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SNSで相次ぐ「飲食店テロ」を防ぐ唯一の解決策とは?

山路力也フードジャーナリスト
常識では考えられない蛮行が後を絶たない。

「飲食店の信頼」と「食の安全」を脅かす愚行が続々と

回転寿司チェーンでの迷惑行為から始まった「飲食店テロ」。
回転寿司チェーンでの迷惑行為から始まった「飲食店テロ」。

 2023年になってから、連日大手飲食チェーン店での迷惑行為の動画がSNSで拡散される騒動が後を絶たない。年明け早々に回転寿司チェーン『はま寿司』にて、レーンを流れる寿司に直接箸を伸ばして食べる動画が拡散。さらに同じく『はま寿司』で、レーンを流れる寿司にワサビを乗せる動画が拡散された。その後、回転寿司チェーン『スシロー』で、卓上に置かれた醤油ボトルや湯呑みを舐めたり、回転している寿司に指で唾をつけるなどの悪意のある迷惑行為の動画が拡散され、炎上騒ぎとなった。

 さらに福岡を中心に展開するうどんチェーン『資(すけ)さんうどん』では、卓上に置かれた天かすを共用のスプーンで頬張る動画が拡散。カレーチェーン『CoCo壱番屋』では、卓上の福神漬を共用のスプーンで食べる動画が、牛丼チェーン『吉野家』では、卓上の紅生姜を器ごとかきこむ動画が拡散された。ラーメンチェーン『山岡家』では卓上のニンニクを直食いされ、同じくラーメンチェーン『神座(かむくら)』では割り箸を舐めて戻す行為が確認された。今や飲食店は無法地帯、なんでもアリといった様相となっている。

 さらに3月には茨城県のラーメン店で、一人の男性客が卓上の胡椒を一瓶丸ごとラーメンにぶちまけ、さらに大量の酢も投入した上で残して帰っていった様子が店の防犯カメラに映されていたことが明らかとなった。店側は胡椒の瓶を撤去して缶タイプの胡椒と置き換える措置をとった。この店では以前、大量の爪楊枝を丼に投入されたという被害も受けているという(参考記事:日テレNEWS 2023年3月28日)。

愚行の代償として社会的制裁が与えられる

回転寿司のみならずラーメンチェーンでも被害が相次いでいる。
回転寿司のみならずラーメンチェーンでも被害が相次いでいる。

 回転寿司チェーンなどでの迷惑行為については、「Z世代」と呼ばれる若者たちによる度の過ぎた悪ふざけという側面も少なからずあるのだろう。その行為が許されないことは言うまでもないが、SNSで注目を集めたいという動機であるとか、友人などに動画を撮られて調子に乗って、思わず行き過ぎた行為をしてしまう心理状況は理解出来ないこともない。

 しかしながら、その代償は大きい。『はま寿司』で迷惑行為をした少年などは、SNSなどで氏名や住所、学校などの個人情報が特定されて退学を余儀なくされた。愚かなことをした人間には社会的制裁が与えられ、割りに合わない代償を負わせられるという事例がいくつもあるにも関わらず、同じような愚行を繰り返す若者たちが後を絶たないというのは、常識的に考えれば理解不能だ。

 さらに個人で店を訪れて、動画などを撮るでもなくただ迷惑行為をして去っていくとなると、これはもうまったく手に負えなくなる。考えられることがあるとすれば、店なり従業員に対しての個人的な恨みがあっての嫌がらせくらいだろうが、その心理状態も含めてどこか薄気味悪さを覚えるのは私だけではないだろう。

なぜ迷惑行為は繰り返されるのだろうか

うどん店でも卓上の天かすを直接口に入れる迷惑行為が。
うどん店でも卓上の天かすを直接口に入れる迷惑行為が。

 回転寿司店で醤油差しを舐めたり、うどん店で天かすを頬張ったりすることの何が楽しいのかについてはここでは問うまい。しかしながら、不特定多数が共用するものに対してそのような行為をする人間については、ある程度の制裁なり処罰が下されるのは、社会の秩序を守る上で当然のことだ。

 常識的で論理的な思考を持つ人間であれば、その行為と制裁などとを照らし合わせて思いとどまるものだ(そもそも常識的な人間はそのような迷惑行為をしたいとすら思わないが)。醤油差しを舐めただけで退学してしまうのはどうにも割に合わないと考える。だからこそ罰則などに抑止力が生まれるわけだが、それでも愚行が頻繁に繰り返されるのは何故なのか。

 それは、そのような行為を繰り返す人たちは、残念ながら論理的な思考回路が構築出来ていないということの証左ではあるまいか。頭で考える以前に条件反射的に行動してしまっているのではないか。想像力に乏しく刹那的にしか目の前の事象を処理出来ないのではないか。もしそうだとすれば、論理的なアプローチでその人たちの行動を理解しようとしたり、抑止しようとしても全く通用しない。

常識が通じない人への唯一の対処法とは

飲食店は安心安全な環境を維持することが最優先だ。
飲食店は安心安全な環境を維持することが最優先だ。

 その場合、解決策は一つしかない。「迷惑行為を発見した場合は警察に通報する」「迷惑行為を発見した場合は罰金10万円」「即退店、返金不可、出入禁止」などの直接的で分かりやすい警告文を、客席などの目に見える場所に置いておくことだ。これはコンビニエンスストアの駐車場などの警告文をイメージすると理解しやすいだろう。「他の方に迷惑がかかるので無断駐車はご遠慮ください」だけでは通用しない相手なのだ。

 もちろん、サービス業でありイメージビジネスでもある飲食店にとって、そのような警告文を掲示することは本意ではないだろう。しかし飲食店は美味しい料理と素晴らしいサービスを提供する以前に、安心安全な商品と環境を提供することが大前提のはずだ。どうしても警告文を貼りたくないのであれば、寿司を回転させずドリンクバーや卓上の調味料なども撤去して、飲食店の責務として安心安全な環境を作るしかない。

 常識的な私たちにとっては、一部の非常識な輩のために利便性が損なわれることは納得出来ない部分もあるだろう。しかしながら、過去に社会的制裁を受けた人間がどれだけいたとしても、自分ごととして捉えられない人たちへの抑止力にはならない。そうであるならば、論理的に物事を捉えられる私たちが我慢するしか解決策はないのだ。

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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