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タブレットはビジネスに必要? 本当にノートパソコンより普及するのか?

横山信弘経営コラムニスト
タブレットを会社で導入する意義がどこまであるのか?

タブレットは世界で普及しつつある

2013年、iPad、ギャラクシーシリーズに代表されるタブレット端末の世界出荷台数は前年比67%増となり、ノートパソコンを追い抜く見込みとなりました。さらに2017年には、ノートパソコンがタブレットの3分の1程度まで出荷台数を減らすと言われ、いよいよタブレットの時代が到来するかのように報道されています。

いっぽうで、私はビジネスの現場におけるタブレット普及を疑問視しています。その最大の理由は、ITベンダーの多くがタブレット活用を正しく企業に提案できていないという現実があるからです。

私は営業コンサルタントですから、多くの企業から相談を受けます。

「営業がお客様のところへ訪問し、商品を紹介するためにタブレットを活用したいのですが、どう思われますか? タブレットを使うことで営業力はアップしますか?」

「タブレットをすでに導入し、全営業に配布し終わっています。どのような使い方が考えられますか?」

ほとんどがこのような相談です。タブレットを売るIT企業からも連絡を受けます。「ぜひ連携させてください。起動が速くて持ち運びできるタブレットは営業にこそ持ってもらいたい。そのためのソリューションをコンサルタントと一緒に開発したいのです」と。

タブレットを販売するITベンダーの苦悩

タブレットの長所、短所は、いろいろな雑誌、サイトで紹介されています。しかし現場でコンサルティングしている身からすると、業務アプリケーションをタブレット上で動かすシチュエーションは非常に少ないと言えるでしょう。個人がスケジュールやタスク管理、WEBやメール閲覧する用途ならともかく、です。

多くのIT企業がタブレット販売に困っています。タブレットだけを売ってもITベンダーに利益をもたらさないからです。にもかかわらず、特殊な事例は除き、パソコンではなく、タブレットでないと使えないソリューションを考えることができていません。そのため私のところへ「どうしたらいい?」と連絡が入るのです。

「仕組み逆算思考」とは?

ここで、問題解決に関わる基本的な考え方、手順を記します。

1)真の問題の特定

2)解決策の策定

3)「仕組み」の選定(必要あらば)

問題の定義は「あるべき姿」と「現状」とのギャップです。まずは組織の問題は何かを正しくとらえなければなりません。業務上、問題になっていることは何か、です。次にその問題を解決するための方法論を議論し、策定します。最後に、その方法論を具現化するために「仕組み」が必要であれば、正しい選定方法で「仕組み」を吟味します。

私はコンサルタントとして、当然のことながら企業側にできる限りコストがかからないような解決策を提示します。コストがかかると解決策を執行するのに時間がかかるというデメリットが発生するからです。問題を特定して解決策をスピーディに実行することで組織は成長していきます。現代は、このサイクルを高速にまわしていかなければなりません。

ところが、「仕組み」から逆算して問題を創造する癖のある人がいます。私は「仕組み逆算思考」と呼んでいます。

1)ある「仕組み」に興味を持つ

2)その「仕組み」を導入することでどんなメリットがあるかを想像する

3)その「仕組み」でしか解決できない問題があると妄想する

たとえばタブレットで言うと、前述したようなことです。

「営業がお客様のところへ訪問し、商品を紹介するために紙ではなくタブレットでお見せしたほうが訴求ポイントがわかりやすいだろう。カタログやチラシを大量に持ち運ぶのは大変だ。ペーパーレスにもつながるし、動画を見せることができるというメリットもある。やはりタブレットは必要だ」

このような発想です。私は過去、ずっとIT企業で働いていたので理解できます。こういう発想の人はIT企業のプロモーション戦略にはまっています。

「今の時代、営業にタブレットを持たせ、商品を紹介したり提案書を見せたりしたほうがいいですよね?」

などと質問されると、私はすぐにこう切り替えします。「まず御社の営業の問題は何ですか?」と。営業の目標ノルマは達成していますか? 安定的に達成していないのであれば、マーケティングミックスの発想から4つに分解し、「正しい顧客戦略」「正しい製品戦略」「正しいプロモーション戦略」「正しい価格戦略」ができているかを質問します。簡単にいえば、営業が「行くべき先へ行き、提案すべきものを提案しているか」ということです。それができているのに収益が上がっていないのであれば、コスト構造に問題があるのかもしれません。問題を特定するうえで知るべきこと、吟味すべきことはたくさんあります。

これらのことを差し置いて、「当社にタブレットが必要だと思うのですが、いかがでしょう?」などと聞いてくる人は、最初から「仕組み」ありきの発想です。魅力的な電子デバイス、先進の情報システムを目にし、それを手に入れたいから必要性を逆算して考えてしまうのです。これが「仕組み逆算思考」です。

こういう思考の人が企業に多いと、高コスト体質から抜け出せなくなります。問題を根深くさせるだけです。

パソコンとスマートフォン、紙で十分

パソコンよりも起動が速い。パソコンよりもバッテリーの持ちがいい。スマホに比べて画面が大きい。たかがこれぐらいの理由で企業がタブレットを導入する意義を見出すのは難しいでしょう。

ノートパソコンとスマホがあれば十分。前述の「営業が商品紹介するシチュエーション」でいえば「紙」でいいのです。全営業にタブレットを配った会社の多くが悩んでいます。タブレットが重すぎて、営業たちは結局持ち歩いていないからです。チラシやカタログは従来のものを持って行っています。お客様に、その場で手渡しできるからでしょう。結局「紙」のほうが便利だというシチュエーションのほうが多かったりするのです。

もちろん、その場で見積書を作成したり、相手のニーズにしたがって提案内容をカスタマイズする必要があるのなら情報端末のほうが良いと言えます。しかしそれなら従来のノートパソコンでいいわけです。キーボードがあったほうが便利です。店舗や工場、物流部門でタブレットのほうが最適だというシチュエーションも考えられます。しかし半数以上のパソコンをリプレースするまでにタブレットが普及する論拠とはなりません。タブレットは持ち歩いてこそ真価が発揮されるからです。

今後、マイクロソフトのSurface(サーフェス)のように、タブレットとノートパソコンの「いいとこ取り」したような端末に進化していくのではないかと私は考えています。スマートフォンをただ大きくしたような、現状のタブレットではなく。やはり入力作業にはキーボードが必要だからです。

ビジネスの現場は、情報端末の進化についていけない

インターネットの普及、情報端末の進化によって、ビジネスの現場は振り回されています。ほとんどの企業は「仕組み」の導入以前に、考えるべきことが膨大にあるのです。現在普及しているノートパソコンやスマートフォンでも、十分に便利です。これ以上、情報端末を進化させてもソリューションがついてきません。だからITベンダーは頭を悩ませているのです。繰り返しますが、タブレット端末だけを売っても利益にならないからです。

商品購入の態度理論(イノベーター理論)からすると、タブレット端末は、イノベーター(革新者)、アーリーアダプター(初期採用者)で止まり、市場全体の34%以上となるアーリーマジョリティ(前期追随者)まで普及しないのではと考えます。レイトマジョリティ(後期追随者)、ラガード(遅滞者)は導入を見送るのではと。

年末商戦が近づいています。個人がタブレットを購入するのは良いですが、企業への導入に関しては、慎重に判断したほうがよい、というのが私の意見です。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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