Yahoo!ニュース

日本ダービーにおける2人のレジェンド、武豊と横山典弘のエピソード

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
22年のダービーにおける武豊騎手(橙帽)と横山典弘騎手(黄帽)

何度目のダービーか

 パドックに隣接する騎手控え室。そこにある椅子に腰をかけたレジェンド・武豊。周回する馬達に目をやった後、ふと見るとすぐ近くに横山典弘が座っている事に気付いた。すると、少し間をおいてから、横山の口が開いた。
 「何度目だろうなぁ?」
 それは今まさに武豊が横山に向かって言おうとしていた言葉だった。
 2022年5月29日。日本ダービー(GⅠ)が間も無くに迫っていた。
 この日、武豊はこの競馬の祭典に33度目の騎乗。ドウデュースとのタッグで、自身が持つ史上最多勝記録を更新する6度目の制覇に臨んだ。

13年、キズナでダービー5勝目を飾った武豊騎手
13年、キズナでダービー5勝目を飾った武豊騎手


 一方、横山典弘は25回目の騎乗。この日、手綱を取るのはマテンロウオリオン。過去にダービージョッキーとなる事2回。彼もまた偉大なスーパージョッキーだった。

14年、ワンアンドオンリーでダービー2勝目を飾った横山典弘騎手
14年、ワンアンドオンリーでダービー2勝目を飾った横山典弘騎手


 ゲートが開くと、10番枠の横山マテンロウオリオンは後方に。13番枠から出た武豊ドウデュースは、その右前から前に入るような進路取りでマテンロウオリオンより少しだけ前。ドウデュースが18頭立ての14~15番手、マテンロウオリオンはブービー17番手で最初のコーナーをカーブした。

22年ダービーのスタート直後。13番が武豊騎手のドウデュースで、10番が横山典弘騎手のマテンロウオリオン
22年ダービーのスタート直後。13番が武豊騎手のドウデュースで、10番が横山典弘騎手のマテンロウオリオン

 1000メートルの通過は58秒9。2頭の位置取りはほぼ変わらない。馬群は縦長になって向こう正面から3~4コーナーへかかる。
 ここで外へ持ち出したのが武豊。更に大外へ進路を取ったのが横山典弘だ。
 しかし、最後の直線での2頭の伸びには差があった。単勝40倍超のマテンロウオリオンは残念ながら伸びを欠いたのに対し、単勝4・2倍で3番人気に支持されていたドウデュースは1完歩毎に前との差を詰める。そして、残り200メートルを切ってから、秋には菊花賞(GⅠ)を勝つアスクビクターモアをかわす。更には後の世界最強馬イクイノックスの追い上げも封じ、2分21秒9という驚愕のダービーレコードで真っ先にゴールに飛び込んでみせた。

ドウデュース(13番)が勝利した一昨年の日本ダービー
ドウデュース(13番)が勝利した一昨年の日本ダービー

馬を止めて待っていてくれた

 6度目のダービー制覇を成し遂げたレジェンドが、パートナーをゆっくりと止める。今まで一緒に戦ってきたライバル馬のジョッキー達から祝福の声がかかる。そして、ウイニングランをするためUターン。今通過して来たスタンドへ向かって歩き始めると、そこで馬を止めて待っている男の存在に気付いた。
 横山典弘だ。
 「ユタカ、やったな、おめでとう」
 レジェンドを、もう1人のレジェンドが祝った。
 「ありがとうございます」
 笑みを見せながら右手を挙げ、そう返事をした。そして、再び歩み始めると、視線の先にそびえる東京競馬場のスタンドから割れんばかりのユタカコールがこだました。
 今週末に行われる今年のダービー、武豊はシュガークン、横山典弘はダノンデサイルの手綱を取る。2人のレジェンドの手綱捌きに注目しよう。

昨年9月の園田競馬場にて
昨年9月の園田競馬場にて

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

平松さとしの最近の記事