AI(人工知能)に奪われるのは「業務」であり「職業」ではない

ホスピタリティが求められる業務は奪われない(写真:アフロ)

AI(人工知能)が人間の多くの仕事を奪っていく。その比率は50%だとか60%だとか、それ以上だとか、そんなことを連日メディアが報道しています。しかし、本当にそうなのでしょうか? 現場で組織改革に取り組むコンサルタントの知見を書いてみたいと思います。

カール・フレイとマイケル・オズボーンが「雇用の未来」で公表した「消滅する可能性の高い職業」の上位に、

・スーパーのレジ係

・レストランのコック

・受付係

・弁護士助手

・ホテルのフロント係

・ウエイター・ウエイトレス

があります。

ロボットが接客するハウステンボスの「変なホテル」は、3月15日に東京ディズニーランド近くの舞浜でオープンします。このように一部のホテルの「フロント係」といった職業などは、徐々に人間からロボットへと置き換わる時代が到来するのかもしれません。しかし私はAIやロボットが進化していっても、奪われるのは「職業」ではなく「業務」であると考えています。

たとえば先述したホテルのフロントやスーパーのレジ係のように、仕事のほぼすべてが、ひとつの業務で成り立っている場合なら、業務がAIなどの新技術によって置換されれば、その人の仕事そのものがなくなるでしょう。しかし多くの場合、その人の職業は多様な業務が複雑に組み合わさってできあがっているものです。

たとえば「セールス(営業)」「販売員」もAIやロボットの進化によって、職業が奪われると言われます。しかし、そもそも営業や販売をどんな職業だと認識しているのでしょうか。

以下に分類してみましょう。

● お客様のニーズに関係なく商品を紹介し、お客様が気に入ったら契約の手続きをする仕事

● お客様のニーズに合った商品を提案し、お客様が気に入ったら契約の手続きをする仕事

● お客様の潜在的なニーズを顕在化させ、そのニーズに合った商品を提案し、お客様が気に入ったら契約の手続きをする仕事

● 日ごろから信頼関係を築くための接触を続け、お客様が警戒心を抱かなくなってから効果効率的なヒアリングをし、潜在的なニーズを顕在化させ、そのニーズに合った商品を提案し、お客様が気に入ったら契約の手続きをする仕事

● お客様の組織を把握し、キーパーソンを特定し、そのキーパーソンと日ごろから信頼関係を築くための接触を続け、お客様が警戒心を抱かなくなってから効果効率的なヒアリングをし、潜在的なニーズを顕在化させ、そのニーズに合った商品を社内で開発できるか議論し、しかるべきタイミングで提案し、キーパーソンのみならず、決裁権のある人物を特定し、当該企業のエンジニアや経営幹部を引き連れ、迷っているお客様をその気にさせ、お客様が気に入ったら契約の手続きをする仕事

書き出したらキリがありません。ひとえに「営業」といっても、単なる商品紹介をしているわけではないのです。よく似ているのは「恋愛」。自分の名前や年齢、趣味、年収、家族構成、住んでいる場所……を言えば、相手と恋人関係になれるわけではありません。

時間をかけて相手との心の距離を縮め、関係を築き、相手が「聞く耳」を持ってからヒアリングをし、潜在的なニーズを聞き出していくプロセスが不可欠です。

安価な日用品を売っているのであれば、ロボットでも対応可能でしょうが、実際の営業現場は「恋愛」と同じ。想定外のこと、理不尽なこと、不運なこと……の連続です。特にお客様が組織である場合、複雑な意思決定プロセスを経ることがあり、一筋縄ではいきません。

複数の業務によって構成された営業のような職種のケースでは、AIやロボットがどんなに進化しても、そう簡単に置換できないでしょう。クリエイティブティ(創造性)ホスピタリティ(おもてなし)が複雑に絡み合った職業だからです。

したがって、職業そのものがAIやロボットに奪われるのは、「職業=1業務」のケースだけです。

それも物事を認識して、何かを操作する(コニグション&マニピュレーション)だけの業務に当面は限られてくるでしょう。「変なホテル」の接客ロボットの業務も同じです。ここに「クリエイティビティ」や「ホスピタリティ」を絡ませると、人間でなければお客様を満足させることはできないため、ロボットでは限界があります。