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「肉フェス」食中毒騒動から考えるフードイベントの問題点

山路力也フードジャーナリスト
全国で開催されるフードイベント。その安全性が今問われている。※写真はイメージです

東京・福岡の「肉フェス」の鶏肉で食中毒が発症

東京都は16日、4月28日~5月8日に東京台場で開かれたイベント「肉フェスお台場 2016春」で提供された「ハーブチキンささみ寿司」を食べた男女49人が、下痢や嘔吐などの食中毒を発症したと発表した。また福岡市も同日、4月29日~5月8日に福岡市内で開かれたイベント「肉フェスFUKUOKA 2016春」で提供された「ハーブチキンささみ寿司、鶏むね肉のたたき寿司」からカンピロバクター菌が検出され、食中毒症状が発症したことを公表した。それを受けて「肉フェス」公式サイトでも発表がされた。

ここ数年、空前のフードイベント、グルメイベントブームである。全国の人気店やご当地グルメなどが集結し、会場内で食べ歩きが出来る楽しさが受けて、ほぼ毎週末のように全国各地で開催されているフードイベント。どの会場でも多くの人が集まり、ブースの前には長い列が出来ている。特にこの春の大型連休中は多くのイベントが開催されたが、その中で起こった人気イベントでの食中毒発症。連休中ということもあって家族連れの客も少なくなく、お台場での発症者の中には8歳の子供もいた。命には別条が無かったのが不幸中の幸いと言えよう。

しかし、フードイベントでの食中毒発症は今回が初めてのことではない。昨年10月、大阪府吹田市で開催されたイベント「まんパク in 万博 2015」においても、黄色ブドウ球菌を原因菌とする食中毒が発生したばかりである。この半年のあいだに、大阪、東京、福岡で相次いでフードイベントでの食中毒発生事案が起きているのだ。これは由々しき事態と言わざるを得ない。

なぜ保健所の提供中止指導を受け入れなかったのか

産経新聞の記事によれば、保健所は食中毒の疑いが判明した今月6日、イベントを主催するエンタテインメント会社「AATJ」(港区南青山)に対し、ささみ寿司の提供をやめるよう指導を行ったが、同社はイベント終了まで販売を継続した、とある。このささみ寿司は期間内で計13,924食を販売しており、今後も患者数は増える可能性がある。私が疑問に思うのは保健所からの提供中止の指導があったにも関わらず、なぜその後もその商品を販売し続けたのか、という点である。

保健所から指導が出された段階では、まだ食中毒の原因が特定されていなかった。しかし、その可能性が極めて高い商品が「ささみ寿司」だったからこそ、保健所は提供中止の指導を出したと思われる。ならば、主催者や出店者はその段階でその商品が食中毒の原因であると特定されていなかったとしても、即刻販売を中止すべきであったはずなのだが、該当商品の販売はイベント最終日まで続けられた。つまり、少なくとも6日からイベント終了までの3日間、食中毒の原因の可能性が強い商品を出し続けていたということだ。これは、食をビジネスとして扱う者として絶対にあってはならないことだ。

今回の原因とされている「ハーブチキンささみ寿司」に使われていたのは鶏肉である。鶏肉には食中毒の原因菌であるカンピロバクターやサルモネラ属菌が付着している可能性があり、生食に適していないのは農林水産省の注意喚起を待たずしても一般常識であるはずなのだが、その鶏肉がほぼ生肉状態で寿司という形で提供されていた。しかもイベント期間中は連日20℃を越える気温の中、屋外の仮設厨房で調理されたものである。そこで食中毒が起こる可能性が極めて高いというのは、飲食業に就く者としては当然知っているべきことであり、もし知らなかったとしたら大問題だ。

なお、上述した報道を受けたあと「肉フェス」公式サイトでは、報道内容に一部誤りがあると発表した(5月17日「肉フェス」公式サイト)。これによれば「保健所より連絡を受けた6日12時30分頃から「ハーブチキンささみ寿司」の一旦販売を停止し、14時30分頃江東区保健所の現地査察と指導を受け、メニューの調理方法の変更を行い、十分に肉の中心部に火が通った状態であることを確認し、同日17時00分頃に江東区保健所にご報告した上で販売再開」したとある。しかし、いくら調理方法を変えたとしても、そのような指摘を受けた商品を5時間後に販売再開してしまう感覚は理解し難く、食の安全性に対する意識が低いということに何ら変わりはない。

フードイベントの構造的な問題が食中毒を招いた

なぜ今回のイベントであってはならない食中毒が起こったのか。これにはいくつかの理由があると思うが、私はフードイベント全般が持つ構造的な問題が大きく関係しているのではないかと思っている。まず屋外フードイベントの場合、調理は仮設店舗で行われることになるため、通常の店舗より設備の衛生面が劣っているのは間違いなく、また本来ならば通常の店舗と同様かそれ以上に衛生管理の意識を高く持たなければならないが、実際はそうならないことがほとんどだ。

それは設備上の問題もさることながら、出店者には「出来るだけ早く」「数多く売ろう」という心理がどうしても働いてしまうから。当然商売である以上、売上げを多く上げたいという理由もあるだろうが、それ以前に目の前にたくさんのお客さんを待たせていると、早く出したいという思いが出るのは、店側としても当然のことなのだ。

さらにフードイベントの場合、多くのスタッフが必要になるため自店のスタッフだけでは到底まかなえない。その結果、厨房の中に入っているスタッフがアルバイトなどである確率が高くなる。基本的な仕込みや予備調理は料理人がやるが、簡単な調理作業に関してはアルバイトに任せているケースも少なくない。温めるだけとか焼くだけとか、イベントで提供される料理は簡単な調理で完成するものが大半だが、そこには回転率を上げるために供給スピードを速めなければならない理由と、調理経験に乏しいスタッフが調理に関わるという、フードイベント特有の理由があるのだ。

これはあくまでも推測に過ぎないが、今回実際に提供された「ささみ寿司」の商品写真を見るに、ほとんど火の入っていない生状態であり、かつ盛りつけも雑であった。これを料理人が作ったものとは考えにくく、仕上げの加熱する工程にアルバイトが関与していたのではないか。もちろん事前にアルバイトに対してでも衛生講習や調理指導があったと思いたいが、それが成されていたとしてもイベントの雰囲気の中、いち早く商品を提供しようという気持ちが勝って、雑な調理になってしまったのではないかと思うのだ。

すべての人に「食の安全性」に対する意識向上が問われている

これから夏に向かいフードイベントが開催される機会が増えていく。最近では音楽フェスなど他のイベントでもフードブースを強化しているイベントが多い。そして夏場は気温も高く、ますます食中毒のリスクが高まっていく。その中で今回のような不幸な事故を起こさないためにはどうしたら良いのだろうか。

まずイベント主催者側がすべきことは、食中毒のリスクを可能な限り排除する施策を今一度徹底することだろう。厨房機器や素材のストッカーなど設備面の見直しは必須であるし、出店者に対しての衛生講習の徹底や提供商品の精査はもちろんのこと、来場者に対しても食中毒の注意喚起を徹底的に行う必要がある。

その精度を高めるためには、各フードイベントを主催する主催者側が連携を取って、情報を共有する場が必要なのではないかと考えている。例えば、今回の一連の原因と対応、対策などを他のフードイベント主催者と共有することで、今後のフードイベントがより安全なものになっていくと思うのだ。イベント主催者の皆さんには、ぜひ御一考頂きたいと思う。

次に出店者側がすべきことは、食中毒の知識をアルバイトを含めた全スタッフに徹底させること。通常の店舗での営業以上の衛生管理意識が問われる場である、ということを今一度明確にする必要がある。さらに出店する商品に関しても、極力食中毒になりにくい食材や料理の選定と、リスクの少ない調理オペレーション、素材管理体制を取るべきだ。

そして参加する客側も、食中毒に対する理解をもっと深めなければならない。どのような食材がどのようなリスクを持っているのかを知っておくべきであるし、どのような状態で食べたらいけないのかも知る必要がある。今回の場合、もちろん最大の落ち度は調理提供した店側にあるが、鶏肉の生食にリスクがあると食べる側が知っていれば、その料理を口にすることはなかったはずなのだ。最終的に被害を受けるのは参加する客である。自らの命は自らで守らなければならない。

フードイベントは美味しくて楽しいものだ。だからこそ、その場で悲しいことがあってはならない。それには主催者はもちろん、出店者、そして参加する客のすべてが、今一度食中毒についての理解を深め、食の安全性に対して真剣に向き合わなければならない。今、すべての人の食に対する意識が問われている。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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