豚骨の聖地「博多」にオープンした驚きの新店

2020年2月にオープンした『麺屋 波のおと』(福岡市博多区)。温かみのあるスタイリッシュな店だ。
2020年2月にオープンした『麺屋 波のおと』(福岡市博多区)。温かみのあるスタイリッシュな店だ。

 福岡博多は言わずと知れた豚骨ラーメンの街である。戦後の屋台から始まり、多くの豚骨ラーメン店がある博多では、ラーメンと言えば豚骨ラーメンのことを意味する。博多っ子にとって豚骨ラーメンはうどんと並ぶソウルフードなのだ。

 しかし、ここ数年福岡では「脱豚骨」「非豚骨」の潮流が生まれている。豚骨でなければラーメンにあらず、という時代から考えると隔世の感がある。増えつつある非豚骨ラーメンの中でも、今注目を集めている新店が2020年にオープンした『麺屋 波のおと』(福岡県福岡市博多区上牟田3-11-7)だ。

 新しいラーメン店が出来た時、味も接客も未完成であることがほとんどだ。ラーメン店などで経験を積んで独立したとしても、やはり初めてのことばかりなのだから、未完成であるのは至極当然のこと。しかし『波のおと』はそんな不安定さは一切なく、博多の街に突如として現れた。

 清潔感にあふれ居心地が良く明るい店内。物腰の柔らかな接客。流れるような所作の調理。そして艶やかで美しく、美味しいラーメン。まるでこの場所でこうして何年も営まれていたかのように、次々と地元の客がやってくる。オープンしたばかりの新店とは思えないクオリティに驚かされる。

「福岡で一番の塩ラーメンを作る」

人気豚骨ラーメン店で26年経験を積んで独立した、『麺屋 波のおと』店主の難波英雄さん。
人気豚骨ラーメン店で26年経験を積んで独立した、『麺屋 波のおと』店主の難波英雄さん。

 巧みな平ザルさばきで次々と麺を上げていく、店主の難波英雄さんは1976年生まれの45歳。20代で独立開業する人も多いラーメン業界の中では、やや遅咲きとも言えるデビューだが、そのキャリアは折り紙付き。世界にも店舗を展開する人気豚骨ラーメン店で26年の経験を積んできた。四半世紀以上ものあいだ、豚骨一筋で駆け抜けてきたベテラン職人なのだ。

 「アルバイト時代も含めれば26年お世話になりました。飲食の面白さを知り、ラーメン作りはもちろん、人生観も含めて全てを教わった場所です。一店舗しか無かった頃から店舗が増え海外にも進出して、上場を果たすところまで働くことが出来たことで、何となく僕の役目は終わったのかなと。次の人生に進んでみようかなと思えたんです」(『麺屋 波のおと』店主 難波英雄さん)

 生まれも育ちも福岡の難波さんは、前職では全国各地を飛び回っていた。第二の人生で営む自分の店は、やはり故郷の福岡でと決めていた。そして慣れ親しんだ豚骨ラーメンではなく、塩ラーメンで勝負しようと決めた。

 「福岡には美味しい豚骨ラーメンがたくさんあるじゃないですか。しかし、自分が美味しいと思える塩ラーメンは思い浮かばなかったんです。ならば、福岡で一番の塩ラーメンを僕が作ろう。美味しい塩ラーメンで福岡の人に愛される店を作ろうと決めたんです」(難波さん)

シンプルに美味しいと感じさせる一杯を

看板メニューの「塩らーめん」と、人気の「醤油ワンタン」。
看板メニューの「塩らーめん」と、人気の「醤油ワンタン」。

 看板メニューの「塩らーめん」は、黄金色に輝くスープと八角形の丼が印象的な一杯。鶏ガラと豚骨を濁らせないように丁寧に取ったスープと、鯖節や鰹節に煮干しなどの魚介系素材の出汁を別々に取ってブレンド。4種類の塩を使った塩ダレが、塩の持つ旨味や甘味、そして苦味と塩味を立体的にスープの中へ現出させる。麺は歯応えと喉越しを併せ持つオリジナル麺を製麺所と共同開発した。細部にわたるまでベテランの技が駆使された塩ラーメンだ。

 素材も徹底的に吟味して手間暇もかけている最先端のラーメンでありながら、難波さんが作るラーメンには、昨今の流行に迎合するような軽薄さがない。むしろ老舗のようなどっしりと肝が据わった風格や気品が感じられる。だから、いつ食べても美味しい。いつまでも古くなることなく美味しい。

 「ウンチクも能書きも言わず、シンプルに美味しいと思ってもらえるようなラーメン。毎日でも食べられる美味しさを目指しているんです。地元の人に愛されている、安くて美味い店というのが僕のラーメン店の原点であり理想形。そういう店の方が福岡のラーメン店らしい気がするんです」(難波さん)

※写真は筆者によるものです。

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