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褒めて伸ばす育て方「グッド&スルー」

横山信弘経営コラムニスト

人間関係を良好に保つために、相手を「褒める」ことが秘訣であることは誰もが感じることです。誰かに「褒められる」ことにより、脳内神経伝達物質「ドーパミン」が分泌され、意欲が高まることはよく知られています。

「褒め言葉」の『3S』というものがあります。「すごいね」「さすがだね」「すばらしいね」の『3S』。上司が部下を褒めるときもそう、親が子どもを褒めるときもそう。褒めるのが苦手だ、という人はぜひ参考にしてください。『3S運動』です。

さて、このように人は「褒められる」という「社会的報酬」によってやる気が生まれることはわかりました。それでは、褒められるようなことをしていない場合はどうすればよいのでしょうか? 方法は2つあります。

● 叱る/言って聞かせる

● スルーする

たとえば、親が子どもに対し、70点以上テストの点数をとってほしいと考えていたとします。もし91点だったら、「すごいね!」「すばらしいね!」などと子どもを褒めます。しかし56点だったら、

「ダメじゃないか。せめて70点以上はとらないと」

と直接言うのが、前者の「叱る/言って聞かせる」です。無関心を装い、そのまま放置するのが後者の「スルーする」です。

子どもや部下を「褒めて伸ばしたい」「褒めて育てたい」と思ったとき、「グッド&スルー」という方法をお勧めします。相手が褒められることをしたら、しっかり褒めて、褒められないことをしたら、何も言わずスルーするやり方です。これを「グッド&スルー」と呼びます。

「スルー」する場合は、必ず日ごろから褒めておくことです。そうしないと相手はギャップに気付くことができません。「スルー」は、放置する、関心を寄せないという行為ですから、正直なところ愛がありません。こちらの期待通りのことをしないわけですから、愛のない「スルー」という行為で応じる、ということです。

この「グッド&スルー」の話をすると、必ず言われるのが、

「子どもが学校に遅刻しそうになっている場合はどうするんですか? それでもスルーするのですか?」

「部下がお客様からクレームがあったことを隠していました。こんなことがあってもスルーすれば部下は育つんですか?」

というもの。当然ですが、上記のケースでは「叱る/言って聞かせる」という行為が必要です。

「グッド&スルー」をする場合、どういったシチュエーションで「叱る」べきで、どういったときに「スルー」すべきか迷う人がいます。そういうときは、相手の行為を反転してみるとわかります。

◆「学校に遅刻する」の反対 → 「学校に間に合う」

◆「お客様からのクレームを隠す」の反対 → 「お客様からのクレームを報告する」

この反転した行為が「褒められる」ことなのか「当たり前」のことなのかで区別します。「グッド&スルー」をやるとき、スルーしていいのは「褒められない」ときだけです。当たり前のことをやっていない場合は、本人も叱られて当然と思うことでしょう。逆に、誰がどう考えても問題行動をしているのに叱られなければ、親や上司に「諦められた」と思い込み、よけいにやる気を落とします。

小学生の子どもが学校に遅刻し、宿題もやらず、夜遅くまでゲームをやっていたら、正しく成長するはずがありません。会社の部下もそうです。資料の提出期限を守らない、目標を未達成のままでも平気でいる、必要もないのに残業ばかりしている、というのであれば、正しく育つはずがありません。

私はクライアント企業の現場に入って組織改革をするコンサルタントです。お堅い言葉で「問題」という言葉を定義してみましょう。

問題とは「あるべき姿」と「現状」とのギャップを言います。この「問題」を2つに分解すると「常識的な問題(common-sense problem)」と「個別特有の問題(specific problem)」とに分けられます。

「期限を守らない」「挨拶をしない」「嘘をつく」「整理整頓ができていない」「目標が達成しない」……などは「常識的な問題」です。しかし経営者やチームリーダーの価値観によって、組織の「あるべき姿」が個別特有になる場合があります。

たとえば、「上司には1週間に1度は報告・連絡・相談をすべきである」「お客様から電話を受けたら、その日のうちにコールバックすべきである」「朝礼がある日は10分以上前に集合して社長の話を聞くべきである」……等。

共通認識を正しくしておかないと理解されない「あるべき姿」のこと。この「個別特有のあるべき姿」とギャップのある行動をしていると「個別特有の問題」が発生します。

今回ご紹介した「グッド&スルー」の焦点は、「個別特有の問題」が発生しているときにスルーするのか、叱るのか、です。このあたりが整理されていないリーダーがたくさんいて、部下指導に苦労している人が多く見られます。育児でも同じことと私は思います。

自分の子どもはどう「あるべき」なのか、部下はどう「あるべき」なのかの共通認識が重要です。その決め事をしてから「グッド&スルー」をしていきましょう。繰り返しますが、たとえ褒めて伸ばしたいと思っても「常識的な問題」をおかしている場合は、キチン言って聞かせることが重要です。

(※ 相手を褒めて伸ばしたいと思わない人は、「グッド&スルー」をする必要はありません)

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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