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「まだエクセル使ってる?」は、もう古い? IT企業が持ちかけるDXのワナ

横山信弘経営コラムニスト
(ChatGPT DALL-E 3 にて筆者作成)

IT企業の営業から

「まだエクセル使ってるんですか? もう古いですよ」

「御社も、そろそろDXに本腰になってはいかがですか?」

このように言われて、本当に必要かどうかわからない最新の分析用ツールを導入してしまう。こんな企業が急増している。

私は、「まだエクセル使ってるんですか?」という言い方自体が、もう古いと考えている。なぜか? 

■気を付けたい心理現象「バンドワゴン効果」

営業から「お客様の声」や「成功事例」を聞くと、ついつい高いものでも買ってしまう。これを「バンドワゴン効果」と呼ぶ。

世間一般で評価されているものは社会的証明になる。とくに自社と境遇が似ている会社も多数採用していると聞けば、追随したいという欲求が湧き上がるものだ。

「まだガラケー使ってるんですか? もう古いですよ」

「そろそろスマホに変えませんか?」

と言われたら、仕事や生活にスマホが必要かどうかわからなくても、

「そろそろスマホに変えるか……」

という気分になってしまう。これと同じ現象だ。

■ハイテク商品はとくに注意が必要!

イノベーター理論で解説しよう。

製品ライフサイクルの4段階「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」を考え、各ステージの購入者像を「イノベーター」「アーリーアダプター」「アーリーマジョリティ」「レイトマジョリティ」「ラガード」と名付けた。これを「イノベーター理論」と呼ぶ。

これら購入者像の構成比率は、以下の通りである。

・イノベーター(革新者):2.5%
・アーリーアダプター(初期採用者):13.5%
・アーリーマジョリティ(前期追随者):34%
・レイトマジョリティ(後期追随者):34%
・ラガード(遅滞者):16%

高機能の分析ツールがそれほど普及していなければ、イノベーターやアーリーアダプターしか、採用したいとは思わない。しかし「同業の50%近くが採用している」などとデータを見せられると、心が動くものだ。

「レイトマジョリティ(後期追随者)にはなりたくない」

という心理が働くからである。だから、

「まだエクセル使ってるんですか? そろそろ本格的な分析ツールを導入しませんか」

「この業界ではすでに67%の企業が導入して、大きな成果を体験されています」

などと巧みな営業トークに心を動かされてしまう。私は20年近く営業コンサルタントをしているので、「バンドワゴン効果」「群集心理」「同調バイアス」といった心理テクニックを使った話術は熟知している。

だからこそ、おススメしない。よほどのことがない限り、ビジネスで分析するときはエクセルで十分だ。

■高度な「分析ツール」が勝手に仮説の精度を上げてくれるのか?

なぜエクセルで十分なのか?

理由は簡単だ。エクセルで分析したほうが効果効率的だからである。

そもそも分析というのは、仮説を検証するときに行う。仮説立案のときには、使わない。仮説を立てるのは人間だ。その仮説の精度を上げていくときに分析が必要なのだ。

しかし高機能な分析ツールを入れると、遊び半分に分析から始めてしまう。大量のデータを入れて、いろんなパラメーターを触って分析をしようとする。

つまり分析が「目的」になってしまうのだ。当然、手段と目的がぐちゃぐちゃになるので、本質から外れた仮説が出てしまったり、仮説が一つにまとまらなかったりする。

人間が見つけることのできない失敗パターンや成功パターン、想像もできない相関関係を、高度な分析ツールなら見つけてくれるに違いない、と思い込んでいる人がいる。

膨大な量の販売データを使ってRFM分析するというのならともかく、ビジネスの現場において分析する場合は、このような大量のデータを扱う必要性はほとんどない。

ビジネス上におけるほとんどの問題は、すでにパターン化している。そのパターンを学べば仮説は立てられるのだ。

だからその仮説を検証するために分析をして証明していけばいい。その際に、確証バイアス(自分の都合のいい情報のみを集めてしまうバイアス)にかからないよう、満遍なくデータを集めることだけを注意する。

キチンと仮説を立てられれば、エクセルで十分だ。縦軸と横軸にどのような「切り口」でデータを表現すればいいかを吟味し、その「切り口」のパターンを3回から4回組み合わせれば、さすがに仮説が間違っているかどうかの検証ぐらいはできる。

それぐらいのスキルはあるが、それでもエクセルでは不十分だという場合に限って、高度な分析ツールを導入すべきだろう。

ツールはあくまでも道具である。

記事「本当は怖いDX 政府とIT企業がひた隠しにする不都合な真実とは?」に書いた。それなりに運転ができ、レース経験のあるドライバーになら高性能のスポーツカーを与えてもいい。しかし初心者ドライバーには、まだまだ訓練が必要なのだ。

まずは仮説検証スキルを磨くことだ。それがないと、IT企業の営業にそそのかされて導入したツールが有効かどうかの検証もできない。

<参考記事>

本当は怖いDX 政府とIT企業がひた隠しにする不都合な真実とは?

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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