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【来日直前インタビュー第1回】ジンジャー・ワイルドハート「音楽は生命維持装置」

山崎智之音楽ライター
Ginger Wildheart photo by NAOKI TAMURA

2018年7月、ワイルドハーツが日本公演を行う。

4月にリーダーでシンガー/ギタリストのジンジャー・ワイルドハートがソロとして来日して、わずか3ヶ月での再来日。その間にもワイルドハーツとして“ブリットロック・マスト・ビー・デストロイド”ツアー(共演はリーフとテラーヴィジョン)を行うなど、とにかく音楽漬けの日々だ。

「俺にとって、音楽をプレイすることは生命維持装置みたいなものなんだ」とジンジャーは語る。「人生でこれほど音楽を必要としたことはない。音楽を聴いて、書いて、演奏して...音楽は自分が何者であるか、何故自分は生きるかを証明する手段だ。だから東京のCDショップのインストア・ライヴで1時間演奏出来ると聞いて、やった!と思ったよ。当初は1曲をプレイして、あとはトークとサイン会かと考えていたんだ。自分の音楽を聴いてくれるファン達1人1人の眼を見て、手を握って、どうも有り難う!と言うことが出来るのはとても嬉しい。でもそれ以上に、みんなに音楽を聴いてもらえるのが嬉しいんだ。それが俺のやるべきことだからね」

それほどに音楽を愛するジンジャーゆえ、音楽について話すときも、実に楽しそうだ。彼が愛するさまざまなアーティストやレコードはもちろん、「好きじゃない」というアーティストについて語るときでさえも、彼の語り口は雄弁で、その目は少年のようにキラキラ輝いている。

そんなジンジャーと音楽について対話するのは、インタビュアーにとっても喜びだ。その経験を日本のファンと分かち合うべく、可能な限り再現したい...という試みが、この全3回のインタビュー記事だ。

7月のワイルドハーツ公演に備えて、ジンジャーの音楽トークに耳を傾けてみよう。まずは第1回。

<カントリーはウソ偽りない感情を歌うんだ>

●2018年は日本で桜の開花が早まって、4月のお花見シーズンには間に合わなかったんですよね。

前に日本に来たとき、お花見をしたよ。桜の木の下でサケを飲むというのは素晴らしい文化だと思う。こないだまで住んでいたセントへレンズの家の前に大きな桜の木があったんだ。エキゾチックでありながら家に帰るような、不思議な経験だよ。

●セントへレンズというのはどこですか?

リヴァプールの近くにある小さな町だよ。

●...アメリカのセントへレンズ火山は知っていますが、イギリスのセントへレンズは知りませんでした!

イギリスのセントへレンズにも火山みたいに噴火する人間がいたよ...俺の元カノだ(苦笑)。

●4月のソロとしての日本公演の感想を教えて下さい。

日本のショーは世界のどことも異なっているんだ。ファンが無駄に騒いだりしないし、演奏に専念出来る。曲が終わればワーッと声援が起こるし、自分にとってカタルシスであり、エモーショナルな経験だった。俺の曲の少なくない割合がトラウマ的状況下で生まれる。だからショーをやるという行為は、1時間半のあいだ心療内科のソファにいるのと似た経験だったりするんだ。だからショーの後はかなり精神的に消耗するね。でもそれはポジティヴな疲労だし、決して不快ではない。

●あなたの最新ソロ・アルバム『ゴースト・イン・ザ・タングルウッド』は“カントリー・アルバム”だそうですが、アメリカのカントリー・ミュージックというスタイルを纏うのでなく、自分自身をさらけ出しているように聞こえました。

『Ghost In The Tanglewood』ジャケット/現在発売中
『Ghost In The Tanglewood』ジャケット/現在発売中

うん、俺がカントリーで好きなのは、そんなところなんだよ。表面上は強そうに見える人間が生の感情を表すところなんだ。ロックでは主人公が強い存在であって、苦難に真っ向から立ち向かうというイメージがある。でもカントリーの歌の主人公は失恋したり、落ち込んだりする。人間の弱さをさらけ出すんだ。そんな正直な内容に惹かれるんだよ。俺にとってカントリー・ミュージックはコスチュームではないし、アクセントでもない。カントリーはリアルなエモーションなんだ。ウィリー・ネルソンやジョニー・キャッシュ、ドリー・パートン...テイラー・スウィフトやティム・マグローだってそうだ。彼らはカントリー・ミュージックの根底にあるエモーションを判っている。何がカントリーをカントリーたらしめるかを、知り尽くしているんだ。

●テイラー・スウィフトは現在、世界で最も売れているポップ・アーティストの1人ですね。

カントリーが最悪になってしまうのは、フェイクな感情を歌うときだ。正直、今のテイラー・スウィフトは聴くに堪えないよ。でも初期の頃は、良い音楽をやっていると思ったね。少女が悲しんだり、混乱したり、人間らしいエモーションを歌っていた。それが今では“私の彼氏はゴージャス・ボディ♪”とか、粗悪な商品になってしまった。それで何億回もストリーミングを稼げるんだろうけど、残念でならないよ。

●あなたが最初に聴くようになったカントリー・アーティストは?

ジム・リーヴスのアルバム『Gentleman Jim』(1963)だな。俺のおふくろが大ファンだったんだ。それからラジオでカントリーを耳にすると、「いいな」と聴くようになった。ジョージ・ジョーンズやウィリー・ネルソン、ジョニー・キャッシュ...それから後になってマール・ハガード、ウェイロン・ジェニングスを経て、アウトロー・カントリーやマヴェリック・カントリーも聴くようになった。酒場の喧嘩では一歩も退かないような男が、恋に破れて傷ついた心を歌ったりするんだ。どんなタフガイだって失恋したりする。そんなウソ偽りのない感情が心を打つんだよ。男にだって感情というものがあるんだよ!

●カントリーの歌詞にあるストーリーテリングで魅力を感じるものは?

俺はあまりストーリーテリングの側面は好きじゃないんだ。ファンタジーよりも現実が好きだからね。ただスティーヴ・アールのストーリーテリングは素晴らしいと思う。彼自身のストーリーを歌っているからね。「ジョニーと女の子がこうしたこうした」とかではないんだ。

●カントリーのストーリー的な歌詞には残酷だったり猟奇的なものもありますね。オリヴィア・ニュートン=ジョンで有名な「バンクス・オブ・オハイオ」は“プロポーズされて断ったら刺されちゃった”という内容だし。

ドリー・パートンの「ジョリーン」なんかも「私の男を奪わないで」という歌詞だけど、ドリー・パートンの彼氏を奪う度胸のある女性なんてそうそういないよな...と思うよ。ただ、「ジョリーン」自体はあまり好きな曲じゃないんだ。マイナー調のカントリーのファンではないんだよ。ゴスペルはあらゆる苦難を乗り越えて光を見出す音楽だから、メジャー調の曲が多い。カントリーも人生の哀しみや苦しみを描きながらメジャー調なのが良いところなんだ。

Ginger Wildheart photo by NAOKI TAMURA
Ginger Wildheart photo by NAOKI TAMURA

<デヴィッド・ボウイは恐れを知らなかった>

●4月の来日公演で、東京初日はライヴ前にカントリー、2日目はブルースを流していましたが、あれは誰のチョイスですか?

初日は会場の人が選んだと思う。俺のアイディアではなかったよ。『ゴースト・イン・ザ・タングルウッド』の音楽性に合わせてくれて、とても感謝している。イギリスでもアコースティック・ツアーをやったけど、ライヴ前にアイアン・メイデンを流されたりしたんだよな。東京2日目は俺がブルーな気分だったから、会場のオーナーにオールマン・ブラザーズ・バンドをリクエストしたんだ。オールマンズは大好きなんだよ。「ホイッピング・ポスト」「ステイツボロ・ブルース」「ジェシカ」...彼らはサザン・ロックの象徴であり原点だ。オールマンズ以前にもザ・バンドやフライング・ブリトー・ブラザーズがいたけど、まだルーツ/カントリー色が濃かった。彼らが扉を開いたことで、レーナード・スキナードのようなバンドが注目されたと思う。

●最近でもサザン・ロックは聴きますか?オールマンズのウォーレン・ヘインズがいるガヴァメント・ミュールとか?

最近でも聴いているけど、昔のレコードが多いな。デュエイン・オールマンとディッキー・ベッツがいた頃の、初期オールマンズとかね。デュエインもグレッグ・オールマンも亡くなってしまって悲しいよ。少年時代にレコードを聴いていたアーティストが亡くなってしまうのは、壁に貼っていた写真が1枚また1枚と消えて、殺風景な白い壁になってしまった気分だ。彼らは俺にとってヒーローであるのと同時に、自分の親戚のように思ってきた。マルコム・ヤングやレミー、デヴィッド・ボウイ...彼らは音楽面での“親”なんだ。俺の息子によくレミーがおじいちゃんだと話していたよ。それで息子も、最近では率先してモーターヘッドを聴くようになった(笑)。

●レミーからどんなことを学びましたか?

レミーは社会が求めるように生きるのではなく、自分が望むように生きるべきだということを教えてくれた。それこそが幸福であり、自由というものだ。人間の多くが社会のトラップに巻き込まれて、老人になってしまう。俺だってそうなってしまう可能性があった。レミーはそんなトラップを避けるという、人生において重要なレッスンを教えてくれたんだ。レミーの妥協しない姿勢と頭の良さは尊敬していたよ。

●デヴィッド・ボウイから学んだことは?

恐れを持たないこと、だな。ボウイはセールス面の失敗を恐れていなかったし、音楽で挑戦を続けることを恐れていなかった。正直、俺でも好きじゃないボウイのアルバムが何枚かあるよ。それは同時に、彼がリスナーに媚びず、チャレンジを続けていたということなんだ。彼を失ったことは、音楽の世界にとって大きな損失だね。ただ、今でもスパークスやチープ・トリックのようなバンドが健在だし、すべての希望が失われたわけではないと信じている。

●好きでないボウイのアルバムというのはどれですか?

1990年代の、『ヒーザン』とかかな。でも久しぶりに聴いてみようかと考えているんだ。『ステイション・トゥ・ステイション』やベルリン三部作とかも初めて聴いたときはダーク過ぎると思ったけど、最近になって聴いてみるとやっぱり素晴らしいからね。ボウイは本当に恐れを知らないアーティストだと思う。

●あなたが「マイ・オールド・フレンド・ザ・ブルース」をカヴァーしたスティーヴ・アールは1980年代にデビューしたという点で、クラシック・カントリーとモダン・カントリーの狭間の世代のアーティストですね。

うん、スティーヴ・アールやジェイホークスはハンク・ウィリアムスやジョニー・キャッシュの世代からモダン・カントリーへの橋渡しをしたアーティストだった。彼ら自身の音楽も魅力的だったけどね。彼らがいたからライアン・アダムスのようなアーティストが出てきたんだ。とても重要な位置を占めるアーティスト達だよ。

●現代のカントリーはフォローしていますか?

いや、全然。モダン・カントリーは俺にとって“カントリー”ではないんだ。エアロスミスを漂白したような、薄い“ロック”だよ。

●ジェイソン・オルディーンとかは?去年(2017年)ラスヴェガスのカントリー・フェスティバルで銃乱射事件が起こったとき、彼がステージ上でプレイしていました。

その事件のことは知っているけど、その人は知らない。同じジェイソンだったら、ジェイソン・イズベルが好きだよ。最近スコット・ソーリーに教えてもらったんだけど、素晴らしいと思った。だから俺が知らない最高のアーティストが幾らでもいることは判っているんだ。もっとアンテナを高く上げておかねばならないと日々思っているよ。スウェーデンのファースト・エイド・キットも良いね。彼女たちのサウンドはビューティフルだ。金を稼ぐよりも良い曲を書くことに重点を置いているアーティストがまだいるのを知るのは、嬉しいことだよ。昔のミュージシャンは汚いバンに乗ってツアーをやって、ファンを数人単位で増やしていった。最前列のファンをしっかり見据えながら、毎晩ライヴをやる経験が音楽を育むんだ。今ではyoutubeで瞬間湯沸かし器みたいに人気が出て、次の瞬間には消え去っていく。突然ビッグになってしまったバンドには最前列のファンなんて見えない。見えるのは警備員、そして銀行口座の残高だけだ。

<リチャード・トンプソンは真のギターの天才だ>

●イギリスのアコースティック・ツアー時に行われたインタビューで、リチャード・トンプソンのファンだと話していましたが、彼のどんなところが好きなのですか?

リチャード・トンプソンは最高のストーリーテラーだ。彼のアルバムを聴くことで、俺たちは彼の人生に引き込まれていくんだよ。最高傑作を挙げると『プーア・ダウン・ライク・シルヴァー』(1975)だと思うけど、『シュート・アウト・ザ・ライツ』(1982)も本当に素晴らしい。彼が奥さんのリンダ・トンプソンと共作した最後のアルバムで、アルバムのレコーディングをしながら、まさに同時進行で彼らの関係が崩壊していくんだ。「ウォーキング・オン・ア・ワイヤー」は涙なしで聴くことが出来ないよ。2人の別離についてリチャードが歌詞を書いて、それをリンダが胸を詰まらせそうに歌っているんだ。彼らはこのアルバムの完成と同時に別れることが決まっていたけど、アルバムがアメリカで大成功してしまったせいで、ツアーをしなければならなかった。リンダは精神崩壊をしかけたけど、リチャードは演奏を続けた。飛行機でリチャードの隣に座っていたら、墜落しても生き延びれただろうね。それほど彼の精神は強固だったんだ。彼のギター・プレイも流れるようで、本当に美しい。真のギターの天才だよ。フランク・ザッパに匹敵すると思うね。おそらく、リチャードはそれほど練習はしなかった筈だ。彼そのものがギターだったんだ。アコースティックもエレクトリックも弾くけど、まさにパーフェクトだよ。それは彼のヴォーカルについても言えることだ。悲しみ、怒り、憎しみなどすべてが彼の声に込められている。ハートを露わにする音楽というのは、技巧ではないんだ。俺も彼に倣って、音楽にハートのすべてを込めようと試みている。心療内科より安いし、処方薬より効果的だからね。

●リチャード・トンプソンがソロ転向する前にいたフェアポート・コンヴェンションは聴き込みましたか?

初期フェアポート・コンヴェンションは聴いてみたけど、好きになれなかった。リチャードのソロほどの奥行きと重みを感じなかったんだ。それにフェアポートの音楽は俺にとって“救い”とならなかった。優れた音楽は、何らかの形で聴く人への“救い”になるものだ。『ゴースト・イン・ザ・タングルウッド』も誰かへの“救い”になったら光栄だと考えている。「このアルバムを聴いて助けになった。どうも有り難う」というメールを何通も受け取って、自分のやってきたことが報われた気がしたよ。「『サッカーパンチ』が好きです。速いから」と言ってもらえるのも悪い気分じゃないけど、それよりも心が温まったな。

●フェアポート・コンヴェンション以外の英国フォーク、たとえばペンタングルやインクレディブル・ストリング・バンドはどうでしょうか?

うーん、軽すぎ。

●あなたは「イフ・ユー・ファインド・ユアセルフ・イン・ロンドン・タウン」という曲を発表していますが、ロンドンに関するフォーク調の曲というと、どうしてもラルフ・マクテルの「ストリーツ・オブ・ロンドン」を連想してしまいます。

ラルフ・マクテルは好きでも嫌いでもないけど、「ストリーツ・オブ・ロンドン」はロンドンについての歌では最も有名だし、比較されるのは仕方ないだろうな。正直に言うと、ラルフ・マクテルのオリジナルよりもアンチ・ノーホェア・リーグのヴァージョンの方が好きだよ。彼らを同性愛嫌悪、外国人嫌悪、女性差別などと批判する人もいるし、彼らを好きだと意思表示するだけで自分もバッシングを受けるリスクもあるけど、彼らは面白がってやっているだけだし、あまりシリアスに捉えてはいけない。彼らはクラスみたいなポリティカル・バンドではなく、クソ真面目な連中に小便をひっかけるのが目的なんだ。聴く側もビールを手にして、楽しみながら聴くべきなんだよ。

第2回では彼の音楽の源流をさらに遡っていこう。

【THE WiLDHEARTS - TOKYO 2018 (CLASSIC LINEUP)】

東京 2018/7/4(水) 渋谷TSUTAYA O-EAST  OPEN 18:30 / START 19:30

東京 2018/7/5(木) 渋谷WOMB  OPEN 18:30 / START 19:30

公演オフィシャルサイト  https://www.creativeman.co.jp/event/the-wildhearts-2018/

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【THE WiLDHEARTS ACOUSTIC - TOKYO 2018 EXTRA】

東京 2018/7/6(金) 四谷 Outbreak!

東京 2018/7/7(土) 大塚 Hearts+

Act:THE WiLDHEARTS (Ginger & CJ)

Guest:THE MAGIC NUMBERS (Acoustic Set)

公演/レーベル オフィシャルサイト  http://vinyl-junkie.com/label/wildhearts/

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音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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