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サッカーゴール等の転倒事故を防ぐ 〜その7〜

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
草苑保育専門学校に咲くひまわり(同学校より提供)

 これまで6回にわたって、サッカーゴール等の固定の問題について書いてきた。

 2018年1月から、効果的なゴールの固定チェックの方法として、インターネットを活用したシステムを考え、サッカーゴール等の固定状況を写真に撮って送ってもらう活動「フォトシェアリング」を開始した。2018年度は中学校4校から写真を送っていただいた。

 2019年1月13日から、2回目のゴール固定チェックの呼びかけを行った。リーフレットも作成し、梅崎さんから分けていただいたひまわりの種も配布した。約1か月間、ゴールの固定状況を写真に撮ってSafe Kids Japan(以下、SKJ)に送ってもらうよう依頼したが、今回はなんと1枚の写真も送られてこなかった!

この1年半の活動

 これまでの1年半、何も活動しなかったわけではない。SKJに写真を送ってもらう活動だけでは予防にはつながらないと考え、2018年5月、S市とH市の教育委員会を訪問し、サッカーゴール等の固定状況を写真に撮って送ってもらうシステムを提案、教員の研修会で話もしたが、フォトシェアリングの実施にはつながらなかった。また、スポーツ庁の担当部署にサッカーゴール等の固定チェックシステムを提案し、各教育委員会に指示してもらいたいと依頼したが、それはスポーツ庁の仕事ではないので難しい、と言われてしまった。

 一方、ある国会議員に相談したところ、校長会で話をする機会を持つことができた。2019年5月に開催された各県の校長が集まる全国連合小学校長会総会と全日本中学校長会総会で、それぞれ15分間話をさせていただいた。ここに出席された校長先生方から、それぞれの県の校長先生方にサッカーゴール等の固定の必要性が伝達されると聞いているが、現場まできちんと伝わるかはわからない。

子ども安全ネットかがわの活動

 最近、「子ども安全ネットかがわ」で、サッカーゴールの固定チェック活動を展開されたと聞いた。すばらしい活動で、感銘を受けた。そこでこの会の代表である仙頭 真希子さんにお願いして、活動報告を書いていただいた。以下に、それを紹介する。

「子ども安全ネットかがわのサッカーゴール固定チェックの日の活動」

 香川県の弁護士の仙頭 真希子です。私は、2017年4月に善通寺市内の保育園で当時3歳だった女の子が園庭の遊具に首を挟まれ、のちに亡くなった事件に衝撃を受け、子どもの事故や犯罪被害を予防するための活動をする団体として、2018年9月、「 子ども安全ネットかがわ」を設立しました。

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 子ども安全ネットかがわでは、NPO法人Safe Kids Japanが決めた1月13日、「サッカーゴール固定チェックの日」に合わせて、県内の小中学校に啓発活動を行いました。

 サッカーゴールが転倒し、下敷きになってこどもが亡くなるという事故が2004年と2017年の同じ1月13日に起きていること、ケガをしている事故が毎年数十件起こっていることを知りました。

 事故が起こるたびに、文科省から何度も固定するようにという通達が出ているにもかかわらず、同じ事故が繰り返し起こり続けているということでした。人類史上、初めて起こった事故であれば誰も予測できなかった「まさかの出来事」と言えるかもしれませんが、これだけ繰り返し起きている事故を予防できなかったとなると、大切な命が失われてからではどんなに悔やんでも悔やみきれません。

 

 私たちは、香川県内では、サッカーゴールが転倒し、下敷きになって亡くなる子どもを一人も出さないようにすることを目標にしました。

 まずは、私の事務所のある丸亀市の教育委員会に出向き、教育長にお会いして直接要望書(下記)を手渡し、サッカーゴールの固定チェックを行って欲しいと申し入れました。教育長は、中学校の校長時代に起こった静岡の中学校でサッカーゴールの下敷きになって生徒が亡くなり、数日後に校長が自殺した事件について「あれは衝撃的な事件だった」と話し、固定チェックの重要性を理解してくださいました。

 NPO法人Safe Kids Japanの3つの提言のうち、軽いゴールの開発を学校に提言するのは適していないため、移動は教員が安全を確保した上で行うという内容に変更しました。

 丸亀市教育委員会では、年に1回、学校設備の点検を行っており、その際にサッカーゴールもチェックしているということでしたが、市内の小・中学校に要望書、提言を配布し、全校から写真つきの報告書を集めてくれました。

 丸亀市内の小学校は17校、中学校は5校です。離島の小・中学校にはサッカーゴールがありませんでしたが、それ以外は小学校1校を除いてサッカーゴールがありました。小学校のうち1校はゴールが老朽化したため使用しなくなり、現在は小さいハンドボール用のゴールを使っていました。小学校のうち2校は常設ではなく、普段は校庭のすみに倒しておいて三角コーンで囲って児童が近づけないようにしてあり、使うときだけ出してきて杭で固定しているということでした。小学校のうち1校は、校庭に常設して固定してあるゴールのほかに、一回り小さいゴールがあり、スポーツ少年団が使うときだけ設置していました。このスポ少用のゴールに固定具がなかったため、この機会に固定用の重りを購入したという報告がありました。残り13校は常設、杭で固定していました。うち1校は縦のバーにクッションを巻きつける対策までしていました。

 中学校2校は、使うときだけ出してきて杭で固定し(移動は部活のときに生徒がしている様子でした)、残り3校は常設、杭で固定でした。このほか、善通寺市教育委員会、まんのう町教育委員会にも出向き、教育長にお会いして、固定チェックの申し入れを行いました。

 

 私の地元である善通寺市は、小学校が8校、中学校が2校あります。地元の小学校については、サッカーゴールが杭でしっかり固定されていることを私自身でも確認していました。教育委員会は、全ての小中学校に要望書を配布し、提言1から3を実施したかどうかの報告を一週間後にはまとめてくれました。報告書を見ると、ほとんどの学校で、全校集会などで生徒たちに注意喚起をしてくれていました。

 坂出市は、子ども安全ネットかがわの会員である市議会議員の方が教育委員会に申し入れを行い、結果の報告を受けてくれました。

 今回、啓発活動を通じて、多くの方にサッカーゴール転倒事故のことを話しましたが、ほとんどの方はゴールが固定されているかどうかを知らず、そのことを考えたこともなかったということでした。中には、スポーツ少年団でサッカーを教えているけれど、固定はしていないと話していた保護者もいました。

 これ以外にも、県内のプロサッカーチーム、カマタマーレ讃岐に協力してもらい、サッカーゴールにぶら下がったり、よりかかると危険であることを子どもたちに啓発してもらえないかと知人を介してお願いしてみましたが、事情があって実現できませんでした。

 事故予防は、子どもに関わる一人でも多くの大人が正しい知識を持つこと、子ども自身が危険性を理解して危機回避行動を取ることが大切です。今後も、子どもの事故が起こりにくい社会を目指して、一歩一歩啓発活動を続けて行きたいと思います。

おわりに

 最近のニュースで、畑一面に咲きそろったひまわりの大きな花の写真を見ることがある。皆さんに配布した「ひまわりの種」は、花を咲かせただろうか。私も、ひまわりの種を分けてもらい、庭の片隅の陽が当たる場所に植えた。現在、背丈は40cmくらいの高さまで成長したが、花が咲く気配はない。私のサッカーゴールの固定活動の不調に呼応しているのだろうか。

 これまで、データに基づいて課題を明確にし、有効と思われる対策を提案したが、現場には受け入れられなかった。一方、香川県では個人が取り組み、きちんと成果が出た。一人でもがんばればできることを知った。今回の取り組みではっきりわかったのは、何かしようとする場合は、

1 決定権がある人を探し、その人にアプローチすること

2 活動結果を、数値で確認すること

である。

 我々の戦略は失敗に終わっているが、今回の成功事例を参考にして今後の活動に活かしたいと考えている。

【参考】要望書(「子ども安全ネットかがわ」)

香川県内の公立小学校、中学校、高校

学校長 各位

平成31年1月

1月13日はサッカーゴール等固定チェックの日です

前略

 子ども安全ネットかがわ代表の弁護士の仙頭 真希子です。当団体では、防ぐことができる事故や犯罪で命を落とす子どもが一人も出ないようにしたいという思いから、子どもの事故、犯罪被害の予防のための活動を行っています。

 学校における体育・スポーツ関連の事故を予防するためのプロジェクトを行っているNPO法人Safe Kids Japan(事故による傷害予防の専門団体)が、1月13日をサッカーゴール等固定チェックの日と定めています。

 福岡県大川市の小学校で2017年1月13日、体育の授業中にゴールポストが倒れて4年生の男児が下敷きになり死亡する事故が起きました。この事故で、校長や教頭ら学校関係者6人が業務上過失致死の疑いで福岡地検に書類送検されています。

 ニュースによると「男児はゴールキーパーをしていた際、得点時にネットにぶら下がり、弾みでゴールが倒れた。留め具が外れ、固定されていなかった。同校は点検表を基に、月1回と授業前にゴールポストの点検をする決まりだったが、2016年11月以降は実施していなかった。」とのことでした。

 そこで、当団体としても県内全ての学校に対し、別紙の対策を求めます。

 お忙しいところ恐れ入りますが、今一度、校庭のサッカーゴール等の固定の確認と子どもたちへの周知をお願い致します。

※ 1月13日にNPO法人Safe Kids JapanのWEBサイトにリーフレットがアップされますので、そちらもご活用ください。

<ゴール等の転倒を予防するために>

提言1:ぶら下がらない、懸垂しない

固定されていないゴールのクロスバー(横木)やネットに一人でもぶら下がるとゴールが転倒する危険があります。バーやネットは子どもがぶら下がりたくなる形状です。また、テレビで見るサッカーの試合で選手が得点に歓喜してバーにぶら下がっているのを見て、子どもが真似をすることも考えられます。テレビ中継されている試合では、ゴールは確実に固定されているので、固定されていないゴールで同じことをしないよう子どもたちに注意喚起してください。

 

提言2:杭で固定する(次善策:100kg以上の重りで固定する)

人は跳びつきたくなる・揺らしたくなる欲求があるので、一人が跳びついても(40kgf発生)転倒しにくいようにします。突風(瞬間最大風速 30m/秒で、平均風速だと15~20m/秒)では100kgfの力がかかります。

ゴールの奥行が60cm程度と危険なゴールも存在しています。

簡単に固定できる製品(重りや杭)が開発・販売されていますので、こういった製品を利用する必要があります。

提言3:移動は教員が安全を確保した上で行う

ゴールを倒すこと自体がきわめて危険な作業です。転倒時は、1.8トン(アルミ製)~3トン(鉄製)程度の力が発生する危険があります。これは頭蓋骨骨折するレベル(350~500kgf)を大きく上回る力で、実際に亡くなった方も多数います。移動のためにゴールを倒す作業は、本来設置業者が行う危険な作業です。生徒に運搬させず、教員が安全を確保した上で行うようにしてください。

                                

以 上

小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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