーワードはある。筆者自身、90年代後半の日本サッカーの急成長について何度も韓国の友人からこの話を聞かされた。

「日本サッカーは中長期的計画と投資をちゃんとやったから成長した。選手の基本技術が高いのはユースの指導を計画性をもってやったから。Jリーグの基本理念”地域密着”もそう。しっかりとコンセプトを立て、取り組んだからこそ発展した」

そうやって成長してきたし、それを目指して戦ってきた。しかし、今大会の森保一監督はもはやその大好きな「安定」の流れを作れていない。

筆者作成(グラフィック内写真も筆者撮影) Yahoo! みんなの意見より
筆者作成(グラフィック内写真も筆者撮影) Yahoo! みんなの意見より

アジア最終予選前半で足踏み。先日、ベトナムに引き分けた結果Yahoo!での森保一監督の支持率調査の結果は、現状でなんと「7%」(4日まで投票・投稿受付中)。さらにファイナルドローで死の国。

いいじゃないか。

残念ながらこの”安定性”たるもの、日本という国が”西洋文化”と正面衝突するサッカーの場では言うことを聞いてくれない。思った通りになってくれないのだ。

”ドタバタの国、日本”が試されている。好まざるとも、この日本社会の一要素”サッカーのW杯挑戦史”はそれで結果を残してきた。

2010年の南アW杯。大会直前のチーム不調からの批判、そして追い込まれて守備的サッカーに転換してベスト16入り。先の2018年ロシアW杯も然り。本大会2ヶ月前の監督交代で選手・監督間のコミュニケーションが復活。息を吹き返した。

変化、変化、変化。落ち着かない。構えない。ここから本大会のある11月まではそうやって過ごすべし。苦しいことが起きているのにそれを達観するというのは簡単ではない。しかしそちらのほうがいい結果が出る確率が高いのだ。歴史上、今のところは。早く落ち着こうとするマインドのほうがよっぽど危険だ。

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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