■営業の第一人者20名にインタビュー「ダントツの1位」は?

昨年、営業の第一人者20名にインタビューをした。専門はそれぞれ異なり、営業ヘッドハンティングのプロもいれば、営業代行のプロもいる。インサイドセールスやリモート営業の専門家もいる。

テーマは、「ニューノーマル時代になって変わること/変わらないこと」

時代が大きく変化していくなかで、どのように営業は変わっていかなければならないのか。そして変えてはならないことは何なのか。フリートーク形式で質問をしまくった。

そしてすべてのインタビューが終わり集計したところ、私を最も驚かせたのが、今回のテーマだ。ほぼすべての第一人者がニューノーマル時代に「デジタルシフト」が不可欠と答えたこと。

予想した通りではあった。しかし、ここまでハッキリと結論づけられると、あらためて気が引き締まる思いだ。

この場合の「デジタルシフト」とは、どのような意味で、どのような範囲までにすべきかは、いったん脇に置く。ただ少なからず、過去と比べて見違えるぐらいに”デジタルに対応できるように変化した”と言えなければならない。そう受け止めた。

私は1998年ごろからSFA/CRMの設計、開発、導入に関わってきた。IT武装することで営業生産性が高まることは以前から言われている。昨今はDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉がバズワードになるほどだ。デジタルシフトの機運は、20年以上前とは比べものにならないほど高まっている。

■KPIを後ろにずらす時代に……?

BI(Business Inteligence)分野で実績のあるウイングアーク1stの執行役員、久我温紀さんの言葉を引用しよう。

「営業のデジタルシフトは不可欠。お客様の潜在的なニーズを察知して提案することが、これからの営業に求められること」

久我さんはそう断言した。その理由を掘り下げると、意外な答えがかえってきた。

「人間って、環境適応能力が高すぎるんです。だからお客様自身が問題を把握することは困難だと思う」

つまりヒアリングするだけでは、お客様のニーズを探り当てることは難しい。どんなに「ヒアリングスキル」を鍛えたとしても、ということだ。

「技術的にとれるデータ、定性的にとれるデータ、両方を掛け合わせ、お客様自身が気付いていない問題をデジタルの力で炙り出していく。これからはそういう時代だと思うんです」

さらに興味深い話も聞いた。これからの企業活動は、お客様のLTV(Life Time Value/ライフタイムバリュー)向上にむけた取り組みが重要視されていくと前置きしたうえで、

「新規顧客の収益性と、既存顧客の収益性を比べると、既存顧客のほうが16倍高いんですよね」

と驚くべき事実も教えてくれた。

「だから営業が意識すべきKPIを、これまでより後ろにずらす必要があると思っています」

新規のお客様への訪問件数や提案件数だけではなく、既存のお客様のアップセル/クロスセル率や解約(チャーン)率をKPIにすべきという意見だ。

ニューノーマル時代は、お客様の購買行動がドンドン変化していく。モノからコトへ、所有から利用の時代へ、と変わっていく。

多様化したお客様の価値観、購買プロセスを網羅的に把握するためにも、データを活用した営業活動は不可欠だ。そうでないと生産性は上がらないし、競合他社にも勝てない。

■二極化する営業組織

営業にデジタルシフトは不可欠だと知って、異論を唱える者はいないだろう。しかし残念なことに、うまくいっている営業の現場は少ない。営業の生産性で考えると、二極化していると言えるだろう。ざっくり書くと、

・デジタルシフトによって劇的に営業生産性がアップした組織

・デジタルシフトできず営業生産性がダウンした組織

この2つに分けられる。

不思議なぐらいに現状維持の組織はない。アップかダウンか。そのどちらかだ。ここでは、デジタルシフトにチャレンジしたが、うまくいかずに生産性をダウンさせた営業組織について言及する。

具体的に見ていこう。

まず「人の関わり方」という視点で、デジタル技術を2つに分けてみたい。

・人が関与することなく運用できる

・人が関与することで運用できる

次に「成果」という視点で2つに分ける。

・運用するだけで成果が出る

・運用し、巧く活用することで成果が出る

この2つの視点で共通しているのは「運用」である。デジタル技術は「導入」が目的ではないことを、必ず押さえてほしい。

営業組織において、人が関与することなく、ほぼ自動的に運用されるデジタル技術はほぼゼロだ。電子レンジや炊飯ジャーのように、設定してスイッチを押せば、自動的に成果物を出力してくれるツールは存在しない。

営業のデジタル技術(=セールステック)は、だからこそ厄介だと言われる。それでは代表的なセールステックを取り上げて、細かく確認していこう。

■セールステックごとに解説

・SFA/CRM

最も代表的なセールステックがSFA/CRMだ。それどころかSFA/CRMを導入し、正しく運用できなければ、営業のデジタルシフトはあり得ないとさえ言える。

しかし運用に関しては難しい。先述した通り、私は20年以上も前から関わってきた。ずっとこのSFA/CRMの業界をウォッチしてきたが、いまだ普及率は高くない。導入企業は増えても、正しく運用している組織は少ないし、ましてや十分な成果を出している企業は多くない。

なぜか?

人が主体的に関与しないと運用できないからだ。そして運用しただけでは成果は出ない。正しく運用してはじめてデータが蓄積され、そのデータを活用して創意工夫し、マネジメントサイクルを回さないと実績がアップしないのだ。

それに「成果」の点でもハードルが高い。

SFA/CRMの成果は売上アップしか考えられない。導入及び維持コストのみならず、時間的コストも相当かかる。これらのコストを大きく上回る売上を増やさない限り、収益アップしたとは言えないし、だからこそ営業生産性アップにも繋がらない。

デジタルが得意とする自動化や省力化、ペーパーレスという、わかりやすい成果を望むことができないのがツラい。SFA/CRMの功績で売上が上がらない限り、決して経営層は納得しないだろう。

セールステックの土台的存在であるにもかかわらず、コストをかけて導入し、成果を実感できるまでの道のりがとても長い。しかし組織文化を変え、見事に生産性をアップさせた営業組織の未来は、とてつもなく明るい。

・CTI

CTI(Computer Telephony Integration)は、積極的にアウトバウンドコール、テレフォンアポイント(テレアポ)をするケースであれば、最も馴染みのあるツールだ。近年インサイドセールスの概念が普及したことで活用の場は広がった。

CTIも導入しただけでは目的を果たせないし、人が主体的に関与しないと運用もできない。しかしCTIが導入されているにもかかわらず、テレフォンアポインターやインサイドセールスが活用しないケースが考えられるだろうか。

電話をかけるときも、電話がかかってきたときも、お客様の基礎情報や過去の接点履歴を瞬時に把握できる。面倒な手間は省けるし、コミュニケーションの質も上がる。

SFA/CRMと連携させたほうが効果は高いが、単体でも成果を実感できる。比較的、運用で苦労しないセールステックと言える。

・MA

MA(Marketing Automation)はSFAやCTIと比べると新しいツールだ。マーケティング活動を自動化し、見込み顧客を育成することが主な目的だ。

セミナーやイベント、WEBからの問合せを通じてコンタクトのあった見込み客。こういった見込み客の動きをMAで可視化することで、検討度合いを数値化(スコアリング)できる。お客様の購買プロセスが比較的オンライン化している企業にとっては重要なツールだ。

コンセプトとしては、とても有効なツールである。しかし実際に現場で支援をしていると、MAをうまく活用するには意外な壁にぶち当たる。それは誰が運用するのか、という点だ。

繰り返すが、「運用」を第一にデジタルシフトは考えなければならない。SFA/CRM、CTIについては簡単だ。営業部門やコールセンターが担う。しかしMAはどうか。マーケティング部門が担うのか。

実のところ、ほとんどの日本企業は専門のマーケティング部門がない。大企業であってもだ。あったとしても、実質は大手広告代理店の窓口をやっているだけだったり、展示会や販促物の制作を担っている部門が大半。営業が欲する確度の高い見込み客を創造し、育成することをコミットし、専門に動いている部隊は少ない。

目標にコミットしたマーケティング部があるなら、MAは鬼に金棒だ。見込み客の動きが可視化され、数字として捉えられる。マーケティング・マネジメントを効果的に実施できる。

営業部全員が関わるSFA/CRMに比べれば運用のハードルは低くなる。MAを運用するチームは小人数になるからだ。

また、一度パラメータ設計してしまえば、シナリオ化されたメルマガが自動的に配信され、見込み客の動きに応じてスコアリングされる。SFA/CRMは営業が逐一入力しなければならないが、その労力をかけなくてもいい分、組織に定着する確率は高い。

・オンライン商談

営業のデジタルシフトで、いちばんはじめに思い浮かべるのがオンライン商談だ。Zoomに代表されるオンライン会議ツールを使うことで、リーズナブルに、どこからでも商談ができるようになった。

コロナ以前から、当社でも商談のみならず、お客様とのセッションや企業研修で活用してきた。他にも、当時からそういう企業は多く存在した。

コロナ時代に入り、一気に普及した。オンライン商談は、営業デジタルシフトの象徴的存在になったと言えよう。

これまで紹介してきたSFA/CRM、CTI、MAと異なり、オンライン商談ツールは、お客様と直接コミュニケーションするためのもの。だからこそ、組織力がいちばん試されているとも言える。

パラーメーター設計など、ほとんど必要ない。メールと同じで、活用するのに難しいことなど何もない。だからこそ「運用」が命。

人が関与しないと運用できないが、運用するだけで成果が出る。最もわかりやすいデジタルツールと言えよう。

※参考記事:コロナで広がる営業の意識格差 ~「リアルで会う」の定義が変わってきた~

・BI

BI(Business Inteligence)は、SFA/CRMやMAと比べると、それほど一般的ではない。しかし普及しているのは間違いないし、そもそも

「営業デジタルシフト」

と表現されれば、”データを活用して営業活動を最適化させること”とイメージする人は多い。

理想を言えば、営業パーソン自身にセンサーをつけて行動そのものをトレースしたり、お客様と話している内容、メールの内容などをコンピュータが認識するなど、自動的にデータ収集できればいい。

しかし現時点では、営業自身がデータ入力しない限り、分析のための元データは蓄えられない。多くのケースでSFA/CRMの運用が前提。だから、それなりにハードルは高い。

ただ、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセス等に営業が分業化され、それぞれにデータが蓄積された組織であるなら、BIツールを活用する効果は絶大だ。

・日程調整ツール

働き方改革、そしてコロナの影響で、爆発的にオンライン会議、オンライン商談がビジネスの現場で浸透した。

出張やお客様訪問が減り、移動時間を減らしている営業も多い。そのせいで社内外のオンライン会議、打合せがとても増えている。このようなマーケットニーズに応える形で登場したのが日程調整ツールだ。

社内の日程調整ならグループウェアを活用することが一般的だ。しかし社外ならどうするか?

メール等で連絡し、2つか3つ候補日を挙げていただき、調整するのはけっこう面倒くさい。スピード感もないため、調整している間に日程が埋まってしまうこともある。

その点、日程調整ツールは便利だ。社内で使っているグループウェアと連携していればURLを送るだけで簡単に調整できる。

導入の手間もかからない。運用も簡単。オンライン商談ツールと同じで、慣れてしまえばすぐに成果を実感できるツールだ。

■「周回遅れ」の営業組織はどうなっていく?

その他、営業を側面支援するツールは多数存在する。たとえばセールスコンテンツ作成支援やWEB連携のツール、ヘルプデスク/カスタマサポート用のツールも営業活動に大きな影響を与える。

しかしキリがないので、代表的なものだけを今回はピックアップした。

営業デジタルシフトのポイントは、紛れもなく組織文化の変容だ。デジタル技術の斬新さ、高度さは関係がない。

だからこそ早期に文化を変え、デジタルシフトに対応していくことだ。どんなにMAやBIを活用したいと思っても、前提としてSFA/CRMが正しく運用されていなければ、効果は限定的だ。

日程調整ツールも、オンライン商談やグループウェアの利用ができていない組織では利用されていかないだろう。

このように、デジタルシフトで先行する営業組織はドンドン先行していく。いっぽうで、「データ活用すればいいってもんじゃない」「営業は製造部門とは異なる」等と主張し、組織文化を変えられずにいると置き去りにされる。

F1レースと似ているだろう。いったん遅れると、先頭グループに追いつくことがかなり難しくなる。普通に頑張っていても、その差は広がるいっぽうだ

ニューノーマル時代に「営業デジタルシフト」は不可欠である。

遅れたら、営業生産性が落ちるだけではない。周回遅れになった営業組織には優秀な人は入ってこないし、人材流出にも繋がる。慣れ親しんだやり方に固執している人が残り、入社してくるのは情報感度の鈍い人だけ。

まさに、組織力が問われる時代である。