メルヴィンズ/バズ・オズボーンが語る新作『ワーキング・ウィズ・ゴッド』永遠の小学生スピリット
メルヴィンズは1983年、ワシントン州モンテサノでの結成から40年近く活動してきたベテランのロック・バンドだ。メタルのヘヴィネスとハードコアのエッジ、悪質なユーモアを兼ね備えた彼らの音楽性はファンから熱狂的に支持されてきたのに加え、ニルヴァーナのカート・コベインなど多くのミュージシャンからもリスペクトされてきた。
バンドの創始者であり、ギターとヴォーカルを担当する“キング・バゾ”ことバズ・オズボーンは2021年に57歳を迎えたところだ。還暦を目前として、そろそろ大人の落ち着きを見せる頃か...と思いきや、最新アルバム『ワーキング・ウィズ・ゴッド』では小学生スピリットが炸裂。ザ・ビーチ・ボーイズの「アイ・ゲット・アラウンド」の替え歌「アイ・ファック・アラウンド」やハリー・ニルソンの「ユーア・ブレイキング・マイ・ハート」のカヴァー「アイ・ファック・ユー」、そして“馬ヅラのマヌケのブライアン”を描いた「ブライアン・ザ・ホース・フェイスド・グーン」など、頭を抱えるギャグが続く。だが、それを一級品のロック・アルバムにしてしまうのが、メルヴィンズが時代を超えて愛され、崇拝される由縁だろう。
“神と働く”ことをタイトルに冠した『ワーキング・ウィズ・ゴッド』について、バズに語ってもらった。
<授業中、話すときピョンピョン跳ねていた理科教師を歌にした>
●それにしても大人げないアルバムですね。
うん、こういうバンドにも居場所はあるし、時間を割いて聴いてくれるリスナーがいる。需要と供給のバランスが成り立っているよ。何年も前からザ・ビーチ・ボーイズとハリー・ニルソンのカヴァーはやりたいと考えていたんだ。それから新しい曲も書いて、アルバムの体裁にした。メルヴィンズの作品は、だいたいそんな感じなんだ。「さあ、ガキみたいなアルバムを作るぞ!」と考えたわけではないよ。
●デイル・クローヴァー(ドラムス、ヴォーカル)がベースにコンバートして、初期メンバーのマイク・ディラード(ドラムス)が限定復帰した“メルヴィンズ1983”としては2作目のアルバムとなりますが、前作とはどのような共通点/相違点があるでしょうか?
前作『トレス・カブロネス』(2013)より今回の方がストレートな仕上がりになったと思う。1983年に一緒にやっていたマイクがいることで、バンド初期のガキっぽさが蘇るんだ。アルバムの曲は彼が叩くことを前提に書かれたものだからね。すべてがストレートでシンプルな、世界に「ファック・ユー!」と中指を突き立てていた時代のノリが『ワーキング・ウィズ・ゴッド』にあるんだ。
●海外メディアのインタビューで『ワーキング・ウィズ・ゴッド』を“8年生(中2)のユーモア”を込めた作品と表現していましたが...。
うん、俺たちはガキであることを恐れていないんだ。ただ俺たちはいつも「イエーイ、ファック・ユー」と言って喜んでいるバンドではないし、年相応の音楽(笑)をやることだってある。次のアルバムはかなり異なったサウンドになるよ。まだ言えないけど、みんなが驚くアルバムになるだろう。
●8年生の頃、どんな少年でしたか?
勉強は嫌いじゃなかった。むしろ好きだったんだ。読書も好きだった。でも学校には溶け込めなかった。注意力がないって、よく教師に叱られたよ。8年生のときに酒を飲んだり大麻をやるようになった。当時はそれがクールだと思っていたんだ。脳がブッ飛ぶような経験をしたかった。決して誇りに思うことではないけど、器物損壊もしていた。偉そうにしている大人を罰したかった。大手企業とかね。
●どんな本を読んでいましたか?
字を読めるようになってから、あらゆる本を読んできたよ。8年生の頃はロバート・A・ハインラインの『ルナ・ゲートの彼方』(1955)が大好きだった。高校生が未知の惑星に飛ばされて、サバイバルをする話だよ。大人になって読んでもクールな物語だ。ジャック・ロンドンの小説も好きだった。もっと小さい頃から『野生の呼び声』(1903)とかを読んでいたけど、人間しか出てこない作品も読むようになったよ。
●日本にも“中2病”という言葉があって、思春期の若者が自意識をこじらせて「他人と違う俺カッコイイ!」と突飛な発言や行動を行うことを指していますが、8年生の頃のあなたもそんな感じだったでしょうか?
まあ思春期の男のガキなんて国籍を問わずそんな感じだろ? 自分は他の連中とは違うと思っていた。パンク・ロックを聴くようになったのもそうだし、バンドを始めたのもそれが理由だったのかも知れない。ただ俺は「異世界に転生してヒーローになる!」とか「いつか異星人が迎えに来てくれて、宇宙を大冒険する!」とかリアリティのない変な妄想はしなかったな。もうちょっと地に足を着けていたよ。
●『ワーキング・ウィズ・ゴッド』は“メルヴィンズ1983”によるアルバムですが、現在のメルヴィンズは1983年と同じような立ち位置にあるでしょうか?
いや、まったく違う。1983年当時、自分たちの音楽を誰かに聴いてもらえるなんて考えもしなかった。近所の仲間たちがライヴを見に来てくれたりはしたけど、音楽で生計を立てるなんて夢物語だった。今だって同じように考えているけどね。音楽をプレイして食っていけるのは奇跡だよ。
●『ワーキング・ウィズ・ゴッド』はあなたの8年生の頃をテーマにしたコンセプト・アルバムだと言えるでしょうか?
うーん、それは全然違うな。コンセプト・アルバムではないよ。『ワーキング・ウィズ・ゴッド』というタイトルは、とにかく“神様”をタイトルに使いたかったんだ。“Killing With God”、“Walking With God”とかね。“Working With God”というフレーズを思いついて、最高だと思った。“神との共同作業”なんて。クールだろ?
●しかし『ワーキング・ウィズ・ゴッド』というタイトルとアルバムの中身との関連性が今ひとつ判らないのですが...。
人生には幾つも謎や神秘がある。『ワーキング・ウィズ・ゴッド』というタイトルも、そのひとつだ。アルバム・タイトルの意味を思索するのは、とても有意義なことだと思う。でもその答えを俺から得ることは出来ない、それだけだ。
●アルバム収録曲の「バウンシング・リック」のリックはあなたとマイクの中学時代の理科教師だそうですが、彼とどんな思い出がありますか?
授業中、話すときピョンピョン跳ねていたのを覚えている。だから“バウンシング・リック”とあだ名を付けたんだ。そう呼んでいたのは俺とマイクだけだったから、同窓会で言ってもみんな「何それ?」って感じだと思う。それ以外は大した思い出もないんだけど、響きが良くて、曲にすることにしたんだ。
●「ブライアン・ザ・ホース・フェイスド・グーン」の“馬ヅラのマヌケのブライアン”は実在するのでしょうか?
それは秘密だ。話すことは出来ない。この歌は昔のミュージカル女優のエセル・マーマンっぽく歌おうとしたんだ。うまく行ったかは、どうとも言えないけどね。
●メルヴィンズと関係のあるブライアンで私が知っているのはコミック・アーティストのブライアン・ウォルズビーぐらいですが...。
ハハハ、この曲はブライアン・ウォルズビーについてではないよ。もし彼について歌を書くとしたら、“ブライアン”という名前ではなく、別の名前を使うだろうね。
●「ボーイ・マイク」もそうですが、このアルバムはタイトルに人名を使った曲が多いですね。
「ボーイ・マイク」はヘヴィで変な曲で、気に入っているんだ。このマイクは特定の誰かを指したものではない。若い小僧が主人公だけど、マイクというのはどちらかといえばマイクロフォンについて歌っている。
●「グッド・ナイト・スイートハート」の逆回転メッセージは何を言っていますか?
いやー、覚えていないんだ。かなり前に逆回転トラックを作って、そのままにしていたのを使ったんだよ。悪魔を讃える呪文とかではない筈だ。逆回転してみれば、何を言っているか判るよ。
<ジェロ・ビアフラも頭の中は中2。いや、もっと低学年かも>
●元々メルヴィンズ1983が始動したのは2008年6月、元デッド・ケネディーズのジェロ・ビアフラの50歳記念ライヴに出演したときだったそうですが、あなた達が“ジェロ・ビアフラ・ウィズ・ザ・メルヴィンズ”名義で発表した『Never Breathe What You Can't See』(2004)、『Sieg Howdy』(2005)にもかなり子供じみた表現がありました。「Those Dumb Punk Kids (Will Buy Anything)」では「エマニエル坊やがジャームスに加入!コートニー・ラヴがニルヴァーナに加入!」とか、「The Lighter Side Of Global Terrorism」で空港の係員がボディチェックで性的に興奮するとか...。
ハハハ、ジェロも頭の中は8年生なんだよ。いや、もっと低学年かも知れない。彼の笑いのツボは俺たちと似ているし、面白い人だよ。俺たちのファミリーの一員だ。
●ジェロとまた一緒にやる可能性はありませんか?
あの2枚のアルバムを作ったとき、ジェロは自分のバンドがなくて、それでメルヴィンズがバックアップすることにしたんだ。今では彼のバンドがあるし、どうだろうね。それに何よりも、今はCOVID-19のせいでツアーを出来ない。予定は何もないよ。でもジェロとは友達だし、いつかまたアルバムを作ったり、ライヴをやりたいな。
●“子供っぽい”といえば、『ホールド・イット・イン』(2014)に「セサミストリート・ミート」という曲が収録されていましたが、『セサミストリート』とどのような関係があるのでしょうか?
あのタイトルを考えたのは、あの曲でベースを弾いたジェフ・ピンカスなんだ。だから彼に訊いてみるのがベストだと思う。
●あなたは去年ソロ作『Gift Of Sacrifice』(トレヴァー・ダン参加)を発表、デイルも今年『Rat-A-Tat-Tat!』を出すなど、メンバーそれぞれの活動を行っていますが、メルヴィンズとしては現在どのような活動をしていますか?
『メルヴィンズTV』という配信シリーズをやっているんだ(https://melvins.veeps.com)。ライヴやトークなどを収録しているけど、その中で演奏された曲を集めたサウンドトラック・アルバムも出す予定だよ。それから『Slithering Slaughter』という10インチ・シングルもリリースする。アリス・クーパーのカヴァー「ヘイロー・オブ・フライズ」アコースティック・ヴァージョンとかが入っているよ。
●メルヴィンズは数々の限定アナログ盤やコレクターズ・アイテムを出していますが、すぐ売り切れてしまうのが悔しいです!
通常盤も出すし、音を聴きたい人はそちらを手に入れて欲しい。俺自身はアナログ盤よりもCDの方が好きなんだ。メルヴィンズのファンの需要に応えて、アナログ盤も出しているけどね。CDの方が長く音楽を聴けるし、持ち運びやすい。すごい高級オーディオ・システムで聴けばアナログ盤の方が音が良いかも知れないけど、自分の家で聴くにはCDの音質で十分だよ。
●新型コロナウィルスのせいで自宅待機をしなければならなくなって、それで創作作業がはかどるミュージシャンも少なくないようですが、あなたもそうでしょうか?
俺の場合はライヴを出来なくてイライラするし、むしろ創造性を殺がれるよ。ツアーに出て、人々の前でプレイすることで刺激を得るし、よりクリエイティヴになれるんだ。今の状態は良くないよ。
●先日アイヘイトゴッドのマイク・ウィリアムズにインタビューしたとき、メルヴィンズのファースト・アルバム『Gluey Porch Treatments』(1987)から多大な影響を受けたと話していました。あのアルバムは“速くてエクストリーム”でなく“遅くてエクストリーム”なアルバムという点でブラック・フラッグの『マイ・ウォー』(1984)のアナログB面と並ぶ影響力がありますが、当時その重要性について意識していましたか?
『Gluey Porch Treatments』が革命的なアルバムだと言ってもらえて、多くのバンドに影響を与えることが出来たことは光栄に思っているよ。でも1986年の発表当時は、誰もあのアルバムに気にも留めなかったんだ。屁も引っかけてもらえなかった。少しガッカリしたけど、驚きはしなかったよ。まあ仕方ないか、と思った。今になって評価されて、自分が間違っていなかったことが証明されて嬉しいね。
なお、メルヴィンズと同じ“イピキャック・レコーズ”から新作『トニック・イモビリティ』を発表したトマホークへのインタビュー記事も同時公開しているので、そちらもチェックいただきたい。
【最新アルバム】
メルヴィンズ
『ワーキング・ウィズ・ゴッド』
BIG NOTHING IPC234CDJ[CD/国内流通仕様]
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