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【来日直前インタビュー第3回】ジンジャー・ワイルドハート、ワイルドハーツ来日を語る

山崎智之音楽ライター
THE WiLDHEARTS/提供VINYL JUNKIE RECORDINGS

2018年7月に来日公演を行うワイルドハーツのジンジャー・ワイルドハートへのインタビュー。第1回第2回に続く最終回では、日本公演の展望からブリットロック、日本映画、今後の活動などについて、じっくり語ってもらった。

<ブリットロックには懐疑的だった>

●ステージMCやSNSで「私生活で問題を抱えている」とオープンに話していますが、どんな問題があるのですか?

あらゆる問題を抱えているよ。家庭内の問題、経済的な問題、ステージ上であったトラブル...金銭面の問題は、常に大きなものだ。新しいマネージャーを雇ったから、ビジネスが過渡期にあって、金が入ってこないんだよな。健康面で頭を悩ませたことはないけど、金銭面の問題は精神的にどん底になる。自分の周りのあらゆる事柄がナイフみたいに自分に突き刺さってくるんだ。こないだ俺のショーで野次を飛ばしてくる奴がいて、あまりにうるさいんで掴みかかったら、そいつがひっくり返って頭を打ったんだよ。UFCのコナー・マグレガーはバスを襲撃して乗っていた人を怪我させておいて、金ですべてを解決している。正義が金で買えるというイギリス社会は本当にフxxクだと思う。

●ワイルドハーツ、リーフ、テラーヴィジョンの3バンドによる“ブリットロック・マスト・ダイ”UKツアーはチケットの売れ行きも順調のようだし、経済的な問題がクリアされることを祈っています。

有り難う。このツアーは面白いアイディアだと思うし、チケットが飛ぶように売れて、ビジネス的にもうまく行っている。俺には思いつき得なかったアイディアだよ。もっとも、“ブリットロック”という呼称には俺は懐疑的なんだけどね。1990年代半ば、レコード会社とジャーナリストがヒネリ出した言葉だよ。「ブリットポップがウケたから次はブリットロックにしようぜ。わはは、そいつはクールだ」みたいなノリでね。だいたい俺はいわゆるブリットロック・バンドで好きなものなんてひとつもなかったよ。リーフやテラーヴィジョンだってまともに聴いたこともなかった。それよりスーパー・ファーリー・アニマルズとかカーヴ、ローフィデリティ・オールスターズの方が好きだったよ。彼らは独自のスタイルを持っていたし、俺には出来ない音楽を生み出していたからね。当時のロック・バンドは似通ったものが多かったし、あまり創造的には思えなかった。

●もしあなたが“ブリットロック・ツアー”のラインアップを選んでいたら?

ワイルドハーツとジ・オールマイティ、それからセラピー?かな。でもその3バンドだとファンが被るから、ワイルドハーツ、リーフ、テラーヴィジョンみたいにチケットの売れ行きが3倍!みたいなことにはならないかも知れない。俺は3流のビジネスマンだということだよ(苦笑)。リーフやテラーヴィジョンとは面識がある程度で、まだ友達というわけではないんだ。一緒にツアーしたら親しくなれるかも知れないし、それは楽しみだね。

●ブリットロックといえば、ワイルドハーツがセカンド・ステージのヘッドライナーを務めた1994年の『モンスターズ・オブ・ロック』フェスティバルのトップバッターとしてヘッドスウィムというバンドが出演していましたが、どこに行ってしまったのでしょうか?

さあ、判らないな。いろんなバンドが跡形もなく、どこかに消えてしまったよ。スポイルやセシルはけっこう良いバンドだったけど、いなくなってしまった。それはマスコミがプッシュしやすいバンドじゃなかったからかも知れないし、単にレコードが売れなかったからかも知れない。その理由を俺たちが知ることは永遠にないんだ。

●スカンク・アナンシーは?

あのバンドの女性シンガー(スキン)が歌うバラードは本当に最高だった。「ヘドニズム」という曲があって、初めて聴いたとき涙が出てきたのを覚えているよ。彼らのバラードだったら1日中でも聴いていられる。ただ、ヘヴィな曲にはソウルが感じられなかった。シャウトなんて誰だって出来るんだからね。一度、何かのパーティーでスキンと会ったことがある。でも世間話をしていたら、スカンク・アナンシーのベーシスト(キャス・ルイス)が駈け寄ってきて、連れていってしまったよ。どうやら俺がジャンキーでアブない奴に見えたらしい。まあ、当時は実際にそうだったんだけどさ(笑)!スカンク・アナンシーのドラマーはマーク・リチャードソンという、すごく良い奴だった。彼は大好きだよ。

●リトル・エンジェルスにいた人ですよね?

うん、実はリッチ・バターズビー(ワイルドハーツの現ドラマー)もマークと同時期、リトル・エンジェルズのオーディションを受けたことがあるんだよ。でもバンドに選ばれたのはマークだった。もしリッチが合格していたら、ワイルドハーツに加入しないところだった。だからマークに感謝しなきゃね。

THE WiLDHEARTS (提供:VINYL JUNKIE RECORDINGS)
THE WiLDHEARTS (提供:VINYL JUNKIE RECORDINGS)

<ワイルドハーツはハードにロックするバンドだ>

●7月のワイルドハーツ日本公演について教えて下さい。

これまでワイルドハーツとして何度も日本でプレイしたけど、俺とCJ(ギター)、ダニー(ベース)、リッチ(ドラムス)という編成で日本に行くのは初めてなんだ。初めて日本でプレイしたとき(1995年)はマーク・ケッズがギタリストだったし、それからジェフ・ストレットフィールドが入ったり、ドラマーがスティディだったりね(注:実際には初来日の直前にジェフが加入)。俺はこれがワイルドハーツのベスト・ラインアップだと考えているよ。このバンドで最高の音を出せるのはこの4人だと断言出来る。リッチは俺の感性にピッタリ合うドラマーなんだ。すごい馬力で、彼とプレイしていると背後から銃をバンバン発砲されている気がする。それが90分間続くんだぜ!ほとんど痛みすら感じるけど、俺はリッチのファンだし、一緒にプレイ出来て嬉しいよ。彼は全盛期のコージー・パウエルと匹敵する凄いドラマーだ。

●あなたはコージー・パウエルのファンだったのですか?

もちろん!「悪魔のダンス」はいつも聴いていたよ。正直レインボーというバンドは好きではなかったけど、コージーのドラム・ソロを見たくてライヴを見に行ったこともある。あと確か、ブラック・サバスにいた頃にも見に行ったかな。コージーは常にパワフルで、熱気に満ちていた。彼が亡くなってしまったのも残念でならないね。

●ワイルドハーツにリッチがいるということは、「29×ザ・ペイン」は最後に彼の歌う「ダック・ソング」を含むロング・ヴァージョンになるでしょうか?

どうだろうな。リッチは歌いたがらないんだ。いつも歌わせようとするんだけど、「嫌だよー」とか言ってね。でも機嫌が良ければ歌ってくれるかも知れないから、ショーを見に来たお客さんは彼に大きな声援を送れば、奇跡が起きるかもね。ワイルドハーツのニュー・アルバムではリッチにも1曲歌わせるよ。本人は「嫌なこった」と言っているけど、良い声をしているし、強制的にでも歌わせるつもりだ。CJやダニーも1曲ずつ歌わせるつもりだ。元々ワイルドハーツは俺がシンガーでなく、スネイクという専任シンガーがいたんだ。彼が辞めたんで俺が仕方なく歌うことになっただけで、俺は未だに“代役シンガー”なんだよ。

●2018年7月の日本公演では新曲もプレイすることになるでしょうか?

やらないと思う。みんなでお馴染みのワイルドハーツの音楽のセレブレーションをするよ。ニュー・アルバムのプロモーションとかそういうのは、後で考えるつもりだ。

●ワイルドハーツは常にあなたのソングライティングとバンドのエキサイティングな演奏を武器にしてきましたが、ドラムスの占める位置はどのようなものでしょうか?

ワイルドハーツは常に見過ごされがちなバンドだった。1990年代のロック市場ではメタル扱いされたし、メタル市場ではロック扱いされた。俺自身は初期ワイルドハーツはアイアン・メイデンよりもニルヴァーナに近いと考えていた。怒りを込めたエネルギーに満ちた音楽で、必殺のドラマーがいるという点でね。ロックを最高たらしめるのは、ドラマーだよ。俺はガキの頃から、いろんなバンドのライヴを見てきた。ヘッドライナーが誰であっても、サポート・バンドがライオットかロッズだったら絶対見に行っていたよ。彼らに共通しているのは、ドラマーが最高だということだった。アイアン・メイデンは好きじゃないけど、ロッズが前座だったから見に行ったこともある。あの時期のロッズは究極で、メイデンが見劣りしたほどだった。史上最強のパワー・トリオだ。ロッズのファースト・アルバムは必殺だよ!最近どこかのフェスで一緒になったときはギターのロック・フェインステインだけがオリジナル・メンバーで、他のメンバーはいなかったけどね。

●去年(2017年)に来日したときはカール・カネディ(ドラムス)とギャリー・ボードナロ(ベース)を含む黄金期のラインアップでしたよ。

それは凄い!ぜひ見に行かなきゃ!ロッズやライオット、レイヴン、アンヴィルなどはメタル・バンドとして扱われて、部分的にはその恩恵に被ったかも知れないけど、俺は彼らがメタルだったとは思わない。最高にヘヴィでパワフルなロックンロールだよ。アンヴィルの『メタル・オン・メタル』はメタリカの音楽性を形作る設計図だった。それに加えて、アンヴィルのセクシャルなイメージが面白かったんだ。ステージ上にディルドーを持って上がったり、SM嬢みたいなコスチュームを着たり、「スクール・ラヴ」みたいな奇妙な歌詞もあったりね。みんな笑うべきなのか、性の解放を祝うべきなのか判らず、奇妙な表情を浮かべていたよ。俺はガキだったけど、最高にクールだと思っていた。

●いずれにせよ2018年4月にソロ、7月にワイルドハーツとして連続して日本に来てくれるのはとても嬉しいです!

俺も嬉しいよ!ワイルドハーツのショーというのは、音楽以上の何かがあるんだ。ソロのショーではステージ上でいろいろしゃべれるけど、ワイルドハーツだと「さっさと次の曲をやれ!」と言われる。お客さんはロックしたいんだ。その気持ちは理解出来るよ。ワイルドハーツはハードにロックするバンドだからね。

<ワイルドハーツは三池崇史の映画みたいなものだ>

●それにしても一時CJとはモメていましたが、仲直りしてくれて嬉しいです。

うん、去年(2017年)12月に2人でアコースティック・デュオ・ツアーをやったんだ。お互いにコミュニケーションを取って、ワイルドハーツでの活動に弾みを付けたかった。当初CJはアコースティック・ツアーをやりたがらなかったんだ。でも俺は「2人でプレイして、コミュニケーションを取れるようにならないと、ワイルドハーツはやらないよ」と主張した。実際にやってみて、人間関係がスムーズになったし、やって良かったと思う。俺の音楽人生で最も長い付き合いなのがCJなんだ。ワイルドハーツは俺たちが始めたんだよ。俺とCJはポール・スタンレーとジーン・シモンズの関係なんだ。

●しかし、バンド内のトラブルをSNSなどでオープンにする必要は本当にあったのか?という気もしますが...。

ワイルドハーツは結成当時から病的なまでに正直なバンドだった。だから人間関係やドラッグの問題なども常にオープンにしてきたんだ。普通のバンドだったら、そういうことは包み隠していたかも知れない。でもワイルドハーツは普通のバンドじゃないんだ。諦めてもらうしかないよ!俺たちがすべてをオープンにしてきたことを受け入れず、去っていったファンもいるかも知れない。でも俺たちが雲の上のロック・スターでなく、苦しみ悩む人間であることを知って、親近感を持ってくれるリスナーもいると思う。ワイルドハーツというバンドは、三池崇史の映画みたいなものだ。気に入らないかも知れないけど、絶対に頭から消し去ることが出来ないんだ。

●近年の三池崇史作品は見ていますか?

三池監督はあまりに多作だから追い切れない部分もあるけど、出来るだけ見るようにしちる。『Blade Of The Immortal』(原題『無限の住人』)はすごく良かった。彼は100本以上の作品を作ってきたと思うし、それがすべて傑作というわけにはいかない。でも彼が存在していて、映画を作り続けてくれることに感謝しているよ。三池崇史基準で駄作であっても、マイケル・ベイの最高傑作よりは絶対素晴らしいに決まっている。三池崇史は『殺し屋1』も好きなんだ。あまりに好きだったからアニメOVA(『殺し屋1 THE ANIMATION EPISODE.0』)も見たけど、映画版には及ばなかった。

●『無限の住人』は沙村広明の原作漫画もおすすめですよ。

日本の漫画やアニメは世界最高のアートだね。俺とCJが親しくなったのも、アニメ版『AKIRA』がきっかけだったんだ。息子がもう少し大きくなったら一緒に『AKIRA』を見るのが楽しみだ。『うろつき童子』も大好きだよ。こちらは息子と見るにはちょっとエロ過ぎるかも知れないけどね。

●『AKIRA』といえば、映画『レディ・プレイヤー1』に金田のバイクが出てきました。

そうなんだ?『レディ・プレイヤー1』はまだ見ていないけど、期待しているんだ。スティーヴン・スピルバーグはブルース・スプリングスティーンと同じだ。どの作品も必ず見応えがあるし、深く感じる何かがある。俺の一番お気に入りではないかも知れないけど、作品を見て失望することがない映画作家だよ。『シンドラーのリスト』や『プライベート・ライアン』はハードコアだよ。スピルバーグは妥協することを知らない。だから凄いんだ。

●スピルバーグ監督の『A.I.』にはミニストリーの演奏シーンがありますが、ミューテイションのアルバムにアル・ジュールゲンセンを参加させたいと言っていましたね。

うん、でも連絡がつかなかったんだ。ただ今から考えると、もしアル・ジュールゲンセンがミューテイションにゲスト参加しても、予想の範疇になっていたと思うんだ。それよりも今、構想を練っている新しいプロジェクトだったら、彼のまったく新しい側面を引き出すことが可能だと信じている。次のアルバムは、とても奇妙なものになるよ。自分でも好きになれるか判らない。

●新プロジェクトの名義は決まっていますか?

まだ決まっていないんだ。幾つも名義を使わずに“ジンジャー・ワイルドハート”に統一した方がいいと言う人もいるけど、『ゴースト・イン・ザ・タングルウッド』を聴いて俺の音楽が好きになった人はかなり戸惑いそうだからね。まあ考えてみるよ。近年、いろいろ精神的な混乱や数々の問題に見舞われて、キツイことが多いんだ。それは決して快い経験ではないけれど、クリエイティヴな面では役に立つ場合もある。まるで金鉱のように豊かな音楽が湧き出てくるんだ。平穏な生活をして何も生み出さないのと、山積みのトラブルからさまざまなインスピレーションを得るのだったら、後者の人生を選ぶよ。

【THE WiLDHEARTS - TOKYO 2018 (CLASSIC LINEUP)】

東京 2018/7/4(水) 渋谷TSUTAYA O-EAST  OPEN 18:30 / START 19:30

東京 2018/7/5(木) 渋谷WOMB  OPEN 18:30 / START 19:30

公演オフィシャルサイト  https://www.creativeman.co.jp/event/the-wildhearts-2018/

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【THE WiLDHEARTS ACOUSTIC - TOKYO 2018 EXTRA】

東京 2018/7/6(金) 四谷 Outbreak!

東京 2018/7/7(土) 大塚 Hearts+

Act:THE WiLDHEARTS (Ginger & CJ)

Guest:THE MAGIC NUMBERS (Acoustic Set)

公演/レーベル オフィシャルサイト  http://vinyl-junkie.com/label/wildhearts/

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音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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