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誰が「アポ電強盗」の名称を考えたのか、このネーミングはおかしい

横山信弘経営コラムニスト
急増する「アポ電強盗」(写真:アフロ)

■「アポ電強盗」の名称はおかしい

どう考えてもおかしい。

「アポ電強盗」の名称のことです。

おそらく多くの人がこの名称に違和感を覚えているはずです。しかしながら連日報道でも取り上げられているおかげで、「アポ電強盗」という言葉が独り歩きし、急速にお茶の間に広まっている気がします。

違和感を覚えるのは、犯行の手口と名称とが合っていないからです。

「アポ電強盗」とは、オレオレ詐欺や振り込め詐欺の一種。子どもに成りすまし、相手の警戒心を緩めたり、いま家にいることや、現金があるかを確認するような電話をかけてから、家に押し掛けて現金を騙し取る犯罪を指します。

2019年2月28日には、江東区に住む80歳の女性が、この手口で殺害されるなど、犯行がエスカレート。

もともと事前に電話をかけてお金をだまし取る「アポ電詐欺」だったのが、強盗として押し入る「アポ電強盗」となり、あげくの果てには、家にいた高齢者を殺害して現金を奪うという「アポ電強殺」という凶悪犯罪にまで発展しています。このように社会問題化したおかげで、「アポ電強盗」の名称は、瞬く間に広まっていきました。

「アポ電強殺」「アポ電詐欺」といったバリエーションのみならず、単に「アポ電」とだけニュースタイトルに使う酷いケースもあり、営業コンサルタントという職業柄、私は強い違和感を覚えています。

■「アポ」は「アポイント」である

アポ電とは、強盗する前に、警戒心を緩めたり、詐欺が可能かどうかをチェックしたりする電話のこと――。

急速に広まったおかげで、各種サイトではこのように語彙解説されるほど「アポ電」が曲解されるに至りました。いったい、誰がこの名称をつけたのか。電話でお客様のアポイントをとる「アポ電」は、一般企業の営業職が日々おこなう行為です。

「アポイント」は「アポイントメント」の略で、通常、お客様との面談の約束を取り付ける行為のこと。

「来週、A社の部長にアポイントは入れたのか」

「メールで候補日を3つお伝えしてありますが、返事がまだですので、早急に電話してアポをとります」

このような上司と部下との会話は日常茶飯事。営業職でなくとも、ビジネスパーソンであれば誰もが使う用語なのです。

電話でアポをとることを「テレフォンアポイントメント=テレアポ」と呼びますから、確かに「アポ電」は一般的なビジネス用語ではありません。しかし、何も知らない人が「アポ電」と耳にしたら、「アポイントをとる電話」と解釈するのが普通です。

■ これでは「トルコ風呂」の二の舞?

当初、警察などに扮した犯人グループが、何らかの事情で会う約束を取り付けるために電話をしたことから「アポ電」と呼ぶようになった――というのであれば、まだ理解できます。

しかし前述したように、「詐欺が可能かどうかを電話で確認する電話を『アポ電』と呼びます」などと解説されてしまうのは、明らかにおかしい。

「アポ電」という表現だけで、一般の人たちが卑劣な強盗犯罪をイメージしてしまうようになると、さらに「アポ」という略語だけにも、嫌悪感を覚える人が出てくるのではないか。

過去、日本ではソープランド(性風俗特殊浴場)のことを「トルコ風呂」と長らく呼んでいた時期があります。トルコ人留学生が抗議して名称変更されましたが、当然のことです。「トルコ風呂=トルコ」と使用する人も多く、歪んだイメージが日本に定着してしまった背景がありました。

■ 犯罪抑止につながる名称を

繰り返しますが、「アポ電」とは一般的に「アポイントをとるための電話」のことを指します。

「アポ電強盗」がニュースで取りざたされはじめたころ、私は高齢の両親に「アポイントをとるような電話がかかってきたら気を付けて」と注意したものです。

しかし、よくよく調べてみると「アポ電強盗」は、アポイントをとるような電話がかかってくるわけではないとわかり、慌てて両親に電話しなおして、「アポ電強盗は、アポイントをとるわけではないらしい」と説明しました。「じゃあ、なんでアポ電と言うんだ」と親から問われましたが、私も説明できません。

犯行の手口を名称にしているわけではないので、「アポ電強盗」という名称は不適合です。ネーミングするのが簡単でないのはわかりますが、犯罪抑止に繋がる名称を考えてもらいたいですね。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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