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ステーキ店のパフォーマンスで火傷 なぜこのような事故が起こったのか?

山路力也フードジャーナリスト
ステーキ店でのフランベは盛り上がるパフォーマンスの一つ(写真:イメージマート)

沖縄のステーキ店で客が火傷を負う事故

 今月18日、沖縄県豊見城市にあるステーキ店『サムズアンカーイン イーアス沖縄豊崎店』で、鉄板焼きのパフォーマンス中にフランベの火が客に燃え移り、県外から来ていた家族客のうち、父親と5歳の男の子が顔や手などに火傷を負う事故があった(参考記事:琉球放送 2022年11月22日)。

 フランベとは、ブランデーなどアルコール度数が高い少量のお酒に火をつけて、瞬間的にアルコール分を飛ばし、料理に香り付けなどをする調理工程のこと。今回のようなステーキハウスや鉄板焼店などでは、ある種のパフォーマンスとしても人気がある。しかしながら、通常のフランベで強い火柱などが上がることはなく、ましてや勢いよく客席の方へ炎が飛ぶことは考えにくい。

 事故の様子が収められた動画を見るに、プラスチック製のソースディスペンサーのようなものに入った液体を、フランベ時に勢いよくステーキに飛ばしているのが確認出来るが、通常のフランベでは見られない工程に違和感を覚えた。店舗側は通常ステンレス製の容器に入れるべきだったアルコールが、プラスチック製の容器に入っていたことから「使用する容器が不適切だった」と説明しているという。またアルバイトが調理を担当していたというのも、安全性を確保する上で適切であったかの検証は必要だろう。

 今回事故を起こした『サムズアンカーイン』は、沖縄に複数店舗を構える人気ステーキ店で、観光客の利用も多いブランドだ。今回被害を受けた親子は県外からの来訪で、祖父母などと共に夕食でこの店を訪れている。おそらく観光で沖縄を訪れて、沖縄らしい夕食として人気のステーキハウスを選んだのだろう。

 飲食店やレストランは美味しい料理を出す場所であると同時に、楽しい思い出を作る場所でもある。せっかくの楽しい沖縄旅行であったはずが、この家族にとっては大変辛い旅になってしまったことに胸が痛む。そして被害を受けた5歳の男の子やご家族の気持ちを考えるといたたまれない思いになる。

SNSが派手なパフォーマンスを加速させる

派手なパフォーマンスはSNSで拡散されやすい
派手なパフォーマンスはSNSで拡散されやすい写真:イメージマート

 元来、ステーキハウスや鉄板焼店は、客の目の前で調理をするパフォーマンスが「ウリ」の一つになっている。生卵をターナー(ヘラのようなもの)で割ったり、ペッパーミルをジャグリングしたり、焼いた海老を客の皿へと飛ばしたりするパフォーマンスの中でも、ステーキの仕上げのフランベは炎と香りが立ち盛り上がる時間だ。

 ステーキハウスでのパフォーマンスの嚆矢は、1964年にアメリカ・ニューヨークで日本人がオープンした『BENIHANA OF TOKYO』と言われている。そのパフォーマンスが人気となり、アメリカを中心に中南米などに多店舗を展開するようになった。今では多くのステーキハウスがこのパフォーマンスを取り入れて客に喜ばれている。

 『BENIHANA』がパフォーマンスを始めて半世紀以上が経った今、SNS時代のレストランは従来よりもビジュアルやパフォーマンスを重視する傾向にある。目を引くような盛り付けや、目の前で料理を仕上げるパフォーマンスなどは、ステーキハウスに限らず、多くのレストランで目にすることだろう。そして目の前で行われるパフォーマンスを、スマートフォンで撮影したりSNSにアップするのは当たり前の時代。今回の事故動画も被害を受けた家族の父親が撮影したものだ。

 SNSで拡散されることで店や料理が話題になり客足が増える。レストランがそう考えて料理のビジュアルを考えたりパフォーマンスを取り入れることは当然だ。しかしながらSNSで拡散されて流行したビジュアルやパフォーマンスに一度慣れてしまうと、客側も店側ももっと派手なものや激しいものを求めたくなるもの。今回の常識では考えにくいフランベのスタイルにも、そのような心理が働いた可能性は否定出来ない。

 ステーキハウスに限らず、派手なビジュアルやパフォーマンスばかりが目立つレストランが増えている今の時代。もちろん、その背景には客に喜んで欲しいというサービス精神もあるだろう。しかしながら、飲食店の本分はあくまでも美味しい料理を提供すること、そして楽しい時間を過ごしてもらうことにある。そのために何よりも必要なのは「衛生的」であり「安全」であることだ。今回の不幸な事故を教訓として、飲食店の方たちには飲食店本来の在るべき姿を今一度真剣に考えて欲しいと切に願う。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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