クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ/力強さと達観を兼ね備えた新作を発表【後編】
ニュー・アルバム『In Times New Roman...』を発表したクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュ・ホーミへのインタビュー、全2回の後編をお届けする。
前編記事に続いて、ジョシュに新作についてさらに掘り下げて語ってもらおう。
ロックの根源的なリフが背骨を貫きながら、油断のならないツイストを入れる音楽性。歌詞もまた一筋縄ではいかない言葉のマジックを駆使するものだが、その一方でこのインタビューで心に残ったのが、ジョシュが何度も口にした「that's okay」というシンプルな一言だった。さまざまな問題に直面しながら、自分の置かれた状況を享受し、あるがままの姿で前進していく「それでいいんだ、大丈夫」という力強さと達観を兼ね備えたメッセージは、アルバムに通じる二面性を持っている。
<音楽や歌詞、あらゆるものをさらに一歩突き進めようと考えた>
●『In Times New Roman...』の歌詞では過去作品と較べても多くの造語やダブル・ミーニングが散りばめられています。ざっと挙げるだけでobscenery (= obscene + scenery)、paper machete (= papier mache + machete)、atmosfear (= atmosphere + fear)、carnivoyeur (= carnivore + voyeur)、straight jacket (= straight + straitjacket)、carpe demon (= carpe diem + demon)、I don't care what the peephole say (= I don't care what the people say + peephole)などの造語・表現がありますが、どんなこだわりがありますか?
このアルバムでは音楽や歌詞、あらゆるものをさらに一歩突き進めようと考えたんだ。ウィリアム・シェイクスピアがelbowやimpossibleなどといった語句や接頭辞を発明したといわれるのと同じように、俺も必要に応じて単語を作ってもいいじゃないかと考えた。日常会話だけを使うよりも色彩豊かになると考えたんだ。物事にはひとつ以上の意味があることがある。『In Times New Roman...』にローマ帝国と文字フォント“タイムズ・ニュー・ローマン”のふたつの意味があるようにね。
(注;シェイクスピアは名詞である“肘 elbow”を“肘でのける”と動詞として使ったり、unspeakのように接頭辞を付けたりしたが、厳密にいえば“発明”したわけではない)
●クイーンズは英語圏だけでなく、日本やさまざまな非英語圏のファンに聴かれていますが、彼らが歌詞カードを読んでダブル・ミーニングやトリプル・ミーニングを理解することを期待しますか?
うん、日本のファンがそうしてくれたら嬉しいね。英語ではよその言語から言葉を引っ張ってくることがよくある。Los Angelesやentrepreneurもそうだ。俺はずっとそんな現象に興味を持ってきて、自分なりに応用してきた。それに『ララバイズ・トゥ・パラライズ』ではグリム童話からモチーフを得たり、ゼム・クルキッド・ヴァルチャーズではメンバー達を動物になぞらえたりした。象、ヒル、ライオン、ハゲワシとかね。歌詞の言葉遊びに過ぎなくとも、それを判ってくれると、俺の視点に近い地点に立って、俺が伝えたいメッセージの根幹に近づくことが出来ると思う。
●前作『Villains』の「The Way You Used To Do」の歌詞には“彼女と出会ったとき、17歳だった”という一節があり、今回「What The Peephole Say」にも“ティーン・エンジェルズが学校に連れていく”というフレーズがありますが、あなたの中に十代のロックンロール・ノスタルジアがあるのでしょうか?
「What The Peephole Say」には幾つものメッセージが込められているんだ。自分が孤立しているとき、周囲の人々がどのように過ごしているか気になる一方で「自分のことを周囲がどう思っているか気にしたくない」という気持ちもある。さらに「世間の風評というものは残酷で無責任なものだし耳を貸す必要がない」と思ったりもするんだ。それと同時に、この曲を書いたとき、自分が若い頃に見たマット・ディロンの映画を連想した。『レベルポイント』(1979)という映画で、アメリカの郊外生活に反逆するティーンエイジャー達がハイスクールを乗っ取ってパトカーに火を放つ話だった。規則や教師、政府などに反逆する「ファック・ユー!」ってメンタリティに共感をおぼえたね。そこから「どれになりたい?狼?羊?それとも羊飼い?」というテーマが頭に浮かんだんだ。その中で俺は狼になりたいと思った。レッツ・ゴー!ってね。アメリカン・ドリームに対する蜂起といえるかも知れない。
●あなたはマット・ディロンやC.トーマス・ハウエル、ラルフ・マッチオの映画を見て育ったのですか?
うん、『アウトサイダー』『ランブルフィッシュ』(共に1983)は大好きだったし、S.E.ヒントンが書いた原作小説は俺のバイブルだった。
●『...Like Clockwork』(2013)には多数のゲストが参加しましたが、続く『Villains』ではよりバンド・アルバムを志向して、今回もアークティック・モンキーズのマット・ヘルダーズが「Emotion Sickness」に参加している以外はバンド・メンバーによるアルバムとなっています。そんな作風は意識したものですか?
このアルバムのヴォーカルを入れるとき、俺は精神的にも肉体的にもすごく弱った状態だったんだ。でも、その弱さを自分で背負う必要があると感じた。それで基本的に1人で、暗闇の中で歌うことにしたんだ。『...Like Clockwork』は6ヶ月ぐらい、長い時間をかけて作ったアルバムだったから、スタジオに友達が遊びに来たりした。せっかく来てくれたんだから、ゲスト参加してもらったんだよ。今回はそういう心境ではなかったんだ。自分の苦痛や恐怖について歌うのに、いろんな人たちに囲まれていたくはなかった。エルトン・ジョンにゲスト参加してもらう気分ではなかったよ(苦笑)。
●ZZトップのビリー・ギボンズが「クイーンズの新作に参加している」と語ったと報じられましたが、彼とのレコーディングは行われたのですか?
ビリーにはデザート・セッションズの『Vol.11 & 12』(2019)に参加してもらったんだ。それと混同していたんじゃないかな?彼が『In Times New Roman...』にゲスト参加する話は、最初からなかったよ。
●『Villains』でプロデューサーを務めたマーク・ロンソンとの作業はどんなものでしたか?
マークは素晴らしいプロデューサーだし、最高の人間だ。彼は8人きょうだいの1人だったせいもあってか、コミュニケーション能力がすごく高いんだ。結局のところ、プロデューサーの能力というのはアーティストとどうコミュニケーションを取るかだからね。触媒となって、誤解などが起こらないようにする能力に長けていたよ。
<ファンを愛している。だからトリックに引っかけるんだ>
●「Paper Machete」や「Time & Place」の執拗に繰り返される反復リフはあなたがクイーンズの初期、“ロボット・ロック”と呼んでいた音楽性を彷彿とさせるものですが、当時その呼称を使ったのは“ストーナー・ロック”と呼ばれるのを避けたかったからですか?
まったくその通りだよ(笑)。嫌だったんだ。どこかの世界に属するのでなく、自分自身の世界を作りたかった。俺たちの音楽を形容する言葉は出来合いのものでなく、自分でジャンル名を作ってしまおうってね。反復するリフがロボットっぽいから半ばジョークで“ロボット・ロック”と呼んだだけだよ。
●あなたはデビューしてから長年、しばしばアルバムの最後にシークレット・トラックを忍び込ませてきました。カイアスのアルバムでは全4作中3作にシークレット・トラックが入っているし、クイーンズを結成してからも『Songs For The Deaf』(2002)で「Feel Good Hit Of The Summer」の“ハハハハハ”と爆笑するヴァージョンをシークレット収録していますが、どんなメッセージを伝えようとしていますか?
俺はファンのみんなを愛している。だから彼らを驚かせたいんだ。彼らの足下からカーペットを引っこ抜きたいんだよ。『Villains』も静かなイントロからガツンとラウドになるだろ?リスナーの襟元を掴んで、押したり引っ張ったりするんだ。サプライズや恐怖を与えて、それから安堵と愛を与えたい。俺は音楽のダイナミクスとトリック、そして秘密を信じる。それらの要素が音楽をより楽しくゴージャス、時代を超えたものにするんだ。シークレット・トラックを入れるのは、自分が愛する人々をトリックに引っかけているんだよ。
●LPだと収録時間の関係で長い無音を入れることが出来ないし、ストリーミングだと曲の長さが画面に表示されてしまうので、シークレット・トラックをやりづらい時代ではありますね。
うん、でもやりようがあるものだよ。まだトリックはあるさ(笑)。『In Times New Roman...』のアナログ盤を聴いてもらえば判るよ。ラスト「Straight Jacket Fitting」の最後は1曲目「Obscenery」の最初に繋がっているんだ。アルバムの最後をアコースティックで締め括るのは、全体的にヘヴィで決してメロディックでないから、最後にジンジャー・パウダーを振りかけるようなものだ。
●ブックレットにはアルバムをホーム・スタジオ“ピンク・ダック・スタジオ”でレコーディングしたとクレジットされていますが、その後に“R.I.P.”と付けられています。スタジオを閉鎖したのですか?
ここ数年、さまざまな心の痛みを経てきたけど、ホーム・スタジオを失ったのもそのひとつだった。財産分与のために売却することにしたんだ。でも大丈夫。自分がそうあって欲しいと望むものより、あるがままの姿を受け入れることを重視している。もうスタジオがないという現実を受け入れているよ。自分のものであるべきでない物事に固執するべきではない。ひとつの時間に凝り固まるより、今を大事にしたいからね。
●アルバム3作連続でボーンフェイスがアートワークを手がけてきて、今回はプロモーション・アートワークで花輪のデザインが用いられていますが、それにはどんな意味があるのですか?
ああ、そのデザインはボーンフェイスと俺で考えたんだ。アルバムごとに「今回はどんな“Q”の文字にしようか?」って話し合っている。今回はそれが花輪だったんだ。すごい深い意味があるわけではない。丸があって、それに線を付け加えれば何だって“Q”になるんだよ。
●クイーンズとして北米ツアーを始めたばかりで訊くのも野暮ですが、バンド外の活動の予定はありますか?デザート・セッションズやゼム・クルキッド・ヴァルチャーズ、イーグルス・オブ・デス・メタル、イギー・ポップとのコラボレーションのような?
もちろんだよ。6年間ぐらいその手のプロジェクトから離れていたし、どういう形になるかまだ判らないけど、これからいろんなことをやっていくつもりだ。
●カイアス時代のプロデューサーだったクリス・ゴスの率いるマスターズ・オブ・リアリティとは交流があり、ライヴ・アルバム『Flak 'n' Flight』(2003)に全面参加するなどしていましたが、彼とまた何かをやる可能性はありますか?
クリスとは5、6年連絡を取っていないんだ。でもそれはパンデミックやら何やらで会えなかったからで、関係に問題はないよ。彼のことはいつも気にかけているし、また一緒に何かやりたいね。
●2017年にFUJI ROCK FESTIVAL、2018年にSUMMER SONICと2年連続で来日して、「これから毎年クイーンズを見られる!」と楽しみにしていたら、それから来なくなってしまって悲しいです。ぜひまた日本のステージでライヴを見られるのを楽しみにしています!
うん、まあ、ここ6年ぐらい、世界のどこでもツアーをしていなかったからね。これから取り戻していくところだよ。うちの11歳の息子は日本が大好きで、週4回日本語のレッスンを受けたり、マンガにも熱中しているんだ。『進撃の巨人』フリークで、うまいラーメンも作ってくれる。俺も読んだし、日本の文化には深い興味がある。近いうちに日本にツアーで行くよ。息子も連れてね(笑)。
【2017年のインタビュー】
【インタビュー前編】ジョシュ・ホーミが語るクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ新作『ヴィランズ』
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamazakitomoyuki/20170826-00074943
【インタビュー後編】ジョシュ・ホーミがもっと語るクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ『ヴィランズ』
https://news.yahoo.co.jp/byline/yamazakitomoyuki/20170829-00075057