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ウーバー配達員は「労働者」? ギグワーカーへの影響は

山口健太ITジャーナリスト

11月25日、フードデリバリー「Uber Eats」の配達員は労働組合法上の労働者にあたる、という東京都労働委員会の判断が報道され、話題になっています。

個人事業主である配達員が「労働者」と認定されることで何が起きるのか、ほかのギグワーカーにも影響を与えるものなのか、公開された資料に基づいて考えてみます。

労組法上の労働者=「雇用」ではない

アプリから食事の出前を注文できることで知られるUber Eatsですが、その仕組みに大きな特徴があります。

まず利用者は、いろいろな商品を安く、早く届けてほしいと思っています。しかし飲食店にとって従業員を増やすのは難しい状況です。

一方、配達員は自分の都合の良いときだけ働きたいと考えています。この「利用者」「飲食店」「配達員」の3者をマッチングしているのがUber Eatsです。

飲食店は注文があるたびに、手が空いている配達員にデリバリー業務を委託できます。配達員は個人事業主なので、副業として働いたり、複数のデリバリーサービスを掛け持ちしたりと、自由に働くことができます。

2022年8月にはビジネスモデルと利用規約の変更があり、配達サービスの提供主体が「飲食店」から「Uber Eats」に変わりました。しかし配達員が個人事業主であること自体は変わっていません。

ここで注意したい点として、これからはUber Eatsの配達員が「労働者として雇用される」と誤解している人がいますが、そうではありません。

当事者であるウーバーイーツユニオンは、労働条件の改善などについて団体交渉を申し入れています。これは「労働組合法上の労働者」としての扱いを求めるもので、この点が東京都労働委員会によって認められました。

しかしこれは「労働基準法上の労働者」(雇用)とは異なるというわけです。同ユニオンの主張も、個人事業主としての「自由な働き方」と「労働条件の改善」の両立を求める立場です。

こうした背景を踏まえて、東京都労働委員会による命令書を見ていくと、さまざまな状況証拠を積み重ねることで「労働者性」を認めたという印象を受けます。

今回の判断を受けて、Uber Eats側がどのように対応していくかは分かりませんが、少なくとも配達員の雇用形態への影響はなさそうです。

ギグワーカーへの影響は

Uberが公表したレポートによると、Uber Eatsが2021年に国内の飲食店などにもたらした付加価値は490億円とのこと。今後は食事だけでなく、さまざまな商品を扱うクイックコマースの展開も期待されています。

スマホの普及に伴い、サービスの売り手と買い手をマッチングすることが容易になったことで、さまざまな業種において「ウーバー化」(Uberization)が進んでいくと予想されています。

その中で、自分の都合に合わせて働ける「ギグワーカー」が増えています。時間や場所を選べるなら、ほかに本業がある人や、育児や介護などでフルタイムの仕事に就きにくい人も参加できます。

あるいは、「体を動かしたい」といった理由で配達員をする人もいます。必ずしも報酬が目的ではない配達員が増えることで、利用者にとっては価格を抑えることもできます。

このように多様な働き手が参加することでサービスの魅力は高まりますが、個人事業主として生計を立てていくにはさまざまなリスクもあることから、労働者と同じように保護すべきという議論が世界的に高まっています。

今回の東京都労働委員会による判断は、あくまでUber Eatsの事情に特化したものという印象を受けますが、引き続きギグワーカーや個人事業主全般の労働環境の改善についても注目していきたいところです。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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