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客に対して「クソ素人」呼ばわり なぜラーメン店主はSNSで暴言を吐いてしまったのか?

山路力也フードジャーナリスト
ラーメン店主のSNSでの暴言が物議を醸している。(写真:イメージマート)

ラーメン店主の投稿がSNSで炎上

 2022年4月、SNS上であるラーメン店主の投稿が物議を醸した。来店した客が店のことを「不味い」などと酷評した投稿に対して反応し、その中で客に対して店独自の注文方法などを間違えたことに対して「クソ素人が来たなと」「二度と来ないでください」と応戦したというものだ。

 この店では注文時に無料トッピングであるニンニクの有無を問われるのだが、「ニンニクなし」だと「ニンニク増し」と聞き違えることがあるので「ニンニク抜き」と注文して欲しいと独自のルールを設定していた。前述の客はそのルールを知らずに「ニンニクなし」とオーダーし、それが「素人」だと店主にSNS上で指摘されたのだ。

 「私語厳禁」「撮影禁止」「子ども入店不可」「ながら食べ禁止」「大盛りの残し禁止」など、ラーメン店ではこのような店独自のルールが原因で、客とのトラブルや行き違いが生まれることが少なくない。そしてそのトラブルの顛末を客がSNSで公開することがきっかけで、第三者も巻き込み炎上するというのがお約束の流れだ。

店独自のルールが生まれる理由とは

ラーメン店にはいくつもの独自ルールが存在する。
ラーメン店にはいくつもの独自ルールが存在する。写真:イメージマート

 その店独自のルールが生まれる理由はいくつか考えられる。前述した「ニンニク抜き」は、オーダーを間違えずに通すために生まれたものだろう。「私語厳禁」は、ラーメンに集中する環境を作りたいという思いもあるだろうし、かつて騒がしい客が原因でトラブルがあったのかもしれない。

 「撮影禁止」に関しては、ラーメンを早く食べて欲しいという思いであったり、SNSや口コミサイトなどへの掲載を望んでいなかったり、他の客が映り込むなどのトラブルを防止する目的かもしれない。「子ども入店不可」は、稼働率を上げたいという営業戦略上の理由もあるだろうし、落ち着いて食べられる空間を維持したいという狙いや、不測の事故などを防止する理由もあるかもしれない。

 どんな店であっても、来た客に満足して帰って欲しいと考えている。そのためにその店の環境や状況に応じた独自のルールが作られている。店の都合であったり、客が快適に過ごすためであったり、店内の治安や環境を守るためであったりと理由は様々だが、いずれにせよ店が独自のルールを作る理由は、客やスタッフがトラブルやストレスなくスムーズに過ごせる環境を整備するためだ。

 よって、店がその店独自のルールを設定するのは当然のことであるし、客がその店を利用する以上はそれに従うのも当然のことである。客がそのルールに納得がいかないのならば、その店を利用しなければ良いだけのこと。店はそのルールに納得出来る客だけを受け入れて、商売が成立すれば何の問題もない。

 一般的なマナーやモラルに準ずるルールであれば、さほど問題は起こりにくいが、その店特有のルールの場合は客が戸惑う。例えば「食べ終えた後の丼」をどうするか。片付けやすいように上に上げて欲しいという店もあるし、危険なのでカウンターに置いたままにして欲しいという店もある。独自のルールを設定している場合、店は客に対してそのルールをあらかじめ周知徹底する責任があるだろう。

なぜ高圧的な態度になり暴言を吐くのか

 問題なのは独自のルールそのものではなく、そのルールの伝え方やルールを守れなかった客への対応の仕方だ。確かに婉曲的な表現では真意が伝わらない客や理解出来ない客に対して、直接的な表現をせざるを得ない場合もあるだろう。しかしながら、常識的に考えれば接客業、サービス業に適した文言なり表現の仕方はあるはずだ。

 客に対して横柄な態度を取ったり、SNS上で他者を罵ったりするラーメン店主に対して、「売れていることで調子に乗っている」などと指摘する声も一部ではある。もちろんその可能性も否定は出来ないが、それよりも店主が対人スキルや接客スキル、ネットリテラシーなどにそもそも欠けているという可能性も十分に考えられる。そうでなければ客に暴言を吐いたりすることは常識的には考えにくい。

 世の中にはある一定の割合で、他者を見下したり小馬鹿にするような態度で接する人がいる。これは店側に限らず、客側でも偉そうにしている客を見かけることはあるだろう。つまり、今回の騒動は人気ラーメン店主が天狗になっているわけでもなければ、店独自のルールによって起こったことでもない。ただこの店主の対人スキルなりネットリテラシーが低かったことに起因するのではないか。

 店は商品とサービスを提供し、客はその対価として料金を支払う。その関係性に上下や貴賎はなくあくまでも対等だ。店側も客側もそれぞれがお互いの立場や他者の気持ちを慮って行動することによって、大抵のトラブルは回避出来るだろうし、今回のようなルールがなくとも飲食店はもっと素敵な場所になるはずだ。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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