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ダレン・ウォートン(シン・リジィ〜デアー)が切り開いていくメロディック・ハード・ロックの旅路【後編】

山崎智之音楽ライター
Thin Lizzy 1983 /courtesy Darren Wharton

シン・リジィとデアーのキーボード奏者として活躍してきたダレン・ウォートンへのインタビュー後編をお届けする。

前編記事ではシン・リジィに捧げるトリビュート・プロジェクト、ダレン・ウォートンズ・レネゲイドと1980年代の思い出を語ってもらったが、今回はシン・リジィ解散後の事情とデアーでの活動について訊いた。

Darren Wharton's Renegadeポスター/ courtesy of Darren Wharton
Darren Wharton's Renegadeポスター/ courtesy of Darren Wharton

<ジャンルを超えた存在になりたい>

●フィルは1986年1月4日に亡くなりましたが、その直前までソロ・アルバムに着手していたといいます。あなたはそちらには関わっていましたか?

いや、声がかかることはなかった。フィルも俺も、新しい人間たちと新しい音楽をやろうとしていたんだと思う。彼が亡くなった年、ダブリンのチャリティ・イベント“セルフ・エイド”でブライアン、スコット、ゲイリーと一緒にシン・リジィの曲をプレイしたんだ(5月17日)。3曲だけだったけど、フィルへの心を込めたトリビュートになったし、やって良かった。“セルフ・エイド”にはアイルランドを代表するさまざまなミュージシャンが出演したんだ。U2のボノ、ボブ・ゲルドフ、ヴァン・モリスン、ポール・ブレイディ、クリス・デ・バー、ザ・ポーグス...あんな空前のイベントが映像ソフト化されておらず、今では滅多に話題に上らないのは残念だね。

●1994年にはジョン・サイクスを含むシン・リジィのメンバー達が集結、日本でツアーを行いましたが、どんないきさつがあったのですか?

元々はジョンが提案してきた話だった。フィルの音楽へのセレブレーションとして数回ライヴをやろうってね。日本で単発のツアーを行うだけの筈だったのが、世界中のプロモーターから電話が殺到したらしい。それでなし崩しに“シン・リジィ再結成”みたくなったけど、俺はフィルがいないのにシン・リジィを名乗るのには違和感をおぼえていた。それに俺はクラシックスの多くに関わっていない。ただのカヴァー・バンドには興味がなかったんだ。ちょうどデアーを活動再開させることにしたし、そのために自主レーベル“レジェンズ・レコーズ”を設立して『Belief』(2001)に全力投入したかったんで、抜けることにした。このタイトルを“belief=信念”としたのは、自分がデアーの音楽に対して信念を持っているというステートメントだったんだ。新曲は“BBC”ラジオでエアプレイされて、それからずっと順調なキャリアを築いてきたから、正しい決断だったと信じているよ。

●2005年8月、ダブリンで行われたフィルの銅像建立記念コンサートにはデアーとして出演しましたが、ライヴが素晴らしかった一方で、あなたがシン・リジィの仲間たちと共演しなかったのが残念でもありました。

うーん、それはゲイリーの意向だったんだよね。どの曲をプレイするか、誰を呼ぶかは彼が決めたんだ。彼らとプレイ出来たら最高だったけど、デアーとして参加出来たし、満足しているよ。

●スコット・ゴーハムと一緒にブラック・スター・ライダーズを結成したのはどんな経緯だったのですか?

うん、それには複雑な事情があってね...スコットはリッキー・ウォリック達とシン・リジィとしてツアーすることになって(2010年)、それから新作アルバムを作ることにしたんだ。新曲を書きながら、それを“シン・リジィのアルバム”として発表するのが正しいことなのか、何度も話し合った。結局ブラック・スター・ライダーズという“スピンオフ・バンド”として発表することになって、俺も数曲のソングライティングに関わっている。ただ俺は自分の音楽をやりたかったんでデアーに戻って、『Sacred Ground』(2016)の曲を書き始めたんだ。

●デアーの『Calm Before The Storm II』(2012)にあなたの息子パリス・ウォートンがゲスト参加、リード・ギターを弾いていますが、彼の名前はフィリップ・パリス・ライノットのミドルネームから取ったのですか?

その通りだよ。フィルのParrisではなく、Parisという綴りだけどね。彼の本業は映像作家なんだ。短編映画やTV映画の監督で成功を収めていて、ギターの腕前もなかなかのものだよ。

●デアーはFMやテンなどと共にブリティッシュAORハード・ロックを代表するバンドのひとつと言われますが、自分たちがひとつのシーンを形成している意識はありますか?

特定の狭いジャンルに属している意識はないんだ。それよりもジェネシスやダイアー・ストレイツ、TOTOのように、ジャンルを超えた存在になりたい。デアーに“AORメロディック・ロック・バンド”的な要素があるのは判るけど、それは自分の信じる音楽をやった結果だよ。そう呼ばれる他のバンドとは異なった、独自の音楽性を追求している。

Dare band photo / courtesy of Darren Wharton
Dare band photo / courtesy of Darren Wharton

<日本にツアーで来るとしたら、デアーとレネゲイドのどちらが良い?>

●ダイアー・ストレイツを引き合いに出しましたが、マーク・ノップラーと会ったことはありますか?彼はフィル・ライノットのソロ曲「キングズ・コール」に参加するなど、シン・リジィとは縁浅からぬミュージシャンですね。

マークとは友達というほど親しいわけではないけど、何度も会って話したことがあるよ。愛すべき人で、個性豊かな素晴らしい才能を持ったミュージシャンだ。一緒にプレイしたことはないけど、何年か前に同じTV番組に出演したことがある。彼は天才だと思うし、大ファンだよ。

●2024年はデアーの北欧でのアコースティック・ツアーやレネゲイドとしてのライヴもあって、多忙な1年になりそうですね。

うん、でもあまりスケジュールを詰め込み過ぎないようにしているんだ。世界制覇を狙っているわけでもないし、楽しみながら音楽をやるつもりだよ。世界のいろんな国に行って、ファンのためにショーを出来れば最高だ。

●『Road To Eden』(2022)以来となるデアーの新作アルバムに向けた曲作りはしていますか?

うん、もう7、8曲書いているよ。あと数曲書いて、レコーディングするつもりだ。作曲や作詞、プロデュースまで自分でやっているから、けっこう大変なんだ。それでもアルバムの品質は最高でなければならないから、労は厭わないよ。いつでも新曲を書いているんだ。このインタビューの30分前にも1曲書いたばかりだよ。ただおそらく『ブラッド・フロム・ストーン』のリメイク・アルバムを先に出して、新作はその少し先になるだろう。リメイクはかなり大胆にアレンジしている曲もあるし、ファンもきっと驚くと思う。

●「Calm Before The Storm」「Shelter In The Storm」「Born In The Storm」など、デアーの曲タイトルに“嵐”が多いのは何故でしょうか?

俺は古風なロマンティストなんだよ(笑)。嵐や雷鳴、不吉な前兆などが好きなんだ。フィルにもそんなところがあった。ドラマチックな描写を好んでいたね。“刑務所から脱獄する”とか“自分はただのカウボーイ”とか、天才と言うしかないよ。俺は宗教は信じていないけど、スピリチュアルな人間だと思う。そんな要素からインスピレーションを受けて、歌詞を書くようにしているよ。デアーのファンはそんな表現を感じて、受け入れてくれる。彼らのことは愛しているし、感謝している。

●『Road To Eden』のジャケット・アートワークは意図的に『アウト・オブ・ザ・サイレンス』に似せたのですか?

そういうつもりはなかったよ。バンドには5人のイケメンがいるから、ジャケットにしようと考えたんだ(笑)。

●フィル・ライノットから学んだ最も重要なことは何ですか?

フィルは素晴らしい人間で、天才的なミュージシャンだった。彼から学んだことがあるとしたら、常に誠実であることだった。ステージ上で彼は誰かを演じるのでなく、自分自身を曝け出した。そして自分の持っているすべてのエネルギーを惜しみなく与えた。一方でステージを下りると、この上なく魅力的な人間だった。尊大なところがなく、誰に対しても寛大だったよ。

●元シン・リジィという共通点があったゲイリー・ムーアとはどのような交流がありましたか?

ゲイリーとは1986年の“セルフ・エイド”コンサートで共演したし、彼の『ワイルド・フロンティア』英国ツアー(1987年)でデアーがオープニング・アクトを務めたこともあって、良い関係を築くことが出来た。ゲイリーは信じられないほど才能に溢れたギタリストだったよ。彼みたいなギタリストに出会うことが出来るのは一生に一度だ。最近では彼の息子ジャックとSNSで連絡を取り合っているんだ。

●デアーとしての日本公演が実現することを祈っています!

ジャパン・ツアーをやりたいとずっと考えてきたんだ。日本のファンから「日本に来てくれ!」というメッセージをもらう。ただ特に最近ではバンドの渡航費や滞在費が膨大な額に上るし、ヨ−ロッパ大陸に行くのだって大変だ。赤字覚悟で行くわけには行かないんだ。でもこれまで何度も日本に来て、素晴らしい経験をしてきた。デアーを日本で見たいならば、とにかく声を上げて欲しい。みんなが一丸になってレコード会社やプロモーターに働きかければオファーに結びついて、いつか実現するかも知れないよ。...もし俺たちが日本にツアーで来るとしたら、デアーで来るのとレネゲイドのどちらが良いと思う?

●まずはデアーで来て、あなた自身の音楽性をファンに印象づけた上で、それからレネゲイドで来た方が良いと思います。ただ何度も行ったり来たりするのも大変なので、デアーの日本公演のエキストラ・ショーとしてレネゲイドの公演を行うのがベストかも知れません。ファンとしては両方見たいです!

うん、2種類のショーを楽しめるし、スケジュール的にも効率的なんだよね。とにかくオファーさえあれば、すぐにだって日本に行く準備は出来ているよ。

●最後にシン・リジィの名曲オールタイム・ベスト5を挙げて下さい。

不可能なリクエストだな(苦笑)。あえて自分が参加した「エンジェル・オブ・デス」「反逆者」「夕暮れにて」は入れないでおくけど...「エメラルド」「甘い言葉に気をつけろ Don't Believe A Word」「ヤツらは町へ」「虐殺 Massacre」「自殺 Suicide」かな。どの曲もロック史に永遠に残る名曲だよ!

【Darren Wharton's Renegade公式Facebookページ】

https://www.facebook.com/p/Darren-Whartons-Renegade-61550470771130

【Dare公式Facebookページ】

https://www.facebook.com/darebandofficial/?locale=ja_JP

【Dare公式サイト】

https://www.darebandofficial.com/

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音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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