深刻な「人手不足」時代に、中小企業が絶対にやってはいけないこと

「採用基準」は絶対に下げてはならない。(写真はイメージ)(写真:アフロ)

■ 急増するキーワードとは?

「突然ですが、これらの数字って、何を示しているかご存知ですか」

これまで約1,000社を超える採用支援をしてきた、当社コンサルタント酒井利昌が、私にこう尋ねました。

日本経済新聞社の記事(紙面および電子版)に登場した、あるキーワードの件数だとのこと。

2010年 76件

2011年 89件

2012年 193件

2013年 299件

2014年 1,264件

2015年 984件

2016年 1,328件

2017年 3,274件

2018年 4,336件

2010年ごろから増えはじめ、ここ数年で激増しているキーワードのようですが、わかりません。適当に「タピオカ」と私は答えました。当然不正解。正解は、「人手不足」だそうです。

「人手不足って、2010年ごろから注目されたの?」

「そうです。2010年ごろは、海外の人手不足に関する記事ですね。国内では介護人材不足やIT人材不足の記事でした」

2011年から2012年にかけては、東日本大震災の被災地での記事がこれに加わり、2012年から2013年ごろから飲食業など他業界にも人手不足感が拡がったとのこと。

そして2014年以降は、さまざまな業界で人手不足感が高まっていることが、キーワード件数の飛躍的増加からイメージできます。

いまや「人手不足」という言葉が、日本中のいたるところで頻繁に飛び交っています。

採用コンサルタントとしての経験が豊富だからか、酒井はこう嘆きます。

「私が最も悲しいのは、『人手不足倒産』が急増していることです。本当に、いたたまれません」

■「採用さえうまくいけば」という危険な発想

帝国データバンクが2019年1月に行った「人手不足」に関する調査によると、正社員が不足していると回答した企業の割合は53.0%。

1年前の調査から1.9ポイント増加しました。

不足している業種上位は、次の通りです。

1位:放送(76.9%)

2位:情報サービス(74.8%)

3位:運輸・倉庫(71.9%)

4位:建設(67.8%)

5位:飲食店(65.9%)

非正規で不足している業種上位は、

1位:飲食店(84.1%)

2位:飲食料品小売(67.7%)

3位:メンテナンス・警備・検査(61.7%)

4位:各種商品小売(57.5%)

5位:娯楽サービス(57.4%)

という結果。

この事実からしても、人手不足が深刻なレベルに達していることは、誰でもわかります。

実際に、採用がボトルネックとなり、事業展開にブレーキがかかっている企業がとても多いと、私たちも肌で実感しています。

ただ危険なのは、「採用の課題さえクリアすれば、未来は拓ける」という希望を持つことです。

■ 採用をなめてはいけない

酒井が上梓した『採用の思考法(フォレスト出版)』には、

「企業が採用する人は、料理における『素材』のようなもの。言葉は悪いですが、『素材』が悪ければ、どんなに腕のいい料理人でも、美味しい料理はできません」

とあります。

たしかに、その通り。

私たちは現場に入って組織改革を担うコンサルタントです。組織運営がうまくいかない問題は、管理者のリーダーシップが欠けている場合と、若手の資質が欠けているケースの両方があると知っています。

「どんなに磨いても、石ころは石ころだ。石ころはダイヤモンドにならない」――『採用の思考法(フォレスト出版)』より。

料理人の腕を鍛えることは大事です。しかし、どんなに料理人のスキルを鍛えようが、「素材」が悪ければ、何ともならない。やはり料理は「素材」が命なのです。いい人を採用しなければ、いい企業活動はできない。

■ 「人手不足」の時代に、中小企業が絶対にやってはいけないこと

深刻な「人手不足」時代に、中小企業が絶対にやってはいけないことは、採用基準を下げることです。

採用基準を下げてしまうと、質の低い社員が増えていきます。急場をしのぐことはできても、中長期的に見れば企業に大きなダメージをもたらします。

先述した『採用の思考法』には、

もし、どうしても採用基準を下げたいのであれば、次の2パターンのみ

と書かれています。その文章を引用しましょう。

1)今後、お客様に提供する価値基準を下げるつもりでいること

2)戦力化までの育成シナリオが万全であること

企業が存続していくためには、お客様に高い価値を提供しつづけること。この原理原則に、いかに忠実であるかです。これに尽きると言っていいでしょう。

いくら人手不足だからといって、採用基準を下げてはなりません。採用基準を下げるということは、お客様への提供価値を下げることに直結するからです。(※ 以前よりも質の低い素材で料理をすれば、当然のことながら顧客提供価値は落ちる)

いっぽう、戦力化までの育成シナリオに関してはどうか。これが「万全」である会社はどれぐらいあるでしょうか。

断言しますが、0%に限りなく近いことでしょう。

育成シナリオが「万全」の会社が、採用基準を下げるわけがないからです。

当社が運営する「強くて愛される会社研究所」では、毎月、小さくても業績がよく、社員がキラキラ輝いて働いている中小企業の視察に出かけています。

そのような選りすぐりの中小企業になら、「万全」な育成シナリオがあります。だからこそ、多くの社員が成長の実感を覚え、やりがいをもって働き、会社を盛り立てます。そして社風が素晴らしいため、優秀な若者たちを惹きつけます。どんなに採用基準を上げても、採用に困ることはない企業ばかりです。

ですから、「万全」な育成シナリオを持っているなら、採用基準を下げる必要などないのです。

■ 採用は結婚と同じ

人を採用する際、決して「点」で捉えるべきではありません。たった一度の採用失敗で、会社が倒産することもある時代です。したがって、「線」で考えるのです。人を採用したら、その人が辞めるまで、企業は責任を負うことになるのですから。

結婚と同じように、慎重に、じっくりと選考していきましょう。

「じっくり選んでいたら、すぐにどこかの企業にとられてしまう」

ということを言う人がいますが、この発想はよくありません。焦れば焦るほど、採用眼が甘くなります。結婚は多少甘くしてもいいでしょうが、人の採用を甘くすると――文字通り――取り返しがつきません。

プロの採用知識を手に入れ、企業はもっと正しい採用活動に力を注ぐべきです。企業存続を考えたとき、「入れてから育てる」という時代ではなくなったのですから。