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ゆうちょで硬貨手数料始まる 「現金のコスト」認識は広まるか

山口健太ITジャーナリスト
硬貨取り扱いが有料に(ゆうちょ銀行の発表資料より)

1月17日から、ゆうちょ銀行で窓口やATMにおける硬貨による預け入れ、払い戻しの手数料が有料化されました。利用者にとって負担は増える一方で、その裏にある「現金のコスト」について認識が広まりそうです。

ゆうちょ銀行で始まった硬貨取り扱いの有料化は、「窓口」と「ATM」で手数料体系が異なり、窓口なら50枚まで無料、ATMは1枚から110円と、意外にもATMのほうが高く見えます。しかし50枚を超えると窓口のほうが高くなります。

ゆうちょ銀行のATMで150円を硬貨で入金してみると、手数料は110円に(筆者撮影)
ゆうちょ銀行のATMで150円を硬貨で入金してみると、手数料は110円に(筆者撮影)

ほかの大手銀行の場合、「店舗内のATMで、平日のみ」といった条件付きながら無料で入金できることに比べると、ゆうちょ銀行の変更はかなり踏み込んだものという印象です。

実際に大手銀行のATMを試してみたところ、1回に投入できるのは100枚まで。何度も繰り返せばいくらでも入金できそうに思えますが、多数の硬貨を入れた後はじゃらじゃらと数える音がしてATMがしばらく使えなくなるなど、想像以上に時間がかかりました。

ほかの大手銀行のATMではまだ無料で預け入れ可能。ただし時間はかかる(筆者撮影)
ほかの大手銀行のATMではまだ無料で預け入れ可能。ただし時間はかかる(筆者撮影)

ゆうちょの「有料化」に対して、硬貨の受け取りが多い事業者や小銭貯金をしている人からは当然、不満の声が上がっているものの、その裏には「現金のコスト」という問題があります。

キャッシュレス導入の議論では、クレジットカードやスマホ決済には数パーセントの手数料がかかることが問題視されがちです。しかし現金なら「無料」というわけではなく、実際には1円単位で数えたり、釣り銭を用意したり、券売機やATMをメンテナンスしたりと、隠れたコストが発生しています。

この点について楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は、「現金のトランザクションコストは5%くらいかかっている」と指摘。キャッシュレスの先には、現金を取り扱わない「ゼロキャッシュ時代が来る」と語っています。

現金のコストについて語る三木谷氏(Rakuten Optimism 2021の動画より)
現金のコストについて語る三木谷氏(Rakuten Optimism 2021の動画より)

日本のキャッシュレス決済比率は2020年に約3割。2025年の目標である4割に向けて進んでいるものの、お店側からみれば現金を使う客はまだまだ多く、「現金をやめる」のは機会損失が大きすぎて現実的とはいえません。

しかし今回始まった「有料化」は、硬貨の取り扱いに悩まされてきたお店側だけでなく、一般の消費者にとっても現金のコストを実感する機会になります。キャッシュレスの増加だけでなく、現金利用の減少につながるか、注目といえるでしょう。

キャッシュレス化では「賃金上昇」にも期待

キャッシュレスにとって追い風になるもう1つの要素が、賃金上昇です。というのも、デジタルトランスフォーメーション(DX)やキャッシュレス導入の現場において、「人間のコストが安すぎる」ことが導入の妨げになっていたからです。

賃金が低くとどまっていると、どんな仕事でも「人を雇ったほうが安い」となりがちです。しかも日本の労働者は真面目で優秀なので、機械化や自動化によって省力化ができることが分かっていても採算が取れず、導入が進まないというわけです。

この点について、政府が賃金引き上げの方針を示しているのは追い風といえます。現金を数えるような非生産的な仕事は機械に任せることで、人間は接客や商品開発、例外的なケースへの対応など、人間が得意とする仕事により多くの時間を割けるようになるでしょう。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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