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ロックの“オルタナティヴ=別選択肢”が連続して来日。ミスター・バングル、メルヴィンズ、QOTSA

山崎智之音楽ライター
Buzz Osborne of Melvins(写真:REX/アフロ)

ロックには“主流”であるメインストリームと“別選択肢”であるオルタナティヴがある。両者はその定義を変化させ、入れ替わったりもしながら、現代に至るまで2本の柱として共存してきた。

元来、1950年代に生まれたロックそのものがオルタナティヴな音楽だったのが、メインストリーム化していき、それに取って代わるようにアンダーグラウンドからサイケ、プログレッシヴ、パンクなどの“別選択肢”のサブジャンルが生まれた。そして歴史は繰り返す。1990年代にはオルタナティヴがひとつのトレンドとなり、さまざまなアーティストがメインストリームへと進出していった。

それから30年、ブームは過ぎ去り、彼らの多くは保守化するか、消え去っていった。だが当時頭角を現したアーティストで今もなお“オルタナティヴ=別選択肢”であり続け、世界中のファンから支持されるアーティストが存在する。そして奇しくも2024年2月から3月にかけて、そんな3アーティストがそれぞれジャパン・ツアーを行うことになった。

クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ、ミスター・バングル、メルヴィンズはいずれも長いキャリアを持ちながら、決して迎合しない孤高の音楽性で人気を誇るバンドだ。彼らのステージは、妥協することのない勇気を日本の音楽リスナーに与えてくれるだろう。

●クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ

Queens Of The Stone Age(photograph by 古渓一道 Kazumichi Kokei)
Queens Of The Stone Age(photograph by 古渓一道 Kazumichi Kokei)

2024年2月に来日公演を行ったクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ(QOTSA)は現代のロック界において最も重要なバンドのひとつと呼ばれるバンドだ。

シンガー兼ギタリストのジョシュ・ホーミは1991年にヘヴィ・ロック・バンド、カイアスでデビュー。カリフォルニア砂漠という大規模のシーンがない地域から世界に打って出たこのバンドは夢半ばにして解散するが、ジョシュはQOTSAを結成。ハードなサウンドの中にも斬新さと伝統が交錯する奇想天外なソングライティングでロックの可能性を切り開き、妥協の欠片もなくトップ・バンドへと上り詰めた。デイヴ・グロール(フー・ファイターズ)やアークティック・モンキーズ、エルトン・ジョン、P.J.ハーヴェイ、ロブ・ハルフォード(ジューダス・プリースト)、マーク・ロンソンなど多様なアーティストもその音楽に共鳴するなど、幅広いリスナーから人気を博しており、近年の作品はいずれも世界のヒット・チャート上位にランク・インしている。

最新アルバム『In Times New Roman...』(2023)に伴うジャパン・ツアーは既に終了しているが2月7日、TOKYO DOME CITY HALLでの公演はファースト・アルバムの1曲目「Regular John」からスタート。そのアイデンティティが結成当初から現在に至るまで貫かれていることを証明した。起伏に富んだ「My God Is The Sun」などはもちろん、一聴するとベーシックなロックのようである「Emotion Sickness」「The Way You Used To Do」「Little Sister」、そしてジョシュの「君たちと言葉は通じないかも知れないけど、だからこそ通じ合うことが出来るんだ」というヒネったMCも含め、一筋縄ではいかない構成。歌って踊って盛り上がれるのはもちろん、掘り下げがいのある深い奥行きのロックで魅せてくれた。

Queens Of The Stone Age『In Times New Roman...』ジャケット(BEATINK / 現在発売中)
Queens Of The Stone Age『In Times New Roman...』ジャケット(BEATINK / 現在発売中)

【日本公演情報 =終了済=】
日本公演ウェブサイト
https://www.creativeman.co.jp/event/queens-of-the-stone-age24/
【日本レーベルサイト】
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13404

●ミスター・バングル

Mr. Bungle / courtesy of Big Nothing
Mr. Bungle / courtesy of Big Nothing

ミスター・バングルの歴史は1984年、マイク・パットンが高校の友人たちとバンドを結成したことに始まる。パットンはフェイス・ノー・モアで世界的な成功を収めるが、ミスター・バングルとしても『Mr. Bungle』(1991)でデビュー。メタルもパンクもファンクもジャズも何でもあり、さらに独自の異形のサウンドを込めたアプローチが衝撃を呼んだ。

3枚のアルバムを発表して活動休止に入っていた彼らだが、2020年に復活が実現。パットン、トレヴァー・ダン(ベース/ファントマズ、メルヴィンズ他)、トレイ・スプルーアンス(ギター/シークレット・チーフス3、フェイス・ノー・モア他)という初期の布陣に加え、デイヴ・ロンバード(ドラムス/スレイヤー、ファントマズ他)、スコット・イアン(ギター/アンスラックス、S.O.D.他)というラインアップで活動を開始している。

超弩級ヘヴィな顔ぶれを反映して、アルバムMr. Bungle『The Raging Wrath Of The Easter Bunny Demo』(2020)、ライヴ・アルバム『The Night They Came Home』(2021)はスラッシュ・メタルの要素も取り入れたもの。後者ではスレイヤーの「Hell Awaits」もプレイされており、ミスター・バングルとしては初来日となるライヴが従来の変格サウンドにバイオレンスをぶち込んだものになることが予想される。

Mr. Bungle『The Raging Wrath Of The Easter Bunny Demo』ジャケット(BIG NOTHING/現在発売中)
Mr. Bungle『The Raging Wrath Of The Easter Bunny Demo』ジャケット(BIG NOTHING/現在発売中)

【日本公演情報】
THE RAGING WRATH OF JAPAN 2024
【東 京】 2/28(水) 豊洲PIT
【大 阪】 2/29(木) なんばHatch
日本公演ウェブサイト
https://udo.jp/concert/MrBungle24
【日本レーベルサイト】
http://bignothing.blog88.fc2.com/blog-entry-14856.html

●メルヴィンズ

Melvins / courtesy of Big Nothing
Melvins / courtesy of Big Nothing

1983年結成という大ベテランでありながら研ぎ澄まされたエッジと腰骨を打ち砕くヘヴィネス、悪意と幼児性を孕んだユーモアなどを兼ね備えたメルヴィンズ。ロックの“別選択肢”の道を突き進んできた彼らは多くの信奉者を生んできた。ニルヴァーナの故カート・コベインもそんな1人だった。

彼らの日本公演は常に波乱とドラマを呼んできた。1999年の初来日は今や日本コンサート史の伝説となっているし、2009年にはフジ・ロック・フェスティバルで野外フェスに進出。2011年にはツアー中に東日本大震災に被災して東京公演が中止になったものの、2015年・2019年にも日本を訪れている。

2024年3月の来日はアルバム『Tarantula Heart』のリリースを目前にしたもの。19分に及ぶ大曲「Pain Equals Funny」などの新曲が披露されるかは定かではないが、一刻の油断も許さないその世界観がステージで繰り広げられることは確実だ。

初来日でオープニング・アクトを務め、2023年には北米ダブル・ヘッドライナー・ツアーを行ったBorisがスペシャル・ゲストとして出演するのも、今回のライヴをスペシャルなものにするだろう。

Melvins『Tarantula Heart』ジャケット(BIG NOTHING/2024年4月15日発売)
Melvins『Tarantula Heart』ジャケット(BIG NOTHING/2024年4月15日発売)

【日本公演情報】
MELVINS JAPAN TOUR 2024
【大 阪】 3/17(日) Music Club JANUS
【東 京】 3/19(火)・20(水・祝) 渋谷 WWW X
日本公演ウェブサイト
https://www.creativeman.co.jp/event/melvins_2024
【日本レーベルサイト】
http://bignothing.blog88.fc2.com/blog-entry-15166.html

それぞれが唯一無二の個性を持つ3バンドのライヴは、我々日本の音楽ファンに“別選択肢”の人生を歩ませるきっかけになるかも知れない。今、オルタナティヴの扉が開かれる。

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音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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