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ミニトマトによる乳幼児の誤嚥を防ぐ〜食品メーカーのコマーシャル映像への取組み #こどもをまもる

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
(写真:アフロ)

食品メーカーのテレビコマーシャル 

 2024年2月はじめの日曜日の夜、食品メーカーのコンセプトを示すテレビコマーシャルを見た。父親が3歳くらいのこどもに食事を作って食べさせる、というシーンから始まるコマーシャルである。このコマーシャルが始まって3秒ほど経ったところで、できあがった料理が映し出された。そこには、オムライスとブロッコリー、コーン、そしてミニトマトがのっていた。

 このミニトマトはカットされておらず、丸いままのように見えたのでハッとしたが、日本を代表する食品メーカーが、カットしていないミニトマトを幼児に食べさせるようなコマーシャルを作るはずがない。見間違えたのだろうと思った。しかしどうも気になるので、あらためてこのメーカーの公式YouTubeで確認してみた。すると、やはり丸いままのミニトマトが2つ、お皿にのっていた。見間違いではなかったのである。

球形で、表面がツルツルしていて、こどもの喉頭にはまり込む大きさの食材

 2024年2月26日、小学1年生の児童が給食で出された「うずらの卵」により窒息死したことは記憶に新しいが、ミニトマトも教育・保育施設における給食では「提供を避ける食材」とされている。うずらの卵やミニトマト、大粒のぶどう、白玉だんごのように、球形で、表面がツルツルしていて、こどもの喉頭にスポッとはまり込む大きさの食材は、過去に何度も誤嚥や窒息が起きていることから、少なくとも未就学児には、それらの食材をそのままの大きさで食べさせることはしないということが保育事故防止のガイドラインに明記されている。

令和3年度内閣府子ども・子育て支援調査研究事業「教育・保育施設等における重大事故防止対策に係る調査研究 保護者とのコミュニケーションツール」より(筆者撮影)
令和3年度内閣府子ども・子育て支援調査研究事業「教育・保育施設等における重大事故防止対策に係る調査研究 保護者とのコミュニケーションツール」より(筆者撮影)

企業への要望と迅速な対応

 大企業のテレビコマーシャルは影響力が大きい。ミニトマトをそのままの形で幼児に食べさせることを肯定するような映像が、今後も放映され続けることは問題だと考え、同社の「お客様相談窓口」にNPO法人 Safe Kids Japanから、このシーンを見直していただきたい旨のメールを送った。

 Safe Kids Japanでは、過去にいくつかの企業に対して同様のアクションを行ってきた。しかし多くの場合、無視されるか、「対応を検討したい」など紋切り型の回答が送られてくるかのどちらかで、こどものケガを減らすための具体的な対策が示されたことはほとんどない。そのような経験から、今回も意味のある回答はないだろうと考えていたが、驚いたことに、メールを送ってから24時間後、同社からSafe Kids Japanに電話をいただいた。メーカーの担当の方は、「連絡をもらってすぐに会議を開いた。安全第一であるべき食品会社が勉強不足で申し訳ない。貴重な意見に感謝する」と言われ、さらに「2週間後までにコマーシャルの当該部分はカットします」と具体的な期日まで設けて対応すると約束してくださった。

 2024年3月3日現在、このコマーシャルはすでに編集され直してあり、テレビでも、公式YouTubeでも、お皿の上にミニトマトはのっていない。どのような編集・加工をされたのか筆者にはわからないが、短期間に各方面との調整などをされるのは大変なことだったのではないか。欲を言えば、「4つに切った」ミニトマトを皿の上にのせて見せていただきたかったが、それは次回以降に期待したい。

企業とのコミュニケーション

 今回の対応で、2021年6月10日にこのニュースに書いた記事「子どもの安全ー乳児用ベッドの中に置かれた枕やぬいぐるみから消費者の権利と責任について考えるー」を思い出した。これはアメリカの話であるが、2021年2月、室内用フィットネス・バイクのテレビコマーシャルの映像で、室内であることを示すために、最初に乳児用ベッドが写し出された。その乳児用ベッドの中には、枕や大きなぬいぐるみが置かれていた。乳児期の睡眠中の突然死を予防するため、アメリカでは乳児用ベッドの中には何も置かないことが強く勧められている。この乳児用ベッドのシーンはほんの一瞬映し出されただけであったが、それを見た市民がそのコマーシャルの取り下げを求めるキャンペーンを行い、その後、企業側は当該コマーシャルの取り下げに応じた。

 この活動を知った時、ほんの一瞬の映像であっても、社会への影響があることに気づいた時点で、すぐに抗議をする必要があることを痛感した。今回、同じような状況を経験し、この食品メーカーがすぐに対応してくれたことに驚くと同時に、あらためて感謝したい。

※参照「4歳までは4つに切って」「窒息予防のは・ひ・ふ・へ・ほ(動画)」

いずれもNPO法人 Safe Kids Japan制作

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小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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