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「ベテラン大量離職」の企業 どこで間違えたか? 「心理的安全性」の誤解から生じた悲劇

横山信弘経営コラムニスト
(ChatGPT DALL-E 3 にて筆者作成)

安全よりも安心を選ぶと、実はそれ逆効果であると、知っていただろうか? それがわからず、従業員30人のうち、9人のベテラン社員(50代前後)が離職した会社がある。今回はその理由を解説する。

最後にはなぜ、今は安心よりも安全を求める時代なのか。その背景についても紹介したい。

■安心と安全の違いとは?

「安心」と「安全」、この違いを正しく認識している人は少ない。

表面上似ているように見えて、実は根本的に異なる概念だ。多くの人がこれらを同じものと捉えがちだが、昨今、整理しておかないと時に大きな誤解を生む原因となる。

とくに「心理的安全性」という言葉を使うときは、絶対に意識しておこう。

では、安全と安心の違いとは何なのか?

安心は主観的な感覚であり、個々人の心の中で感じるものだ。いっぽう安全は客観的に判断することで、専門家による評価や証明が不可欠である。

例を挙げよう。

冒頭紹介した会社では、ベテラン社員が言うことを、ほとんどのスタッフが逆らえない組織文化が定着していた。この場合、ベテラン社員たちは安心感を得るかもしれない。誰も「私は違う意見です」と言ってこないからだ。

しかし、本当にその環境はスタッフにとって安全だったのだろうか? スタッフの中には、自分の意見を言えずに不安を感じている人もいたはずだ。

実際にオーナー社長が引退し、30代後半の後継者に事業が引き継がれたあと、事態は急変した。新社長が「心理的安全性の高い会社にする」と宣言したからだ。

サイレントマジョリティ(積極的に発言しない多数派)を軽視すべきではない。新社長が若い感性で方針を打ち出すと、パートのスタッフや若い社員から、日ごろから感じている不安や不満が次々と出てきた。

「子どもが熱を出しているときぐらい、在宅勤務させてほしい」

「デジタルで管理しているのだから、会議資料を印刷させないでほしい」

「給湯室の掃除を女性だけに分担するのはやめてほしい」

すると、変化を許容できないベテラン社員が次々と辞めていった。

「新社長の方針にはついていけない」

と言って。ベテラン社員にとっての「安心感」が失われたからだ。

新社長が打ち出した方針は間違ってはいない。しかし功労者であるベテラン社員へのペーシング(調子を合わせる)も必要ではなかったか。ベテラン社員が何に安心を感じ、どんなことに不安を覚えるかを考え、徐々に変えていったほうがよかったのかもしれない。

この例からもわかるように、「安心」を求めることが必ずしも「安全」を意味しない。むしろ、安心感の追求が安全性を損なう場合すらある。この認識のズレが、組織内外の多くの問題を引き起こすのだ。

■心理的安全性の「安全」の意味

現代社会はドンドン複雑化している。将来における予測不能な事柄が日増しに増えている。

芸能界だけを見ても明らかだ。ジャニーズ事務所が解体したり、お笑い界のカリスマ・松本人志さんが休業に追い込まれること等、誰も想像できなかっただろう。これからさらに衝撃的なニュースが舞い込んでくるかもしれない。

ビジネスの世界でもそうだ。将来に対する不安は避けられない。だからこそ、客観的な指標に基づく「安全」の確保が重要なのだ。

メンバーがみんな安心だと感じるチームほど「心理的安全性」は高くない。同質性の高いチームならともかく、今は多様性の時代だ。誰かの安心は、誰かの不安に繋がることが多いことも忘れてはいけない。「心理的安全性」は「心理的安心性」と言わないのも、理由があるのだ。

■不安を適切にマネジメントする

自分と違う意見を受け入れるのも不安だ。慣れない新しいことにチャレンジすることも不安。これまで通りマイペースで日々過ごすのが最も安心できることだが、そんな時代ではない。

だから不安を避けようとせず、味方につけることだ。不安を感じること自体が問題ではなく、その不安にどう対処するかが大事なのだから。不安を適切にマネジメントすればいい。

「安全だから安心」

ということはあっても、

「安心だから安全」

ということはない。

安全と安心は密接に関連しているが、同義ではない。安心を求めるあまり安全を軽視することなく、客観的かつ合理的な判断を心がけるべき時代だ。

<参考記事>

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経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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