通信障害時の「他社乗り入れ」 ソフトバンクとNTTの見解は
ソフトバンクとNTTの決算説明会では、通信障害時の他社乗り入れ(ローミング)について、両社の社長が見解を語る場面がありました。障害時に協力すべきという方向性は一致しているものの、どこまでをその範囲とするかは意見が分かれています。
通信障害は「他人事ではない」
KDDIで発生した通信障害の受け止めとしては、ソフトバンク・NTTの両社ともに過去の経験を踏まえつつ、「他人事ではない」とコメントしています。
今回の通信障害では、コロナ禍や熱中症に加え、台風も近づいているという状況の中、長時間にわたって緊急通報ができなかった点が大きな問題となっています。
こうした障害時でも緊急通報が使えるよう他社に乗り入れる仕組みについて、総務省は9月に検討会を立ち上げる予定です。
この点について、8月4日のソフトバンクの決算説明会では、宮川潤一社長が「緊急通報だけでは、社会の混乱は収まらないのではないか」と指摘しました。
その背景として、以前にソフトバンクで通信障害が起きたときと比べても社会インフラとしてのスマホの重要度は高まっており、特に「認証や決済」を宮川氏は挙げています。
認証について、最近ではセキュリティ対策として電話番号やSMSで認証コードを送るサービスが増えています。通信障害によりこれが利用できなくなれば、たとえ固定回線やサブ回線が生きていたとしても、仕事や生活に支障が出ることになります。
決済では、たとえばPayPayのようなアプリを用いたコード決済はスマホ側のデータ通信が途絶えると使えなくなります。お店の中に無料Wi-Fiがあればいいのですが、最近ではコンビニなどで無料Wi-Fiの廃止が進んでいます。
そこで、あくまで宮川氏の個人的な意見であることを前置きしつつ、「MVNOの仕組みを使うことで、300kbps程度の最低限の通信を確保する」というアイデアを語っています。
300kbpsとは、速度制限がかかったときのような低速ではあるものの、音声通話、SMSやメール、LINEのやりとり、PayPayの決済といった用途であれば、それなりに実用的といえる速度です。
一方、8月8日にはNTTの決算説明会において、島田明社長が「緊急通報のローミングについて、できるだけ早く実現できるよう協力していきたい」とコメントしました。
緊急通報時の「折り返し」などの議論はあることを認めつつも、「まずは時間をかけずに、できることをなるべく早く実現してはどうか」と語っています。
宮川氏が語った、データ通信などを含めた他社乗り入れについては、「輻輳が波及しないようにすることを最大限考慮すべきだ」と慎重な見方を示しました。
あるキャリアが通信障害を起こすことで、他のキャリアに多くのユーザーが殺到し、障害の連鎖が起きるといった事態は避けなければならない、というわけです。
そうした事態は宮川氏も当然想定した上で、使用する帯域を限定するMVNOのような仕組みを挙げたと考えられるものの、このあたりはキャリアによって意見が分かれそうです。
通信障害「自衛策」には限界も
両社の意見はそれぞれに納得できる部分はあるものの、議論が長引くことを避け、まずは最低限といえる緊急通報のローミングから実現したいという気持ちは分かります。
通常の音声通話やデータ通信など、それを超える部分については、当面はサブ回線を事前に用意しておくとか、障害発生時に契約するなどの「自衛策」に頼ることになるでしょう。
ただ、それができるのはある程度スマホに詳しい人だけではないか、との声もあります。たとえばスマホを買うとき、eSIMの搭載や他社周波数への対応を意識している人はそれほどいないはずです。
社会のデジタル化によって、スマホを正常に使えることが当たり前のように求められる場面は増えています。その中で、こうした自衛策に限界があるとすれば、どこまでキャリアがサポートすべきかが大きな論点になりそうです。