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ラーメン経験ゼロで店をオープン? 独学でたどり着いた博多ラーメンとは

山路力也フードジャーナリスト
誰もがイメージする博多ラーメンらしいホッとするビジュアル。

博多の街に新しい博多ラーメン店が登場

 博多旧市街の中心地でもあった、下呉服町の住宅街に馴染むような佇まいで、2021年6月に一軒のラーメン店がオープンした。店の名前は『らぁめん39番地』(福岡県福岡市博多区下呉服町6-7-1)。2007年に福岡市南区大橋で創業し、14年の営業を経て移転リニューアルしたばかりだが、早くも地元の人たちを中心にリピートを生む人気店となっている。

 店主の渡邊賢司さんはこれまで20年近くに渡りラーメンを作り続けて来たベテラン職人。下呉服町はかつて「下浜口町」と呼ばれており、渡邊さんが生まれ育った場所。父親がこの地で中華料理店を営んでおり、自身も子供の頃から出前などを手伝っていた思い出の場所でラーメン店を開くのが夢だったという。

真新しく清潔感のある店内には、大橋時代の看板も飾られている。
真新しく清潔感のある店内には、大橋時代の看板も飾られている。

ラーメン経験ゼロなのにオープン日が決まっていた

 渡邊さんがラーメンの道に入ったのは30も半ばを過ぎた頃。何の仕事をやっても続かずフラフラしていた渡邊さんを、見るに見かねた先輩が「ラーメン屋をやらんか」と声を掛けた。新しく出来る屋台村に出店が決まっていたラーメン店。しかしラーメンを作る人がいなかった。そこから渡邊さんの長いラーメン人生が始まった。

 「昔からラーメンは好きでしたが、もちろん作ったことはありませんし、教えてくれる人もいません。しかしオープン日までにラーメンを完成させなければなりません。毎日ラーメン店を食べ歩いては試作を繰り返して、先輩に食べてもらう日々が続きました」(らぁめん39番地店主 渡邊賢司さん)

 試行錯誤を繰り返し、なんとかラーメンが完成して店もオープン。さらに店舗展開やプロデュースなどに携わり、渡邊さんはラーメン職人として貴重な経験を重ねていった。そして、39歳の時に独立を果たして『らぁめん39番地』を開業。独立した年齢と『サンキュー』の思いを店名に込めた。

優しい味わいのラーメンと手作りの一口餃子。どちらも毎日食べても飽きが来ない味だ。
優しい味わいのラーメンと手作りの一口餃子。どちらも毎日食べても飽きが来ない味だ。

毎日飽きずに食べられる博多ラーメンを

 ラーメン作りは教わったことがなくすべてが独学。長年の試行錯誤の繰り返しからたどり着いた『らぁめん39番地』のラーメンは、懐かしさを感じさせる博多ラーメンのスタイルを踏襲しているが、新しさも感じる味わいになっている。その秘密はズバリ「鶏」だ。

 通常、博多ラーメンの場合スープに鶏ガラは使わない。しかし渡邊さんは独学だったからこそ鶏を入れることを思いついた。豚の頭骨、豚足に鶏ガラを入れて炊き上げたスープは臭みがなくマイルドな味わい。丁寧に下処理をしてきめ細かな網で漉すことで口当たりも優しい。豚だけではなく鶏の旨味も加わることで、旨味の相乗効果が発揮されてより奥深い味になっているのだ。

 「私自身、ラーメンは構えることなく気軽に美味しく食べたいのです。おやつ感覚で食べられるような、昔ながらの博多ラーメンを作っていきたい。毎日食べても飽きることなく食べられる味を目指しています」(渡邊さん)

 新しい店舗はラーメンに導いてくれた先輩が作ってくれた。長く営業していた大橋から地元への移転で、常連客との別れが辛かったと語る渡邊さんだが、地元呉服町の人はもちろんのこと、大橋時代の常連客も足を運んでくれ、早くも地元に根付いた人気店となっている。

 「父が中華をやっていたこの町で私がラーメン屋をやるのは、もしかしたら運命だったのかも知れません。いつかは父の店で出していた焼飯やちゃんぽんも出せたら良いなと思っています」(渡邊さん)

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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