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「コーチング」がビジネスの現場で機能しづらい2つの理由

横山信弘経営コラムニスト
コーチングは達成意欲の高い「個人」には機能するのだが……

ビジネスにおいてコーチングが機能しづらい理由

個人の潜在的な能力を開発する手法として「コーチング」は広く知れ渡るようになってきました。「コーチング」という言葉は市民権を得、個人レベルではなく、この手法を採用してスタッフの達成意欲を向上させようと試みる企業も増えてきています。

「コーチング」はクライアント(個人)の能力を開花させ、目標達成に向けた行動変容を促がす手法として素晴らしい技術です。しかし、注意が必要です。

にわか仕込みの「コーチング技術」では、コミュニケーション相手の達成意欲を向上させるどころか、悩みを深め、かえって傷つけてしまうことがあるからです。

私は行動心理学の一種、NLP(神経言語プログラミング)のトレーナーアソシエイトで、「コーチング」の主要テクニックはもちろんのこと、プロのコーチも多く知っています。プロである彼ら、彼女らがどれほどのトレーニングを通じて、この難解なメソッドを体得したのか、そのプロセスも理解しています。

その経験を踏まえ、ビジネスの現場で「コーチング」がうまくいかないケースが多々あり、その理由について今回は迫っていきたいと思います。ビジネスの現場で「コーチング」がうまく機能しない原因は2つあります。

1)コーチ(を名乗る人)のスキル不足

2)コーチング対象の誤解

1つ目の問題「スキル不足」

まずは「スキル不足」について書いていきます。

私は前述したとおり「コーチング」の技術については精通しています。しかし私はコーチではなくコンサルタントです。クライアント(企業)に「コンサルティング」はしますが「コーチング」はしません。私の部下に対してもコーチングはしません。それはなぜか? 当たり前のことですが、私が「コーチング」のプロではないからです。知識はあっても、膨大な数のトレーニングを積んだ経験がありません。コンサルタントも同じですが、プロのコーチも日々の鍛錬が不可欠です。見よう見まねで実施するものではないのです。

「コーチング」するときに使うコミュニケーション技術はもっぱら「質問」です。クライアントの中にあるリソースに焦点を合わせた、効果的な「質問」を通して、クライアントの頭の中を整理させ、別の視点から事物を照らして、気付きを誘発させ、主体的な行動変容を起こさせ、そして、クライアント自らが設定する目標を達成させる。この支援をするのがコーチの役割です。コーチが「アドバイス」や「提案」などはしません。

「質問」が基本テクニックと書きましたが、これがまた難しいのです。何でもかんでも「質問」すればよいということではありません。そして何でもかんでも「傾聴」すればいいということでもないのです。目標達成のための行動変容を促がす気付きを、「質問」によって引き出すのです。想像できると思うでしょうが、簡単ではありません。

コーチが「効果的な質問」をするためには、質問の内容のみならず、相手とペースを合わせた呼吸・リズム・話し方に気を配らなければなりません。正しくペーシングできないと、相手は「誘導尋問」をされている気分となり、頭の整理もできないし、新たな気付きも与えられません。相手の呼吸のリズムや、物事の受け止め方、思考の揺らぎなど、一定の期間をかけてキャリブレーション(観察)し、クライアント特有の認知パターンを知ることが不可欠です。(簡易的なテストでクライアントを安易に区分するのは危険)

数日間の研修を受けただけの一般企業のマネジャーが、見よう見まねで部下に「コーチング」をしてみようとしたが、部下が混乱して意欲が向上するどころか、悩みの袋小路に入って抜け出せなくなってしまった、という事例がたくさん出ています。コーチングのスキルは、基本要素だけでも多岐にわたります。生半可なトレーニングでは身につかないことを知っておくべきでしょう。

2つ目の問題「コーチング対象の誤解」

2つ目の問題点として「コーチング対象の誤解」について書きます。

「コーチング」の基本的な考え方は、【答えは、クライアントの中にある】です。これを読んでいる読者も、聞いたことはあるでしょう。答えは自分の中にある。「わかってはいるのだが、なかなか行動が伴わない……」という場合にコーチングは威力を発揮します。

コーチングは目標達成させるための行動変容を効果的に促がすためにある技術です。しかし、ベースである「目標達成意欲」がない、そのための「能力」がない、というのであれば、コーチング対象にならないと受け止めるべきです。今よりももっと速く走りたい、もっと高く飛びたいと願うアスリートに対してコーチが手ほどきをするのと同じです。一般企業でいうと、経営者やマネジャーがコーチングの対象クライアントにふさわしいと言えるでしょう。

達成意欲もなく、どのような行動を起こすことで結果がもたらされるのか、皆目検討もつかない人材に「コーチング」は機能しづらいのです。この場合、必要なのは「ティーチング」と言えます。

また、「重要―緊急マトリックス」で考えた場合、コーチング対象は【重要だが緊急ではない】仕事にすべきであり、急を要するときに「コーチング」は逆効果です。つまり、早く部下に結果を出してほしい、行動を変えてほしいときにコーチングは機能不全に陥ってしまう可能性が高いのです。

誤解さえしなければ「コーチング」は素晴らしい技術

「コーチング」は素晴らしい技術ですが、どういう人に対して、どのような行動変容を、どのような時間軸で実現させるかをキチンと押さえておきましょう。実際に、私の場合も、現場に入って「コーチング」することはありません。基本スタンスとして、相手に考えさせ、相手の言葉で行動を宣言してもらいますが、相手の答えが間違っていれば、私はそれを修正します。そしてアドバイスをします。

人間の思考プログラムは過去の体験の「インパクト×回数」でできています。体験を重ねることで、自分の価値観、考え方が整理されていくものです。どうやったら目標達成に向けた行動変容してくれるのか、どうすればモチベーションがアップするのか、その「動機付け」ばかりを探していては堂々巡りになっていきます。

相手の中に「答え」がないのであれば、膨大な行動を積み重ねて成功体験を築かせるべきでしょう。その成功の「歴史」がクライアントをコーチングしてくれるはずです。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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