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スマホを観ながらラーメンを食べるのはマナー違反なのか

山路力也フードジャーナリスト
スマートフォンを観ながらラーメンを食べることの是非を考える。(提供:イメージマート)

あるラーメン店主によるツイートが物議に

『博多ラーメンでぶちゃん』(高田馬場)店主、甲斐康太さんのツイート。(画像:twitter)
『博多ラーメンでぶちゃん』(高田馬場)店主、甲斐康太さんのツイート。(画像:twitter)

 スマートフォンを観ながらラーメンを食べることの是非。今、SNSを中心に物議を醸しているのが「ながら食い」だ。きっかけとなったのはラーメン店『博多ラーメンでぶちゃん』(東京都新宿区高田馬場2-13-6)店主、甲斐康太さんが3月16日にtwitterに投稿したツイートだ。

”そろそろYouTubeなどの動画見ながらラーメンを食べる「ながら食い」禁止にしようかな。※のびて劣化するラーメンに限る。"

 甲斐さんの問題提起によって多くのユーザーやメディアが反応。「ながら食い」の是非や、飲食店におけるマナーなどについて様々な意見が飛び交う事態となっているが、『でぶちゃん』の常連客や同業者からは賛同の声が多いという。

 「予想以上の反響に驚いてはいますが、問題提起として意図して行った部分もあり、お客様や同業者からも好印象な反応を頂いています。昨今のながら食いに対して警鐘を鳴らすべきだと思っていたので、飲食店側からの声としてアジテーション出来たのは大変嬉しく思います」(でぶちゃん 店主 甲斐康太さん)

 昨今の「飲食店テロ」などの迷惑行為は顕著な例だが、近年飲食店において常識やマナーに欠ける客によるトラブルが増えている。飲食店は自分の家ではなく、不特定多数の人が利用する場所である。そのような場所において他者に迷惑をかけないことは、社会で生活していく上で当然のことだ。

「ながら食い」はマナーとして浸透しているのか

『でぶちゃん』店内の卓上に貼られている「ご協力のお願い」。(提供:『でぶちゃん』)
『でぶちゃん』店内の卓上に貼られている「ご協力のお願い」。(提供:『でぶちゃん』)

 『でぶちゃん』の店内では、卓上などにキャッシュレス化の告知と共に、小さく「ご協力のお願い」として「ラーメンに限りスマホでの動画視聴やゲームなどの『ながら食い』をご遠慮ください」との告知がされている。今回なぜ甲斐さんは「ながら食い」禁止を宣言したのか。

 「元々、スマホの普及と同時にながら食いは目立ち始めてましたが、それでも全体の1〜2割程度でした。きっかけは満席でお待ちのお客様がいるにも関わらず、店舗利用(飲んだり食べたり、談話も含む)とは関係のない、本来操作する必要のないスマートフォンをラーメンそっちのけで操作して、YouTubeを見ているお客様が目についたからです。そもそもこんなに厳しくルールのあるお店にはしなくないのが本音で、これまではお客様のモラルに委ねてきたのですが、そうも行かない現状に嘆いて、そんな時代に警鐘を鳴らす必要性を感じてツイートしました」(甲斐さん)

 『でぶちゃん』は昼夜を問わず待ちが出る人気店。店の外にはラーメンを食べるために待っている客がいる。その状況において、席を占有してラーメンを後回しにしてスマートフォンに興じる。それは待っている客にとっては迷惑極まりない行為であり、店にとっても機会損失となりかねない。

 電車内での通話禁止やイヤフォンのボリュームを抑えるなど、スマートフォンの普及によって社会における新たなマナーが生まれるのは当然のことだ。そして多数のコンセンサスが取れて、そのマナーが浸透するまでの過渡期にはトラブルが発生するのもやむを得ない部分がある。ラーメン店でラーメンを食べながらスマートフォンを観ることの是非について賛否両論が飛び交っている状況は、まだマナーとして決着がついていないことの現れなのだろう。

店内の秩序を維持するのが一番の目的

『でぶちゃん』のラーメンは細麺の博多ラーメン。(撮影:筆者)
『でぶちゃん』のラーメンは細麺の博多ラーメン。(撮影:筆者)

 しかしながら、いつの時代であってもマナーやルールとは、社会において他者が不快な思いをしないための行儀や規範であるということに変わりはない。今回の「ながら食い」禁止は、博多ラーメンが伸びやすいだの、行儀が悪いだのといったことが主たる目的ではない。あくまでも他者に迷惑をかける行為であり、それを排除するのが不特定多数の人に利用される飲食店として当然の責務であるからだ。

 「これが正解とは決して思わないですが、今回の『ながら食い』禁止はあくまでも手段になります。目的は大きく言えばお店の秩序維持。大切なのは『許される範囲での自由』だけである、と言うところですよね。パーソナルな空間提供はあくまでもパブリックな空間の中で行われるわけで、お客様は一律平等であると思います。寝る人も騒ぐ人も暴れる人も同列で、満席時の待ちのお客様がいる中での『ながら食い』のお客様も、配慮をお願いして快諾頂ければなんの問題もないのですが、ご理解頂けなければ残念ながら当店の秩序を乱す方に該当するのでご利用自体難しいと思います」(甲斐さん)

 店は商品とサービスを提供し、客はその対価として料金を支払う。その関係性に上下や貴賎はない。お客様は神様ではないのだ。私たち一人一人がお互いの立場や他者の気持ちを慮って行動することによって、今回のようなルールがなくとも飲食店は素敵な場所になるはずだ。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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