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重篤な健康被害のおそれも 「マフィン食中毒」はなぜ起こってしまったのか

山路力也フードジャーナリスト
今回のマフィンは食品衛生法違反の恐れも指摘されている。(写真:イメージマート)

イベントで販売されたマフィンが重大なリコール対象に

 11月11日、12日に東京ビッグサイトで開催されたアジア最大級のアートイベント『デザインフェスタvol.58』(主催:デザインフェスタ有限会社)のフードエリアに出店した洋菓子店が販売したマフィンを喫食した客の多くが体調不良を訴え食中毒となった。厚生労働省は販売された「栗マフィン」をはじめとするマフィン9種類(約3000個)について原因食品と認定し、健康への被害が最も高い「CLASS Ⅰ」のリコール対象とした(参考ページ:消費者庁リコール情報サイト)。

 「CLASS Ⅰ」とはリコール食品の中でも、最も危険度の高い「喫食による重篤な健康被害または死亡の原因になり得る可能性が高い場合」に対象となるもの。厚生労働省が掲げる例としては「腸管出血性大腸菌に汚染された生食用野菜、ナチュラルチーズなど加熱せずに喫食する食品」「ボツリヌス菌に汚染された容器包装詰食品」「有毒魚(魚種不明フグ、シガテラ魚等)」「硬質異物が混入した食品(ガラス片、プラスチック等)」などが挙げられており、それと同等の危険性があると判断されたことになる。

 問題のマフィンを製造し出展販売したのは、2017年に開業した『Honey×Honey xoxo』(東京都目黒区)。店側はリコールを受けてSNS上で謝罪し商品回収を開始した。またイベントを運営する『デザインフェスタ有限会社』(東京都渋谷区)も、公式ホームページで謝罪している。しかしながらSNSなどではその責任の追及や批判が今もなお続いている。

安易に取得出来る製造許可や資格

 なぜこのような重大な食中毒事案が起こってしまったのか。運営側はフードの出展者に対して「食品衛生責任者資格取得」「生物賠償責任保険加入」などを出展の条件として求めたという。当然のことながら今回の店舗もこれらの条件を満たして出展していたことになる。しかしながら食中毒事案は起こってしまった。

 今回のような焼き菓子を製造販売する場合、食品衛生法の要許可業種に該当するため「菓子製造業許可」「飲食店営業許可」(店舗を出す場合)「食品衛生責任者の設置」などが原則として必要となる。しかしながら、実質的には書類が揃っていて厨房や店舗の環境が整っていれば許可は降り、食品衛生責任者に関しても座学とテストを受ければ半日程度で取得が可能な資格だ。

 このように安易に取得出来る許可や資格をもって、食の安全性を担保したり衛生意識や知識が低い出展者を見抜くことは、正直難しいと言えるだろう。今回のマフィンはイベントで大量に販売する必要があるため、事前に大量に製造したことから製造日より数日が経っており、その間の保存や管理状態にも懸念があった。店舗側はSNS上で空調によって温度管理をしていたと主張しているが、実質的には常温保存に等しく、製造者が正しい衛生管理知識を持っていたら起こる可能性が低かった事故と言えるだろう。

「防腐剤不使用」「健康安全思想」の弊害

 また、今回のマフィンをはじめこの店舗の商品は「すべて防腐剤、添加物不使用」を謳っており、さらに「市販の焼き菓子の半分以下のお砂糖の量」で作っているのがセールスポイントとなっていた。防腐剤を使わないのであれば、より一層安全な環境での製造が求められ、さらに砂糖を半分以下の量しか使っていないとなると、砂糖が持つ「防腐性」が損なわれており、なおのこと腐敗しやすい商品だった可能性が高い。

 細菌や微生物が活性化するにはある一定の水分が必要となるが、多くの砂糖を加えることによって食品中の水分を砂糖が抱え込み腐りにくくなる。これが砂糖の「防腐性」で、ジャムや羊羹などが腐りにくいのは砂糖が大量に入っているためだ。無添加商品を作るのであれば正しい温度管理はもとより、無菌状態の工場のようなレベルの衛生管理が必要となる。これは推測になるが個人経営でそのような衛生状態を維持管理することは現実的には不可能に近い。

 防腐剤や保存料などの食品添加物は食品中の微生物などの増殖を抑える効果があり、科学的な評価に基づき安全性が確認されており、人が一生毎日摂取し続けても健康に影響しない量「一日摂取許容量(ADI)」を使用基準が設定されている。また食品添加物不使用の商品で「健康」や「安全」を謳うことは、2022年に消費者庁が発表した「食品添加物の不使用表示に関するガイドライン」によれば、食品表示法に違反のおそれがある。

 不幸中の幸いと言うべきか、今のところ重篤な被害の報告はされていないが、「重篤な健康被害または死亡の原因になり得る可能性が高い」とされた商品を製造販売した店側の責任は大きい。製造拠点での作りたてを対面販売するのと、作り置きしたものを別の場所へ移動して販売するのとでは違うのだ。

 食品を製造販売するということは、人の命に関わること。店側にはより一層の高い衛生管理意識と食の安全の知識を求めるとともに、許可認可を与える行政側にも現在の食品衛生法の要許可業種に関して今一度精査を求めたい。そして私たち消費者も正しい食の知識を持って、自分の身は自分で守る意識が必要だ。

【参考資料:厚生労働省 食中毒情報ページ

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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