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仮想空間に市役所を構築 「メタバース役所」は広まるか

山口健太ITジャーナリスト
メタバース役所(大日本印刷提供資料より)

インターネット上の仮想空間に市役所を構築する「メタバース役所」。その実証事業を大日本印刷と三重県桑名市が2月26日から約1か月間、実施します。

メタバースを利用するメリットはどこにあるのか、また他の自治体にも広まる可能性はあるのでしょうか。

メタバース役所 何ができる?

メタバースといえばVRゴーグルのようなデバイスを使うイメージがあるかもしれませんが、誰でも使えるようにスマホやパソコンからもアクセスできるものが増えています。

今回発表したメタバース役所も専用の機器は不要。大日本印刷がパートナー企業と連携して構築したプラットフォームを利用し、キーボードやマウス、画面のタッチで操作できるようになっています。

メタバース役所で提供するサービスは3種類。まずは「電子申請手続きの総合窓口」では、オペレーターとのオンライン通話により、申請画面を見ながら音声で案内してもらえるといいます。

電子申請の方法を画面を共有しながらオペレーターに案内してもらえる(大日本印刷提供資料より)
電子申請の方法を画面を共有しながらオペレーターに案内してもらえる(大日本印刷提供資料より)

また、相談員に生活や育児などの相談ができる「各種相談業務」や、市民同士や行政と市民との間での交流会、セミナーといった「市民交流の場」も用意されています。

個別相談のブースでは、他の人に音声を聞かれないよう1対1の会話ができる(大日本印刷提供資料より)
個別相談のブースでは、他の人に音声を聞かれないよう1対1の会話ができる(大日本印刷提供資料より)

実際に市役所に行くことなく、リモートから利用できるのはメリットといえますが、あえて「メタバース」を利用する必要はあるのか、気になるところです。

メタバース役所の業務内容を見る限り、市役所のWebサイトや一般的なビデオ会議ツールを活用することで間に合いそうな印象を受けます。

メタバースでは自分の分身となるキャラクターの「アバター」を操作する必要があり、ゲームなどで慣れていないと戸惑うかもしれません。単に情報にアクセスするだけならWebサイトのほうが効率的でしょう。

一方で、メタバースならではの特徴と感じるのは、他のユーザーがアバターとして見える化されることによって、「そこに人がいること」を実感できるという点です。

たとえばネットショップでは、実店舗とは違い、来店客で混雑していたとしてもそれを実感することができません。しかしメタバースならアバターの集まりで可視化されるわけです。

このメタバース役所についての発表会自体もメタバース空間内で開催され、筆者もアバターとして参加したのですが、他にも多くの記者が参加している様子を見て取れました。

ちなみに、個別の相談についてはアバターを使うことで匿名性を保ったまま利用できるとのこと。対面では話しにくいようなことも、アバターを通してなら話しやすいといった効果を期待できそうです。

アバターで気軽に参加できること、また他の参加者の存在が見えるという点は、交流会やセミナーのようなイベントにも役立ちそうです。

市民交流のイメージ画像(大日本印刷提供資料より)
市民交流のイメージ画像(大日本印刷提供資料より)

将来的にはメタバース内での電子申請も

メタバース役所の今後の展開として、大日本印刷は2025年度に40の自治体への導入を目指しているといいます。

メタバース上で住民対応にあたる人員をどうやって確保するか、という問題が出てきそうですが、実証実験では大日本印刷がスタッフを用意。自治体の業務に実績のあるパートナー企業と連携し、住民のプライバシーに配慮しながら対応するとしています。

最近では「バーチャル渋谷」のように街全体をメタバース上に再現する動きがあることから、そういった空間からメタバース役所に接続できる、といった連携があれば面白そうです。

また電子申請について、今回の実証事業では「案内」にとどまっているものの、将来的には行政システムと連携し、メタバース内で申請が完結する仕組みを検討しているとしています。

アバターを使うことで匿名性を確保しつつ、必要に応じてマイナンバーカードを用いたデジタルの本人確認と連携する、といった機能にも期待したいところです。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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