決断できない人「マンイチさん」が陥りやすい「リスク過敏バイアス」
決断できない罠「リスク過敏バイアス」とは?
世の中には、なかなか決断できない人がいます。特にリーダーシップを発揮しなければならない組織のリーダーは、いろいろな場面で「決断力」が求められます。今回は、決断を妨げる一番の罠「リスク過敏バイアス」について紹介します。
人間は目新しいリスクや謎の多いリスク、マスメディアで過大に取り上げられるリスクに対して過敏に反応する傾向があります。これを「リスク過敏バイアス」と呼びます。たとえば「ブラック企業」という言葉が注目を集めており、就活する学生たちを怯えさせています。しかしながら、実際に過労死するまで長時間労働させたり、有給休暇どころか法定休日すら取らせない企業はどれぐらいあるのでしょうか。300万以上もある企業の中で、50%も60%もの企業が「ブラック企業」なのでしょうか。10万社も20万社も「ブラック企業」なのでしょうか。過剰反応する前に、そのリスクが発生する確率をある程度、客観的にとらえる習慣を持ちましょう。
私は企業の目標予算を「絶対達成」させるコンサルタントです。セミナーや研修で絶対達成の話をすると、「そんなことを言っても、今の時代、あんまり無理をさせると『パワハラ』と言われてしまう」とか「万が一、追いつめて『うつ病』になってしまったら困る」と反論してくるマネジャーが必ずいます。これも典型的な「リスク過敏バイアス」です。何をどれぐらいの回数実施したとき、何%の確率でそのような事態に陥るのか、落ち着いて考えないと正しい決断はできません。
決断できない「マンイチさん」
こうした「リスク過敏バイアス」にとらわれ、冷静な判断ができなくなる人を私は「マンイチさん」呼んでいます。「万が一のことがあったらどうするんですか」「万が一のことがあったら、あなたが責任を持ってくれるんですか」と言って、いつまで経っても意思決定できないのです。組織のリーダーに「マンイチさん」がいると、「アイドリング状態」から抜け出せなくなります。(参考記事:意思決定プロセスにおける「アイドリング状態」とは?)
以前、ある商社にコンサルティングをしたとき、こんなことがありました。お客様への能動的なアプローチを以前より3倍に増やしたところ、お客様からのクレームが増えた。そのため、このような行動方針はやめるべきだと、ある営業課長が言い始めたのです。これに営業部の5割の担当者が同調し、
「お客様への訪問量を多くすると、クレームが増え、クレームの処理だけで仕事ができなくなる」
とまで言う営業も出てきたのです。
このような言い分が営業チームから噴出したため、営業部長が慌てて私のところへ連絡をしてきました。私も、その会社の社長もまったく慌てませんでしたが、営業部のトップである部長が「マンイチさん」であったことに社長ともども深い失望を覚えたのは事実です。
極端な話をすると、お客様へのアプローチ数が「10回」のケースと「1000回」のケースとを比較した場合、当然のことながら「1000回」アプローチしたほうがクレーム数が相対的に増えて当たり前です。いちいち発生リスクに怯えてはいられません。
それでは、訪問量を3倍に増やして、どれぐらいの件数のクレームが来たのか。そして今後もそのようなクレームがどれぐらいに膨れ上がるのか営業全員に予測してもらいました。
● 50回の訪問 → 1件のクレーム
● 150回の訪問 → 2件のクレーム
行動量に比例してリスク発生件数もアップするのは当然。重要なことは、そのリスクの中身と発生件数の許容範囲です。1件から2件にクレーム数が増えているため、「以前よりリスクが2倍となった」と感じるかもしれませんが、そのリスクをどのように受け止めるか、です。「マンイチさん」は、
「万が一のことがあったら……」
が口癖ですが、これまでのことを続けていても「万が一」のことはあります。何もしない限り「万が一」のリスクはあるのです。「リスク過敏バイアス」に引っかからないために大切なのは、物ごとを客観的に、俯瞰することです。実際に本事例においては、クレームの発生原因を突き止め、クレームの数を抑制することができました。訪問量を増やしたことにより、お客様の声に耳を傾ける量も増えたため、クレームの件数は増えるどころか減る方向へと向かったのです。
「決断するリスク」と「決断しないリスク」を相対評価すべき
ある出来事を局所的に捉えて「そんなことをしたら○○が起きるかもしれない」と言っていたら、新たな決断なんてできません。前に進むことができず、いつまで経っても正しい決断をすることができないでしょう。私は目標を絶対達成させるコンサルタントですから、組織のリーダーたちにドンドン新しい決断をさせます。「万が一のことがあったらどうするんですか」などと言わせる暇がないほどのスピード感で意思決定してもらいます。
目標が未達成のまま終われば会社の業績は悪くなり、真面目にがんばっている多くの従業員の将来が不安にさらされます。そのリスクと「ひょっとしたら○○が起きるかもしれない」というリスクのどちらが大きいか。冷静に考えれば誰でもわかります。「決断するリスク」と「決断しないリスク」を相対評価すべきなのです。